一分足らずの判決の言い渡しに法廷には怒りの声が響きました。小泉前総理大臣の靖国神社参拝は憲法違反だとして、沖縄戦の遺族らが損害賠償を求めた沖縄靖国訴訟の控訴審で、福岡高裁那覇支部は一審の判決を支持し、原告全面敗訴の判決を言い渡しました。
この裁判は、小泉前総理大臣の靖国参拝によって人格権が侵害されたとして、沖縄戦の遺族ら80人が慰謝料を求めていて、裁判所が憲法判断にどれだけ踏み込むのかが注目されました。
きょうの判決で小林正明裁判長は「原告の沖縄戦の体験から靖国参拝に対し、怒りや憤りを感じていることは認められる」としながらも、参拝で不利益を受けた事実は認められず、信教の自由を侵害されてはいないと請求を退けました。また、参拝が公的行為か私的行為かや、憲法に違反するかどうかについても、「判断する必要性はない」と1審を支持しました。
三宅俊司弁護士「裁判所は門戸を開いている格好をとりながら、実態は門戸を完全に閉じてしまって、憲法判断、人権擁護の砦としての裁判所の本来の権限・責任をいっさい放棄してしまった」
金城 実原告団長「杓子定規のどこかで出たような判例をそのままコピーしたような判決」
原告団は、最高裁への上告を検討する方針です。
『実近記者です。この裁判、1審では沖縄戦の現場まで足をのばし、2審でも沖縄戦体験者の意見陳述があったんですが、声は届かなかったんでしょうか?』
沖縄靖国訴訟では、例えばこの援護法の問題も大きな特徴でした。援護法は国のために命を落とした人に対する補償制度で、県民の場合は軍人でなくても適用され、例えば集団自決した人までもが、国のために協力した、いわゆる英霊として無断で靖国に祭られていて、原告団は被害者が加害者と一緒に祭られる心の痛みを強く訴えていました。
『そんな原告の痛みについては「認められる」といったのに憲法判断は避けたんですか?』
全国の靖国訴訟では一審から最高裁まで、すでに14の判決が出ています。
争点は公務性、憲法判断、損害賠償ですが、損害賠償が認められた例はなく、参拝が公的なものか私的なものか、そして違憲性はどうなのかが問われてきていて、6つの判決で公務性を判断し、2つの判決で違憲の判断がなされています。
しかし、ことし6月の最高裁判決を含め、最近のほとんどの判決では、裁判は損害賠償を求めているのだから、損害賠償を認めるかどうかだけ判断すれば、違憲性や公務性は判断する必要がない、と判断を避ける傾向が強くなってきていて、今回もそれを踏襲するかたちになりました。
『上告するかどうかはどうでしょうか?』
原告らの本来の目的は裁判を通して、援護法などの沖縄戦の実相を明らかにすることでした。また、靖国のあり方に違和感をもつのは諸外国だけではないということも訴えたいという思いをあり、弁護士の一人はそれらの原点を考えれば、やはり上告すべきだろうと話していました。