中村アナウンサー「QABではこれまで、自衛隊配備の問題を「沖縄と自衛隊」で取り上げてきましたが、今回から「『有事』の果てに」と題して、有事や国際関係など含めて、沖縄やその周辺でいま、起きていることについて考えていきたいと思います。」
金城アナウンサー「今回は、台湾での有事を想定したシミュレーションについてお伝えします。アメリカの有力シンクタンクが2023年1月に出した台湾有事に関するレポートは、台湾と中国、日本やアメリカなど各国や軍の動きを詳細に分析し、注目されました。執筆者に現状分析や見解を聞きました。」
マーク・カンシアン氏「中国はアメリカ軍基地、自衛隊の基地に」「何百発もミサイルを撃ち込むでしょう」
そう語るのは、アメリカ・ワシントンの有力シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)のマーク・カンシアン氏。
カンシアン氏が記したのは、2023年1月に発表されたレポート「次の戦争の最初の戦い」。台湾有事におけるアメリカ軍や自衛隊と中国軍の戦闘を詳細にシミュレーションしたものです。おおむねの場合で中国の台湾進攻は失敗する一方、中国、アメリカ、日本いずれも多くの艦艇や航空機を失うと分析されています。

用いたのは「ウォーゲーム」という手法。極東地域の地図の上で航空部隊や艦隊のコマを動かし、有事で中国と台湾、アメリカや日本などの同盟国の部隊がどのように戦闘を行うか、詳細に分析してきました。
マーク・カンシアン氏「日本が基地を使わせない想定のゲームでは敗北しました」「米国はグアムやオーストラリアからミサイルや爆撃機を飛ばさざるをえません」「日本の基地は絶対に必要です」

台湾を防衛するための条件の一つに挙げられているのが、台湾有事での、在日アメリカ軍基地の使用です。
玉城知事 2023年「台湾有事が起こるということになると、米国と日本がもし関わるようになり、中国との戦闘状態に巻き込まれたら日本全体がターゲットになることは間違いありません」
日本が台湾有事に関わることに懸念もある中で、カンシアン氏がやり取りした日本の関係者は、基地の使用についてこう語ったといいます。

マーク・カンシアン氏「日本の高官や民間人、自衛官とも話をしましたが」「彼らは日本が米国に基地使用を認めるという強い意志もっています」「一つはもし基地使用を認めなければ、70年続いた安保体制が破棄されるということで」「もう一つはそれが無難な方法と言えるからです」
ワシントンを訪れる日本関係訪問者の多くは、このウォーゲームについて関心を持っているといいます。その理由をこう分析します。
マーク・カンシアン氏「日本でこれほど関心を集めたのは、戦争と平和についての決定が、東京ではなく、ワシントンと北京の間で行なわれる可能性を認識しているからだと思います」「中国が日本の基地を攻撃すると決めたら、攻撃がアメリカ軍に対するものでも、日本自身は何ら決定をしないまま、戦争に巻き込まれることになるのです」

マーク・カンシアン氏「ここが沖縄です。嘉手納基地には日米の部隊います」「沖縄には前進する候補の海兵隊部隊が2つあります」「重要なのは、自衛隊とともに戦争が始まる前に移動することです」「一度戦争がはじまると、中国の強力な海軍・空軍の前に移動が不可能になります」
ウォーゲームでの想定に近い形で、最近、自衛隊とアメリカ軍は有事発生前の離島への展開を想定し、民間空港や港を使った訓練を繰り返しています。

マーク・カンシアン氏「琉球諸島と台湾がいかに近いかがわかるでしょう」「与那国、ここまで日本の領土です」「与那国島を重視しているのは、台湾に近い大きな島だからです」「自衛隊や米軍の作戦にとって、優れた基盤になるでしょう」「日本の領土なので、国際協定に違反せず日米が部隊を置くことが出来ます」
ゲームでは台湾に上陸した中国軍と、防衛側の台湾軍の戦闘状況も検討されています。
その中で想定されているのは…
マーク・カンシアン氏「一部の部隊は核兵器を使う可能性があります。戦場での核兵器使用で重要なのは、大量に使う必要があることです」

アメリカの有力シンクタンクCSISが行った台湾有事のシミュレーションでは、核兵器が用いられる想定もされたといいます。
マーク・カンシアン氏「15回、核兵器を使ったウォーゲームを行ないました。双方が核兵器を使う選択肢を持っているということです」
シンクタンクのカンシアン氏は、中国軍が台湾上陸後に核兵器を使う一つのシナリオを説明します。
マーク・カンシアン氏「時間が経ち、物資が減るにつれ、台湾軍は彼らを押し戻し、最終的には海に押し返されるでしょう。中国は台湾でとらえられた何万もの捕虜が、台北の街を行進させられることになります」「その光景は、中国共産党の正当性を損ねることにもなるでしょう」「中国軍が前進できず、敗北に直面した時が重要です」「中国が核兵器を使うなら、大量に使うことになります」「戦術的な観点から言えば、核を1発使っても大した効果がないからです」

想定されている死傷者は、アメリカ軍が数千人、日米も中国側も数百の艦艇や航空機を失うとされています。その一方で、民間への被害の想定についてカンシアン氏は語ります。
マーク・カンシアン氏「(民間人の被害の)被害は想定していないません。軍隊だけです」「算出について確信がありませんでした。攻撃の大半は軍事基地に対するもので、民間人の被害は比較的少ないでしょうが、それ以上は断言出来ません」
いま、日本政府が台湾有事を念頭に進めている先島地域の住民およそ12万人の九州への避難計画。九州各県では受け入れの計画も策定され始めています。軍隊の動きは緻密にシミュレートしたウォーゲームでも避難計画の想定はされませんでしたが、カンシアン氏は、民間人の避難について、こう説明しました。

マーク・カンシアン氏「避難は想定していません。銃撃戦が始まる前なら容易だと思います」「銃撃が始まれば日本は中国と非戦闘員の乗る飛行機や船に印をつけることに合意する必要があります」「戦時に誤りは常に起きます」「代替策は、島の安全な場所に避難することです」「中国軍は島全体を爆撃せず、軍事目標を探します」「軍隊からは離れることです」「作戦が行われる場所から離れ、山にある小屋で2週間ほど耐えればよいでしょう」「そうすれば住民は大丈夫です」

金城アナウンサー「ここからは現地で取材した塚崎記者です。核兵器の使用という状況も含めて、衝撃的なシミュレーションが行われていましたが、改めて、どのようにこの状況を捉えればよいのでしょうか。」
塚崎記者「これまで「台湾有事」について漠然と捉えてきましたが、各国や軍隊の動きも含めて、どういうことが想定されているのか、具体的にイメージすることができました。」
「一方で、住民の存在がほとんどないものとして、議論や想定は行われていて、日本政府やアメリカ政府の方針にも反映されていると感じました。今回、カンシアン氏がレポートで記した台湾有事の状況は、有事では攻撃対象になる基地と隣り合わせで暮らしている私たちにとっては、素直には受け入れがたいことです。そうではあっても「台湾有事」に関して、ワシントンや東京でどういったことが議論され、政策が作られているのか。まずはその詳細を知り、分析することが住民の視点での議論をしていくためにも不可欠だと考えています。」
金城アナウンサー「具体的に考えれば考えるほど、私たちの命はどうなるんだろうと疑問が出てきますけれども、一度戦争が起きてしまうと民間人が巻き込まれてしまうというのは戦争体験者の話からも明らかで納得できませんよね。」
中村アナウンサー「番組でもお伝えしている戦争体験者の生々しい証言にあてはめて考えたときに、あまりにも命を守る想定がされていないこと、そして、被害の想定がないということに驚きますよね。」
ここまで塚崎記者でした。