10月から障害者自立支援法が本格施行されていますが、先日、市から受給される介護時間数では人間らしい生活が送れないと、県に対して不服申請を行った重度の障害を持つ男性をニュースでもお伝えしました。申請のあとも生きる権利の獲得を求めた活動は続いています。障害者を取り巻く厳しい現状を追いました。
先月初め『ワタワタと共に障害者の生きる権利を勝ち取る会』が発足しました。ワタワタというのは、大城渉さんの愛称です。
渉さんは筋ジストロフィーの中でもドゥシャンヌ型と呼ばれる進行の速い重度の障害を抱えています。手足を自由に動かせず、就寝時も呼吸器の装着が欠かせない為、24時間に渡る介護が必要です。3年前までは施設で暮らしていましたが、地域の中で生きていきたいと、本人の強い希望で1人暮らしをしています。
しかし、名護市から渉さんに支給される介護給付時間は1日におよそ10時間。足りない分は借金で補っている現状。これでは生命の維持すら危ういとして、名護市に対して再三申し入れてきたものの、交渉にすら応じてもらえないことから、県に対して不服を申し入れることにしました。
岡島弁護士「障害者自立支援法が施行されて障害を持った人たちの状況というのは大変厳しいところに追いこまれている。そういう観点で見ていくと、特にこの大城渉君のこれから進めようとしている手続きというのは彼だけの問題ではないと私は理解している」
『このままでは、命の危険にもさらされる』。適切な介護時間を支給しないのは自立支援法の趣旨に反するもので、障害者の生きる権利の獲得の為に力を貸したいと、岡島弁護士をはじめ全国から14人の弁護士がボランティアで大城さんを支えることになりました。
そして、先月11日。県に対する不服申請が行われ、渉さんの置かれた厳しい現状と介護時間の見直しを求めました。
岡島弁護士「ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーの患者は、一般には20歳前後で死亡することも多いと言われています。彼は21歳、いつ不測の事態が起こってもおかしくない状況にあります。この現状を変えていかないと、このまま死んでくださいといっているようなものです」
大城渉さん「僕は何も贅沢したいわけではない。ただ、寝返りしたい時に寝返りができて、トイレに行きたい時にトイレが行ける。当たり前のことをやりたいだけ」
この日、県庁前広場では他人事ではないと50人余りの障害者や支援者がつめ掛け、道行く人々にビラの配布や支援を求めた署名活動を展開しました。
申し立てを受けて、県では今後不服審査会を開き、名護市の決定が妥当であるかどうか、3ヶ月以内に結論を出すことになっています。
県への不服申請と平行して、大城さんは名護市に対して新たな要請も行いました。
実は10月からの自立支援法、全面施行に伴って各市長村で開かれる審査会で、あらためて介護給付時間が決定されるため、ここでも渉さんの介護時間を見直すよう求めたものです。
しかし名護市からは財政的に厳しいという説明に加え、思わぬ答えが返ってきました。
名護市・宮城福祉部長「大城さんの件ついては今回の不服審査の決定がなされるまで、現状の維持でやっていこうと思います」
生命の維持をも脅かすような状況を一刻も早く打開したいと早急な見直しを求めているにも関わらず、県の不服審査の結果が出るまでは、名護市の審査は見送ると発言したのです。
岡島弁護士「不服申し立てが出たら9月29日にやらないなんて、めちゃくちゃです。まるで、不服申し立てをしたことを不利益に扱っているじゃないですか」
一時、名護市の職員が退席する場面もあり、話し合いは決裂するかと思われましたが・・・
宮城福祉部長「審査会にはからせていただきます。このことについて、現状維持ということは撤回をします」
名護市では先月29日、渉さんについても審査会を開催しましたが、結局、慎重な審議が必要だとして結論には至らず、今月19日に再度開かれることになっています。
当たり前の生活を送りたいという人間として当然の訴え。しかし、それを叶えるにはいくつもの課題が立ちはだかります。病気の進行は止められない中、時間だけが無常に過ぎていくのが現状です。
岡島弁護士「壁はそう簡単には開かないけども、命がかかる話だから頑張りましょう」
取材した障害者の中には、ただ普通に生きていきたいと介護給付を求めているだけなのに、審査会の結果を待つ間はまるで裁判の判決が下るのを待つ被告のようだと話す方もいました。
市町村も財政的に厳しいという現実はわかりますが、命を預かるという使命のもと、心で受け止めた対応が求められます。