癒しブームなどの新しい付加価値も加わり、沖縄観光の人気は依然手堅いものがあります。そんな中、介護が必要な高齢者や障害者の方にも観光を楽しんでもらおうと、新たな試みがスタートしました。
去年沖縄を訪れた観光客は、560万人余り(前年13万人増)。5年連続で過去最高を更新するなど、好調に推移しています。様々な人が訪れる中で、高齢者や体に障害を持った人も、年間30万人が訪れています。
仲井真知事「誰もが楽しめる優しい観光地」
今年2月、県は「観光バリアフリー」を宣言。バリアフリー化の促進に取り組むことを約束しました。これに呼応する形で、新しい人材を養成する講座が開かれました。それが「こうれい者・しょうがい者観光ケアサポーター」です。
親川さん「私達一人ひとりが、目の前にいる障害を持った方のために考えてあげたら良いんです。どうやったら楽なんだろうと」
この講座を主催したのは「バリアフリーネットワーク会議」の親川修さん。体の不自由な人を受け入れる体制を整えれば、沖縄が変わると言います。
親川さん「障害や高齢者の方でも安心して街を歩ける。自分の好きなところへ行ける。好きなものを食べれる。まずこういう環境を作れば、地元の人たちが喜ぶはずです。住んでいる人たちが人を招きたくなるような“うちの島は最高よ!遊びに来たらいいさ”というくらいになれば」
養成講座は10月から2ヶ月間、5回に分けて行われました。救急救命の方法に始まり、沖縄観光の基礎知識やサービス介助の仕方、障害の種別によっての接し方など、より具体的なプログラムがびっしり詰め込まれ、さらに実際に障害を持つ人が講師として指導にあたるなど、どこまでも実戦に即した講座となりました。
この中で、高齢者を擬似体験するプログラムでは、筋肉や関節の衰えを体感するために手足に重りをつけるなど、体の不自由な状態を作り出しました。相手の立場に立つことで、あらためて見えてくることを学ぶのです。
受講生「トイレの中で視野が狭くて、トイレットペーパーをとろうとしたら上においてあるペーパーを落としてしまったんです。それが見えなかったんです。全然」
この養成講座を親川さんと一緒に運営しているのが、サービス介助士の喜久里美也子さん。脳障害を持つ子どもの親達で作るNPO法人「脳文庫」の代表でもあります
喜久里さん「おはようございます!」
朝、娘の桃子さんを施設へ送り出したあと、脳文庫の活動が始まります。
喜久里さん「こんなに真面目に働いているのは桃子のおかげ以外はないですね。もっと人と知り合って、いろんなことを聞きたいって。娘のために何かないかなと、意欲的になったのは絶対確かですね」
メンバーの多くが障害を持つ子どもの親だからこそ、今回の「観光ケアサポーター」の必要性を感じています。
喜久里さん「(障害者や高齢者と)一緒にいらした方でも、沖縄に着いてから多種多様に家族も遊べて、お手伝いを私達が出来るんでしたら、どちらも楽しめる。私達も家族に(障害を持つ人が)いたり、身内にいたりしますので、自分達はお世話だけで(旅行に)行ったというだけじゃなく、行って誰かがちょっと見てくれている間に自分もちょっとお風呂にゆっくりは入れるなど、そういうのが本音でありますので」
養成講座最終日、受講者は最後のプログラム、介護する人を車やベッドへ移動する技術を学んだ後、初の観光ケアサポーターとしての認定証が11人に送られました。
受講生「介護施設や障害者施設などで働いてみたいなと思っていて、これから活用していきたいと思っています」「笑顔で出迎え、送り出しが出来るように、心のゆとりを持った観光ケアサポーターとして頑張ってみたいです」
さらに先月、親川さんや喜久里さんも出席する中、那覇空港に高齢者・障害者へ観光情報を提供するバリアフリーツアーセンターがオープンしました。
これによって観光ケアポーターへの仕事の依頼など、新たな雇用創出も期待されています。二人の試みは大きく動き出しました。これから先、どんな夢を描くのでしょうか。
親川さん「私の今の目標は、バリアフリーツアーセンターが3年から5年くらいで閉鎖すれば嬉しいですね。もうそんなものが必要でなく、普通にバリアフリーやユニバーサルデザインになっていれば、我々みたいなセンターは要らないわけです」
喜久里さん「地元の人にとっても素敵で魅力がいっぱい、住みやすい、また老いやすい。老いていくのに障害があっても素敵な県だって思うための一つの考え方だと思います。観光で沖縄県が良くなって、私達もそこで住めて、私たちの子ども達も安心して住めるという島に、皆でしていけば良いなと思います」
つい観光というと外から来るお客さんをもてなすことに頭がいってしまいますが、実は、沖縄で暮らす体の不自由な人やその家族がどこにでも安心して出かけられるようになることが理想なんですよね。
親川さん達は今後も講座を開いて、大勢の観光ケアサポーターを養成していくそうです。