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沖縄県民の4人に1人が犠牲になったという壮絶な沖縄戦からことしで70年。集団的自衛権の行使容認や憲法を変えるなどの動きに、戦争を体験した人からは「まるで戦前のようだ」という声も聞かれます

きょうからスタートする「遠ざかる記憶、近づく足音」。あの沖縄戦からなにを学び、そして今をどう生きるべきか、考えていきたいと思います。

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

1回目のきょうは「戦争トラウマ」について。今もなお沖縄戦の記憶に苦む、ひとりの女性を追いました。

84才の内原つる子さん。一歩ずつ踏みしめるように、力強く歩くその姿からは、つい数年前まで歩けなかったことなど想像もできません。

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

内原つる子さん「両方です。ここが痛くて、だんだん上に上がっていく。そして耳が痛くなって、頭も痛くなる」

内原さんが足の痛みに襲われたのは30年前。痛みは日に日にひどくなりましたが、医者からは「原因不明」と言われ、ほぼ寝たきりの状態になってしまいました。しかし、ある精神科医との出会いが、内原さんの人生を変えたのです。

5年前、内原さんの足の痛みをひき起こしている原因は、沖縄戦で受けた「心の傷」と診断されたのです。

内原さん「死体を踏んだんですよ、私は。ああいうことを考えたらね、私は、これ(足の痛み)は戦争の天罰だと思っていました」

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

おととしの夏、南城市船越。内原さんは70年前の4月に南風原から逃げ、家族で身を潜めたという壕を探していました。

内原さん「間ちょっと見覚えがある。ここに逃げてきて」

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

知り合いの家族から「ご飯を食べにおいで」と誘われた内原さんは、身を潜めていた壕を出て、その家を訪ねました。

内原さん「(知り合いの一家は)みんな全滅でした。(Q:それも目の前で見たんですか?)こんなガジュマルがありますよね、そこに手やいろんな肉切れが垂れて、血もたらたら垂れて」

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

現在、70才以上の戦争体験者で、不眠症や体の痛み、悪夢をみるなどの症状がある人は、戦争トラウマの可能性があると言われています

3年前に行われた調査で、沖縄戦体験者401人のうち、戦争トラウマの可能性が高いとされたのは、およそ4割にものぼりました。

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

内原さんの現在の主治医・沖縄協同病院・小松知己先生「(トラウマ記憶は)実は時限爆弾のように、一応静まっているだけなんです。自分の老いだとか、自分の身近な方々が亡くなるとか、喪失の体験が出てくる。そうすると、それがひとつの引き金になって、寝ていたものが起きてくる」

戦後、長い歳月を経て診断された「戦争トラウマ」。

そうした戦争体験者たちのこころの傷は、戦後、社会的にも、医療現場でも、光が当てられることなく、置き去りにされてきました。

小松知己先生「私、日本の社会って、戦争のことにある意味ではきちんと向き合ってきていない国なんじゃないかと思うんです。そのことと(戦争トラウマ)密接に繋がっていると私は思う」

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

そんな戦争トラウマを今、内原さんは、自らの力で乗り越えようとしています。

内原さん「米兵が(防空壕の)周りをうろつくと、赤ちゃんの口にハンカチが押し込まれ、二度目はみるみる青ざめ、灰色になっていく。今でも赤ちゃんを見ると、あの時のことが蘇り、恐ろしくなります」

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

内原さんが夜も寝ずに、何度も書き直した原稿にはこんな言葉がありました。

『弾が雨にように落ちてくるのに、本来なら死ぬはずである者が、なぜ、生かされたのか』『沖縄の人々の人権が守られ、平和が一日も早く訪れるように、みんなが心をひとつにして立ち上がること』『それが唯一、私たちが孫子に残せる大事なことだと思うのです』

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

内原さんにとって、沖縄戦は今もまだ終わっていません。

内原さん「アメリカの飛行機が飛んでいくと、またこの飛行機でどっかの国の罪のない人たちが殺されてしまうだなと思います」

戦後70年を経た今も、沖縄の空を飛び交う戦闘機。そして戦争へと向かう、基地のある現状。

戦後70年 遠ざかる記憶近づく足音「戦争トラウマ」心の傷 今なお深く

戦争を知らない私たちに内原さんは、伝えたい言葉があります。

内原さん「やっぱりね、沖縄の現状をしっかりみて、日本の現状をしっかり見て、自分がどう生きるべきか正しい判断をしてほしい」

戦争を体験した人にとっては、その記憶がある限り戦争は続いているのだと痛感します。

必死の思いで絞り出すような彼らの声に、私たちはどう向きあい、未来にどう伝えてゆくか。戦後70年の1年をかけて考えていきたいと思います。