シリーズでお伝えしている沖縄と自衛隊です。今回は今から17年前の2007年、与那国島にアメリカ軍の掃海艦が寄港した出来事です。沖縄の復帰後で初めてとなった民間の港への軍艦の寄港。当時のアメリカ総領事は、台湾有事も見据えた港の利用を、見据えていたと強調します。
当時よりも台湾有事について盛んに議論されている今、アメリカで、元領事に認識を聞きました。
ケビン・メア氏「具体的な計画はなかった。例えばこの港を台湾有事であれば、どう使うという計画はなかったけど」「もちろん頭の中で、台湾有事であれば与那国が一番台湾から近い島ですから。110キロしかなくてすごく近い」「もちろん重要な港ではないかと考えていました」
こう語るのは、在沖縄のアメリカ総領事を務めたケビン・メア氏。2007年。与那国島への掃海艦寄港では、関係各所との調整を行っていました。
仲井真知事(当時)「米軍用の寄港の港というのはちゃんと決まっていますから、本来そこを使用すべきであって、民間の目的に応じて造られている港は使用すべきでない。本来、自粛すべきだと考えております」
与那国町・外間町長(当時)「隣(台湾)をできるだけ刺激してほしくない。今の友好関係に水を差すようなことはやめてもらいたいというのが大方、町民の意見だと思います」
復帰後で初めてとなる、民間の港への軍艦寄港。2007年6月、強行する形で、寄港が行われました。
当時のQABニュース音声 記者「市民団体や労働組合が反対する中、今、アメリカ海軍の掃海艦が祖納港に入ってきました」
記者「与那国島では、島民が港のそばに設置した入港反対と賛成の2つの横断幕が象徴するように、初めての軍艦の入港に対して意見が割れていました」
反対町民「自分の仕事のことが一番心配。今まで行ってた(漁場の)ポイントにいけなくなるっていうのも出てくるか分からないし、一番きついよ。それは」
賛成町民「来ても僕は賛成だね。戦争が起きる訳でもないし。今の世の中、過去のあれまで引きずっていたら生きられないよ」
デモス艦長「乗組員は島の人達との交流を非常に楽しみにしている」
記者「表向きには島の人たちとの友好親善と乗組員の休養が目的とするアメリカ海軍。しかし、メア総領事は、台湾有事などを睨んだ情報収集も兼ねていることを認めます」
メア総領事(当時)「もちろん、しばらく入っていない港に入る時、間接的に情報が入る。それは常識だと思いますよ」
あれから17年。メア氏は当時をこのように振り返ります。
ケビン・メア氏「中国が挑発的になっている。そんなに時間の余裕がない。私が(米総領事で)いる間に与那国と石垣に寄港したいと考えていた。2006年の夏から考えていた」「中国に対する有事があれば南西諸島と台湾は同じ戦域になる」「有事にならないよう、中国に対する日米が防衛能力を示す必要がある。それは不可欠。平和を守るために不可欠です」「中国が日本と台湾の間に国境線を引いて、東側にいかないという考え方は現実的ではないと思います。軍事行動・運用上の面から見ると」
当初から台湾有事が念頭にあったというメア氏。その背景には、日米の戦略文書もあったといいます。
ケビン・メア氏「2005年の2月に、共同戦略目標という2+2の共同宣言で初めて中国という名前が出ました」「その時は敏感でした。(日米の文書に)中国とはっきり書くこと」「米国と中国の関係も敏感な時期であったし、(掃海艦の寄港について)ワシントンと調整しました」「でも反発がなかった。ネグロポンテ(当時・国務副長官)さんから」
一方、長年沖縄の基地問題を見つめてきた国際政治学者の我部政明・琉球大学名誉教授。当時の米軍の意図を、こう分析します。
我部政明・琉球大学名誉教授「日本の基地がどれほど使えるか試していた時期じゃないのかな」「その一環として与那国もという話になったとおもう。翌年は石垣でしょう」「四国・九州・北海道ふくめて、米艦船の寄港が頻発化している時期」「ブッシュ政権からテロとの戦いというものだけに、関わっていてはまずいと」「米軍基地のあるところがどれだけ動けるか、さぐる必要があったんでしょうね」
先島ではその後、自衛隊の駐屯地が置かれ、アメリカ軍も訓練を行うようになりました。
我部政明・琉球大学名誉教授「(日米が)先島で演習をやっていることを考えれば、張子の虎、相手が過大評価してくれるものでいいわけだ」「いろんな作戦計画を作っていると思うけど、そこに民間人はいないことになっているはず」「いたとしてもすぐに避難させていなくなるというのが初期段階で盛り込まれているだけで」
「(有事が)長期化すれば戻ってこない人も増えてくる」「住民のいない島ができて、まさに軍事的には自由に展開できる状態が出来上がる」「そこで暮らしている人を追い立てる。土地から切り離す根拠づけにもなっている」「本来は国民を守ると言いながら国民を苦しめている」
メア氏は、アメリカ軍が先島で存在感を増しつつある現状を、こう見ています。
ケビン・メア氏「(今年3月)イージス艦が石垣に寄港した。歓迎しました。個人的に。中国に対するいいメッセージになると思います。日米が協力して先島を守る覚悟が示せたと思う」「台湾に関する有事があれば、尖閣諸島での中国との衝突」「先島の港、滑走路、もちろん役に立ちますよ」「米軍の新しい施設を造る考え方は全くないと思います米政府は」「ローテーションの形で先島で米軍と自衛隊。共同訓練をする必要があると思います」「17年前、2007年に与那国に米艦船が寄港したときに比べると、沖縄の役割はますます重要になっていると思います。中国の動きを考えると」
記者「3年以内に普天間基地を閉鎖させるのは実現可能だと思いますか」ケビン・メア氏「可能性は非常に低いと思います。不可能だといえると思います」
沖縄の総領事に在任中、取材のほか、異例ともいえる記者会見を開く中で、基地問題について様々な見解を述べてきたメア氏。ときには「暴言」や「失言」と評されることもありましたが、真意をこう語ります。
ケビン・メア氏「県民・国民の安全保障に対する理解を高めるために話した。失言じゃない」「(当時)日米関係が進歩していたけれど、米側のフラストレーション感じていたことは。なぜ日本政府は国民になぜ米軍のプレゼンスが必要か。直接説明しない」「だから日本政府が説明しないなら、私が説明するしかないと、シーファー(当時の駐日米)大使とも思ってた」「日本の自衛隊のプレゼンスを沖縄県で増やす必要があると思います」「前線ですから、中国に対する」「負担軽減の計画も進めないといけない。同時に。だから複雑」
我部政明・琉球大学名誉教授「民間人はどうするんですかと」「多くの民間人は軍隊が来ると、どこかへ行かされるのではと」「戦争になれば、土地から引きはがされるという不安があるんでしょうね」「今なんとか暮らしているじゃない。この土地で」「土地から切り離された時に、困るでしょう。いろんなものがないでしょう。生活基盤」「東京とワシントンの話よりも、今ここで困っている。自分たちの生活に支障が出てきている。出るかもしれないことに改善すべきと声を上げないと聞いてくれない。知らないかもしれないし、知る由もないかもしれない。原因を生み出している側には」
塚崎記者「県民の反発を生んできたメア氏の発言の数々は、ある意味で日米両政府の本音を表していたといえます」「政府がことあるごとに繰り返す、丁寧な説明、という言葉」「防衛力の強化を進めたい政府が、県民にどのように向き合っているのか」「改めて、注意する必要があります」