「アグー」といえば、今や食通で知らない人はいないほど全国にも知れ渡っている沖縄の在来豚です。
そのアグーが今、新たな可能性を模索しながら、食材としての魅力の幅を広げようとしています。棚原さんのリポートです。
脂がたっぷりと乗ったジューシーな味わいで人気を集める在来種の豚。それが「アグー」です。
GENオーナー・上江洲さん「沖縄の豚ですから、沖縄で食べる場所がどうしてもほしい。地元のものを地元で食べられないのもおかしいと」
アグー人気の火付け役になった那覇市内の焼肉屋さん「GEN」のオーナー・上江洲さんは、その存在が広く知られていない頃からアグーにこだわり、今では毎日大勢のお客さんでにぎわっています。
GENオーナー・上江洲さん「非常に稀有な豚が沖縄にいたと。沖縄の宝だと思います」
沖縄の宝、アグー。そんなアグーに思いを寄せる人が他にもいます。
「豚国(ぶたぐに)おきなわ」と題された一冊の本。去年発売され、話題になりました。
この本を書いたのは、元県中央食肉衛生検査所の所長、平川宗隆さん。現在は琉大の大学院に通い、豚ではなく、もう一つの専門、ヤギの博士号取得のために研究を続けている人です。
平川さん「本来黒豚っていうのは沖縄だったわけです。それが鹿児島に行って鹿児島のほうが有名になったわけですけれど、アグーの復権というのはそういう意味では頼もしいし、嬉しいですね」
肉質に優れたアグー。しかし以前は西洋種や雑種に比べ、出産する子豚の数が少ないことや成長の速度が遅いことから、次第に追いやられ絶滅の危機を迎えていました。
そんな時、名護博物館の元館長や北部農林高校の生徒の努力によって戻し交配に成功。今では県を代表する食のブランドとして大きく見直されています。
平川さん「ウチナーンチュにとって豚肉というのは切っても切れないというものだと」
豚との深〜い関わりを持つ沖縄ですが、実は平川さんが本を出したきっかけは、その関わりが危機を迎えているからだと言うのです。
平川さん)「(県内では)豚肉離れで豚の頭数が減ってきている」
県農林水産部のデータによると、平成元年に1200戸を数えた養豚業者ですが年々その数は減少。平成17年には349戸、およそ3分の1に減りました。
業者の高齢化や後継者不足。そして、地域の都市化によって匂いが気になる養豚の場所がなくなってきたことが主な理由です
平川さん「そのまま行くと沖縄から豚がいなくなってしまうという心配があった」「そこでもう一度豚を復活させようという意味も込めて本を出した」
絶滅の危機を乗り越え、人気上昇中のアグー。しかし、全体的な豚の数は減りつつある。そんな皮肉な現象が今、起きているのです。
人気のアグーの弱点とも言えるのが、出産数が低いことや成長速度が遅いこと。これにより希少価値が高いアグーの肉の値段も、普通の肉よりもお高め。
そこで、アグーの肉のうまみを残しながら、もっと安い食材として世に広めることはできないか。琉大農学部の新城教授はこれからのアグーの可能性について指摘します。
新城教授「F1の利用。いわゆるアグーと洋種との交配で、F1(掛け合わせ)を作って一般に販売しているということです」
アグーと洋種の掛け合わせによる新たな可能性を模索する試みはすでに行われています。
佐敷町にある知念さんのところでは「琉球豚しゃぶ」というネーミングで販売。ただ、まだまだ数が少ないことから、現在は限定的に販売しています。
アグーの肉の旨みを残しながら、経済的な安定供給を図る生産者にとっては一つの希望にもなっています。
知念さん「お店の肉にもうち(私)の顔写真をバックに貼って、お客さんにお出ししています」
そして、この「琉球豚しゃぶ」を扱う業者も期待をかけています。
能登の海・金城専務「安い値段で、皆様に消費をして頂きたい。これも一つの地産地消。沖縄の県産品を県内で消費していこうということで、今回取り組んでおります」
食の安全が叫ばれる現代にあって“生産者の顔が見える”県産豚肉の需要を増やす可能性は、ここにもありました。
在来種アグー。およそ600年にわたる沖縄と豚との関わりは、これからも長く続いていくのです。
平川さん「豚好きの県民のためにこのアグーの良さ、美味しさを皆に行き渡らせるような、そういう形で生産が進んで行けばいいなと思います」「大いに広がる可能性があると思いますし、また広げなくてはいけないと思います」
「鳴き声以外に捨てるところがない」といわれる豚肉。現在観光で沖縄を訪れる人たちからも人気だということで、新しい沖縄観光の食材としても魅力と可能性を含んでいるようです。