Q+リポートです。いまから7年前、沖縄市で発生したアメリカ兵によるタクシー強盗傷害事件で、2人のアメリカ兵に対し裁判所は2800万円あまりの損害賠償の支払いを命じました。
個人に支払い能力がないため、アメリカ軍側は、200万円の示談金を提示していたもののその示談金を巡るやりとりのなかで、新たな問題が浮かび上がってきました。事件は2006年7月、沖縄市で発生。明け方、タクシーに乗り込んできた二人のアメリカ兵が突然、運転手の男性を絵羽交い絞めにし、現金およそ3万円の入った財布や、つり銭箱を奪い逃走しました。
裁判では、被告らに対し、懲役2年10か月の実刑判決と、およそ2800万円の損害賠償の支払いが命じられました。
日米地位協定では、アメリカ兵が公務外で起こした事件や事故の賠償は、兵士個人に支払い義務がありますが、兵士が経済的な理由で支払えない場合は被害者が防衛局に請求書を提出。防衛局が査定したうえでアメリカ軍に支払いを請求します。アメリカ軍これをさらに査定し「見舞金」という形で支払うことになっていますが、査定方法や基準は、一切明かされていません。
今回、アメリカ側が応じた見舞金は、およそ200万円。裁判所が命じた額のわずか7%でした。この事件を担当する新垣弁護士は、トラウマで仕事も出来ず、経済的に苦しんでいる被害者と相談し、示談書にサインしました。ところが・・・
新垣勉弁護士「実は、米軍の方からこの示談書では見舞金の支払いが出来ないと言って来ています。」
アメリカ軍側は、見舞金の200万円すら支払わないと言い出したのです。
沖縄防衛局「手続きが進められないのは、被害者側が、示談書の一部の文言を削除したためです」
新垣弁護士は、示談書にサインするにあたり次の文言を削除しました。「アメリカ政府から示談金を受け取るならば、日本政府に対しても今後、一切の請求も裁判も出来ない」という部分です。
新垣勉弁護士「アメリカ合衆国と被害者が示談をするのに、どうして日本政府に対する請求を放棄するのか。これは被害者救済に非常に重大な障害になる」
このような示談書は以前から使用されていて、およそ30年前、県内で起きたアメリカ兵による殺人事件の時には、国会でも問題にされていました。
瀬長亀次郎・1985年衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会「なぜ日本政府は免責なのか。こういったような示談書は示談書ではない、脅迫だ。」
新垣勉弁護士「今回示談契約書を見た時に、古い時代の示談契約書の文言がそのまま残っているもんですから、唖然としました。どうして日本政府に対する請求権を放棄するという条項をわざわざアメリカ側を入れるのか、ということは、日本政府からの要請がないと、普通はいれないのではないだろうか」
防衛省によりますと、過去5年間で、アメリカ軍が公務外の事件事故に対して行った支払いは、全国で57件、沖縄への支払いは27件です。SACO合意では、アメリカ軍の支払いが、日本の裁判所が命じた賠償金額に満たない場合、日本政府が差額金を支払う努力をすると書かれておるものの、義務とはされていません。
実は過去5年間をみても、日本政府が差額金を支払ったのは、全国で3件のみ。事件事故の多発する沖縄への支払い実績はないのです。新垣弁護士は、この示談書にサインすると、SACO合意に基づく差額金を請求することすら出来なくなるのではないかと心配して示談書の文言を削除したのでした。
新垣弁護士「(被害者は)米軍が提示した見舞金がどんなに低額でも、受け取らざるを得ない。受け取った時に一切の請求ができなくなるというのでは、とてもじゃないけど、被害者の真意に沿うものとはならない」
今回の事件では、依然として示談書は書いていませんが、今月21日に、日本政府から融資金が支払われました。しかし、日本政府への免責をなぜ、アメリカ軍が明記しているのか、多くの謎が残ったままです。QABでは先月からアメリカ軍に対して質問状を送っていますが、現在まで回答がありません。事件や事故を起こしたのがアメリカ兵であるがゆえに、被害者が、長期にわたり救済されることがなく、苦しめられ続ける現状は、早急に取り組むべき課題です。