2008年に発生した、アメリカ軍関係者による強盗致傷事件。この事件で、日米が交わした「見舞金」制度をめぐり被害者の家族が翻ろうされ続けています。
2008年1月、沖縄市でタクシーに客として乗っていたアメリカ兵2人が、乗務員の宇良宗一さんを襲い、運賃を支払わずに逃走する強盗傷害事件を起こしました。宗一さんは、事件後、PTSD・心的外傷後ストレス障害と診断され仕事復帰ができず苦しみながら、事件から4年後ガンで亡くなりました。
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アメリカ側が宇良さんの家族に対して示談金としておよそ150万円を支払うとしたのは事件から9年後、代わりに加害者の免責を要求してきたことなどから家族は「正当な補償」を求めて提訴しました。
その後、裁判所が被害者に対しておよそ2600万円を支払うよう命じる判決を出し補償額が確定します。アメリカ側は示談金のおよそ150万円しか支払わないため、残りの補償額を国が肩代わりする制度「SACO見舞金」で対応することになりました。
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しかし、2019年に国が申請書で提示した金額には、補償額が確定するまでにかかった利息「遅延損害金」のおよそ900万円が含まれず、宇良さんの息子の宗之さんは、この内容では、受け入れることができないとして、「遅延損害金」を含む支払いを求める新たな裁判を起こしました。
去年12月、最高裁は「SACO見舞金を支給する合意が成立しておらず、支給を受ける権利を有していない」として訴えを退けますが、ある裁判官が「意見」を示しています。
「SACO見舞金制度は、加害者に対する免責を条件とするアメリカ政府の支払いと確定判決などの額との差額を補てんするものである以上、遅延損害金を対象から除外することは、必然的に、当該司法判断に基づく正当な権利の実現を損なうことになる」
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さらに「公平かつ公正な被害者救済の理念に反する」と指摘しています。
宇良宗之さん「僕が今まで主張してきたことが正しかったんだなと認識している」
この判決が出されたあと、国会でも追及される場面がありました。
山添拓参議院議員「わざわざ防衛局長通知で遅延損害金を払わないことにしたとしたんでしょうか?」
防衛省 田中利則地方協力局長「直接の被害に当たらず支払いの対象とは致しておりません」
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山添拓参議院議員「日本政府は900万円の遅延損害金を払わないと、これで本当に適切に補償されていると言えますか?改善必要じゃありませんか?」
岩屋外務大臣「先ほど申し上げた制度に基づいて被害者が適切に救済されるよう取り組んでまいります」
一方、宇良さんの家族のもとには、防衛局から5年前と変わらない内容の申請書が届いていました。
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宇良宗之さん「(今後別の人が同じように)最高裁までいくとか、そういうのはしてほしくないんですよ、だからこそ制度の在り方を直してほしい見直してほしいんですよ」「もう少し分かりやすい制度にした方がいいと思うんですよ」
アメリカ軍関係者が起こした犯罪によって被害関係者に十分な救済がされているのか?改めて、問われています。
事件から17年経った今も補償について被害関係者が納得できない現状があることが、改めて浮き彫りなりました。ここからは、取材をしている濱元記者です。
濱元さん、こんなに時間がかかっている背景には、どのような要因があるのか?
1「手続きの煩雑と時間がかかること」
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濱元記者「そもそも、アメリカ軍関係者が加害者となる公務外の事件について、被害関係者が補償を受けるまでに「時間がかかる」ことが挙げられます。日米地位協定では、加害者が補償金を支払うことができない場合、アメリカ政府が支払うことになりますが、その提示された額に「同意できない」場合は、被害関係者が、補償額を確定させるための裁判を起こす必要があります」
「今回の宇良さんのケースでは、事件発生から、結果的に「10年」の時間がかかっています」
「この点について、宇良さんの家族の代理人の弁護士は、次のように述べてます」
日高弁護士「9年前、10年前にきちんとした補償がされていれば何も問題がなかったものがずっと放置されている」
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日米が長い時間、補償を放置している印象は否めないですね。そして、裁判で、補償額が確定したにも関わらず、未だ被害関係者に救済が行われていない理由は何があるのか?
2「SACO見舞金「国」の判断が」
濱元記者「裁判所が提示した補償額に対して、アメリカ側の支払いが満たされていない場合、日本側が必要に応じて差額を支給する制度があります。それが「SACO見舞金」です」
「宇良さんの家族が、この制度を申請すると、国は補償額が確定するまでにかかった利息「遅延損害金」の支払いを拒否しました。そのため、宇良さんの家族は、「遅延損害金」を含めた金額を支払うよう裁判を起こしました」
しかし裁判は、宇良さんの家族の敗訴となりました。なぜ、主張が認められなかったのでしょう?
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3「裁判は「敗訴」しかし「制度不備」を指摘」
濱元記者「去年12月の最高裁判決では、「SACO見舞金を支給する合意が成立しておらず、支給を受ける権利を有していない」ことを理由に家族の訴えを退けました。しかし判決には、裁判官の「意見」が示されていました。」
「この裁判で、裁判長を務めた三浦守(みうら・まもる)判事です。まず「SACO見舞金制度」について「遅延損害金を対象から除外することは、必然的に当該司法判断に基づく正当な権利の実現を損なうことになる」と述べています」
「つまり「遅延損害金」を含めるべきであると示してます」
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「また、補償額が確定しているにも関わらず、被害関係者に救済が行われていないことについて「公権力が司法判断の意義を損なう取り扱い」だとして「公平かつ公正な被害者救済の理念に反する」と指摘してます」
「そして、沖縄の基地負担に言及する部分では「住民の負担を真に軽減することは、国政の重要な課題」と述べています。」
この点について、宇良さんの家族の代理人の弁護士は、次のように述べてます。
日高弁護士「被害者に遅延損害金っていう法律上認められた権利の実現を、諦めなさいという制度になってしまうそれは、おかしいでしょ?というやっぱり、ちゃんととSACO見舞金では遅延損害金まで含むのが正しいと言ってくれたわけです」
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濱元記者「しかし国は、このような判決が出ているにも関わらず、国会での答弁で「主張が認められた」と述べるだけで、制度の見直しについては具体的な発言はしていません」
石破総理は去年、総裁選で那覇で講演会を行った際、「日米地位協定の見直しに着手する」と発言しています。被害関係者の救済方法も含めて、国には対応が求められています。
ここまで、濱元記者でした。