政府が南西シフトとして進める自衛隊配備、有事の問題などを考える「沖縄と自衛隊」。うるま市の自衛隊訓練場計画を取り上げます。石川地域では自治会などが計画に反対したほか、県や市も白紙撤回を求めるようになりました。これまでの自衛隊配備計画の中でもとりわけ強い反発が生じているようにも見えますが、要因は何なのか検証します。
先月の20日、うるま市の石川会館で行われた訓練場建設に反対する市民集会。およそ千人収容のホールに入りきれないほどの人が集まり、親子連れや若者、お年寄りなどあらゆる世代が参加しました。
参加者「私が小学校1年の時に(宮森小の)ジェット機墜落事故も体験している。やはりそれがあると不安な部分、いまでも不安は抱えています」「戦争は嫌なので。それに加担する基地は反対」
政府が南西シフトで自衛隊配備を進めてきた中、なぜ、今回の計画は強い反発を生んだのでしょうか。
うるま市旭区・石川修自治会長「うるま市石川東山ゴルフ場跡地への陸上自衛隊訓練場整備計画を撤回することを強く要請します」
計画の報道を受けてまず動いたのは、建設予定地に隣接する地域の住民たちでした。予定地は住宅地や「石川青少年の家」に隣接しています。異議申し立ては、徐々に地域全体に広がっていきます。
対する防衛省側。住民に説明した設置理由は、那覇駐屯地の陸自第15旅団の師団格上げに伴う、「訓練場の不足」でした。15旅団の増強はおととし政府が閣議決定した安全保障関連3文書で打ち出されました。
国側担当者「訓練場を使わせていただいて、自衛隊の部隊の練度を維持させていただきたい」
住民「こんなにも、一杯米軍基地がある中でまた、自衛隊が基地を増やす。防衛局は何を考えているのでしょうか」
住民「いつも一方的に(基地を)造ると言われて。アギジャビヨといっても許してもらえない。この気持ち、ウチナーンチュだったら分かりますよね」
アメリカ軍基地を抱える本島中部地区。いまある基地が減らない中で、今回の計画が浮上した形になります。住民の訴えに防衛省側は、安全保障環境を理由に必要性を繰り返すだけでした。地元の声は、政治も動かし始めます。
玉城知事「地元の皆様の意向を尊重してほしいということについて、(木原防衛大臣に)しっかり申し入れをしたい」
中村うるま市長「さらなる対応、紳士的に対応していただきたいと再度、申し上げた」
一方、沖縄本島を訪問した木原防衛大臣。
木原防衛大臣「さらなる検討を行うこととしまして、私から事務方に指示を出した」
うるま市長などの要請を受けたことを挙げて、木原大臣は、再検討を明言しました。
中村うるま市長「住民の合意形成、理解を得ることは大変厳しい状況であることから、整備計画を白紙撤回していただくよう、要請をいたします」
島袋自民党県連幹事長「自民党県連としても白紙撤回、ゴルフ場跡地については配備計画は断念、白紙撤回してほしいと(防衛大臣に)申し入れた」
この間、中村うるま市長や自民党県連も白紙撤回を要請したほか、市民グループや県議会も、防衛省に申し入れをしました。
木原防衛大臣「事業につきましては、現時点において昨日お認めいただいた土地取得を含めて計画を白紙にするとの考えはない」
ただ、国は再検討の結果に言及しないまま、土地取得費を含んだ予算を成立させています。今回の訓練場計画は、なぜこれまでにない反発を生んだのでしょうか。中京大学の佐道明広教授は、複合的な要素を指摘します。
佐道教授「台湾有事が声高に言われている状況。基地ができるという意味というものを、保守・革新と問わずに、意識せずにいられない状況になっているのでは。岐阜で訓練施設で射撃訓練の時に3人の方が死傷するという事件も起きましたし、そういうことは住民の方々の頭にある。今年は県議会選挙もある。選挙が近いということも、住民の気持ち・意思を上げやすい状況になっている」
佐道教授は住民の、アメリカ軍と自衛隊に対する視線の差についても言及します。
佐道教授「訓練場ができる、そういう現実が突き付けられて住民の人たちもはっきり問題というか、自衛隊基地が身近にあることの意味を考え始めたということではないか。72年に(本土復帰に伴って)自衛隊が入ってきたときは、同じ軍隊だと反対は多かった。自衛隊は米軍のように多くの事件・事故を起こすということではなく、住民の利益になる、不発弾処理や急患搬送、変な言い方だが沖縄県に寄り添う形でやってきた。ところが台湾有事・中国の脅威と語られるようになり、自衛隊と米軍の合同訓練が今どんどん進んでいるが戦う組織としての自衛隊という面が非常に強く出てきている。ですから、自衛隊はいざというときに助けてくれるというだけでなく、実は戦う存在なのだと。そこに自分たちも巻き込まれる可能性があるということを改めて認識するようになったのでは」
国が南西シフトを進める中、地域ぐるみで、反対の声が高まる石川の訓練場計画。自衛隊の強化を、県民全体で、当事者意識を持って考えられるかが、問われています。
高校生代表「国や地方の行政機関は憲法に基づき、計画を策定し、国民に適切な情報公開と説明、住民との対話を経て実行すべき。そうでなければ、うるま市訓練場整備計画が断念されたとしても、またほかの場所で同じ問題が起こり、問題の本質的解決にはならない」
うるま市石川の訓練場計画がなくなっても、県内でたらいまわしされる状況になれば、意味はあるのでしょうか。この訓練場がそもそも必要なものなのか、検証が必要だと思います。
沖縄本島での計画が明らかになりましたが、先島での配備も含めて、自衛隊の南西シフトについて改めて私たちが考えなければならない時期に来ている気がします。