今月23日は、慰霊の日です。沖縄戦の記憶を次の世代につなぐため、戦争を知らない世代がつくる「平和劇」で去年、劇のモデルとなった体験者から厳しい評価を受けた劇団が今年、新たな挑戦に臨みました。
降りしきる雨、過去の凄惨な記憶を今に残す原爆ドームがある広島。そこに、沖縄戦の実相を「平和劇」で伝えるメンバーの姿がありました。
広島県での初公演を前に、現場では、入念なリハーサルが行われていました。彼らの真剣な表情のワケ、それは去年、劇に対する厳しい指摘を受けたことでした。
大城勇一さん「率直に言って、がっかりしました。直接観客に訴えるものがなかった。」
この劇は、沖縄戦当時11歳だった大城勇一さんの話をもとにつくられていて、完成した劇を見た大城さんがメンバーに伝えたのは、その「違和感」でした。
大城勇一さん「我々は戦争で死んでいる人を見ても、かわいそうということは全然なかった。なぜかというと、自分たちも死ぬ運命にあるからだという気持ちだから、そういう気持ちなんかもう湧いてこないんだ。」
永田健作さん「ショックだったというのが最初の印象。今の脚本をより深く理解する。当時の人たちの苦しみだったり悲しみをもっと解像度を高く理解して、表現できるように勉強していこうとみんなで話し合いました」
沖縄戦の実相をもっと学ぶ必要があると感じた彼らは、4月に佐喜眞美術館を訪れるなど、当時の県民が味わった恐怖と苦しみに迫る努力を続けています。
そんな劇団が今年、新たに挑んだのが、広島や長崎など計4カ所を巡る全国ツアーです。
県外の団体とのつながりもないなか、一から手探りで挑戦した広島での公演には多くの人が訪れ、なかには、同じ非戦の思いを持った原爆被害者の会のメンバーの姿もありました。
来場者の女性「(戦争の歴史は)沖縄もあまり知られていないけど、広島も他府県からみたらあまり知られていない。そこがまず行動を起こして広めていく必要があるなと思いました」
広島市原爆被害者の会 久保田修司さん「戦争というものが人間性を失わせてしまう(と感じた)。未来の子どもたちに『なんでこんなことになったの?』と言われないように、いま私たちがしていかないといけないことは、たくさんあるのではないかなと思いますね」
沖縄の地上戦と広島への原爆投下。あの戦争で失った多くの命を知ることで「平和」への思いを新たにする。観客にそのメッセージが届いたと、彼らは少しほっとした様子を見せました。
平和劇を演じる仲間千尋さん「戦争に対してや平和に対しての思いというのは同じなんだなと感じた。あの時代のことを経験していない私たちが伝えらるのかっていう葛藤と戦いながらやっていはいるんですけど、それでもやることに意味があるんだなということを改めて実感しました。」
平和劇を手がける永田健作さん「ぼくも含めて(役者の)彼らと一緒に県外公演で過ごしてきた時間が、特に意識しなくても違いとして出てくると思うので、それを沖縄の方々に見て頂けたら」
体験者から様々な言葉を受け、全国公演を経たこの夏、彼らの演じる「平和劇」がどのような物語を描くのか。今、注目が集まっています。
平和劇の最終公演は今月23日の慰霊の日に、那覇市のぶんかテンブス館で行われます。入場は無料です。また劇団では、一年を通して「平和劇」を上演するため、今月30日までクラウドファンディングで協力を募っています。詳細は「平和劇 クラウドファンディング」で検索して下さい。