今月は障害者雇用促進月間です。毎年この時期には、障害者の企業訪問や就職説明会などが行われていますが、障害者を取り巻く雇用環境は依然厳しいようです。そんな中、障害を持つ当事者たちが、社会参加する権利を守るための条例を作ろうとする動きがあります。
「障害のある人にとって権利が守られる社会は、障害のない全ての人にとって生きやすい住みよい社会だ。こういう思いで作っています」
全ての人が生きやすい社会を実現しようと呼びかけるのは、障害を持つ当事者や福祉関係者らでつくる「障害のある人もない人もいのち輝く条例作りの会」です。結成からおよそ3年。条例案の作成や行政への要請行動など地道な活動を続けてきました。
会の事務局長、長位鈴子さん。自身も車いすに乗る当事者です。
長位鈴子さん「私たちは施設ではなく、地域の中で生活したいとずっと思ってきた。障害のない人たちと共に生きていかないと」
新人職員らに呼びかけるのは、条例案の基本コンセプト「インクルーシブな社会」という理念。障害者の社会参加を促進し、多様な生き方を大切にしていこうという考え方です。
長位さんが代表を務める障害者自立支援センターの利用者たち。障害のない人を基準にした今の社会は生きにくいと話します。
米須いづみさん「交通手段とか、そこに行った時に階段がないかとか、そこから最初始まる」
国場正樹さん「(訓練学校)卒業しても本当に就職先もない。一般企業も面接すらしてくれない状況」
崎浜紀美さん「同年代の人と(養護)学校以外で遊んだ記憶がないんですよ。色んな人がいて当たり前の世界だったらなって思います」
『社会に参加したいのにできない』多くの障害者が抱える思いです。
条例案では「障害者への合理的配慮をしなければならない」とも謳っています。これは、障害者の社会参加を妨げる障壁を取り除いていこうという考え方です。
那覇市の県民広場。点字ブロックやスロープは「合理的配慮」のひとつ。会議や講演会などで、聴覚障害者が参加できるよう手話通訳や字幕スクリーンを設置するのも、全ての人に平等な機会を確保するためのもの。しかし、配慮には難しい面も。
棚原記者「こちらのバス、このように段差がなく、多くの障害者にとって利用がしやすいものになっていますが、一部では事情が異なるようです」
目が見えない人にとって必要な音声案内。ですが、妄想の症状がある人の中には「自分の悪口を言われている気がしてしまう」と不快に感じる人もいるのです。
また、このノンステップバスひとつを例にとってもその価格は通常のおよそ10倍。お金がかかることも事実です。
これらの問題をどのように調整していくか。条例作りの会の活動の成果もあり、県では条例の制定に向け、障害の当事者や識者、障害者の生活に密接に関わる事業者などで構成する県民会議を今月中に設置する方針です。
県福祉保健部・里村浩参事「県民の皆さまの幅広い意見を伺うということを目的に、開催することとしています」
県民会議では、障害者が「生きにくい」と感じる事例について、解決するための方法を県民全体で話し合い、理解を深めることが重要だといいます。
県福祉保健部・里村浩参事「そうしないと、実効性というか、せっかく条文はできても果たして社会がその通り動いてくれるかどうか。本当に障害者への差別がなくなるのかどうか。そこが大事だと思っています」
17年前、交通事故によって中途障害者となった国場さん。条例の考え方は、今は障害や心身の衰えがない人にもメリットがあると強調します。
国場さん「どういう人でも使える状態。どういう人でも働ける環境。教育を受けられる環境を作っておけば、みんなが困らないで済む」
県民会議は、全ての人の最大公約数を探る機会だという長位さんは話すします。
長位さん「今は何もない状態だから大変ってなるかもしれないけど、みんなの意識が変わっていったら、そんなに大変じゃないかもしれない。今話していることも10年後には普通になってたりするわけよね」
障害者に関する条例は、全国で5カ所の県や市などで制定されているということですが、障害を持つ当事者が中心になって進めているのは、沖縄県が初めてだということで、その分充実した内容になることが期待されています。
条例作りの会の条例案では、東日本大震災を受けて、災害弱者を守るための条文を追加したということですが、不発弾など沖縄独特の問題にも対応できる条例にしたいと話していました。