これまで学校や個人、自治体での環境問題への取り組みを紹介してきましたが、今回は「企業の取り組み」についてリポートします。
大量生産を行う企業が資源の有効利用や二酸化炭素削減を図ることは、環境を守る点で大きな意味があります。ポイントは「どこに着目するか」。大手企業や県内企業の現状を取材しました。
ジャンボ機が成田空港に着陸しました。これは日本航空の貨物専用機ですが、機体は銀色の無塗装。本来は白い機体のはずですが、なぜ塗装しないのでしょうか。
日本航空成田広報室・島田信行室長「無塗装にする事により、ジャンボジェットで塗装の重さが約150キロ軽くなります。これにより燃料の燃費が上がりまして、年間約4万リットル削減する事ができます」
4万リットルというと、貨物を満載した重さ270トンのジャンボ機が、成田から中国の上海まで飛ぶときの消費量に相当します。日本航空の12機の貨物専用機のうち、5機が無塗装の機体。この取り組みは92年から始まりました。
毎日のように手にするのがペットボトルの飲み物。このスポーツドリンクに使われるペットボトルの重さはわずか18グラム。これまでの500ミリリットルのボトルに比べ、平均でなんと9グラムも軽いんです。
大塚製薬生産技術部・渡辺義也部長「9グラムといいますと若干少ないような感じを受けますけども、ポカリスエットは年間3億本製造しております。3億本×9グラムとなりますと、1年あたり2700トンの樹脂の削減に相当する訳です」
最も薄い部分はわずか0.24ミリ。薄くなった分、原料を減らすことができます。製品を作るために必要な原料を減らす、この取り組みを「リデュース」と呼ばれています。大量生産を行う企業が取り組むと効果は大きく、重要性が増しています。
ゴミを減らすリデュース、物を大切に使うリユース、そして再資源化するリサイクル。環境問題は個人はもちろん、企業では生産の過程においてどこに着目するかがポイントです。
比嘉記者「沖縄でも環境問題に企業がどう取り組むかは重要な課題です。その取り組みのヒントとなるものが、沖縄の伝統産業のひとつにありました」
泡盛を製造する際、蒸留したあとに生じる酒粕。方言ではカシジェーとか、タリカスと呼ばれています。栄養分が多く、昔から家畜の飼料や畑の肥料などとして再利用されてきたものです。
近年ではもろみ酢の原料にもなり一躍需要が増したものの、ブームも去り、安定的な利用にはつながっていません。また、この酒造会社では最近生産量を増量。これにより蒸留粕も多くるようになりましたが、畜産農家の減少などで以前のようなリサイクルが変化してきたのです。
菊之露酒造・下地均企画部長「蒸留粕をより安定的に、年間を通して確実に処理する方法を模索しておりました」
その模索の結果、たどり着いたのは「処理」ではなくリサイクルでした。蒸留粕を捨てずに、新たなエネルギーとして再利用する方法を採用したのです。
美しい海に囲まれた素晴らしい環境の宮古島。宮古島市ではこの環境を維持し、循環型社会と環境保全をめざす「エコアイランド宣言」を県内で初めて行い、新エネルギー開発を積極的に進めるバイオマスタウン構想をすすめています。
この構想の一環としてことし建設されたのが「バイオガス化設備工場」。蒸留粕を利用して、どのようにリサイクルが行われるのでしょうか?
醸造所から蒸留粕が運ばれてきました。一日に生じる蒸留粕はおよそ15トン。蒸留粕は温度を下げ、水で希釈され、プラントの地下に埋められたタンクに貯蔵されます。
このタンクはメタン発酵槽。ここで蒸留粕を20日ほど発酵させ、バイオガスを作るのです。燃料となるバイオガスは、15トンの蒸留粕から400リットル分のエネルギーを回収することができるのです。ガスを回収した後の蒸留粕は脱水され、良質の肥料も完成。
下地部長「ここ2,3年、このプラントと関わるようになって、いかに環境が大事か常に感じていたが、あらためてこの宮古島の海や空、自然環境を保全したいと思った」
この燃料が、これまでの生産ラインにどう役立つか、そしてどのように宮古島の環境を守るのか。ポイントはボイラーです。
作られたバイオガスをどう利用するか、メーカーとの話し合いの結果、洗ビン機、つまり泡盛を出荷するビンを洗う工程へ導入することになったのです。
ビンを洗うには大量のお湯が必要となります。この燃料を蒸留粕から生まれたバイオガスに変えたのでした。
ボイラーで生じた蒸気は圧縮し、貯蔵されたうえで洗ビン機へと送られます。毎日多量のビンを洗うこの作業には、これまで重油を燃料とするボイラーでお湯を作っていましたが、今回のバイオガス化で重油の使用量を80パーセント削減。年間400トンにも及ぶ二酸化炭素が削減できるのです。
伝統の酒造りの工程から生まれていた蒸留粕、その処理をどうするかではなく、それをどう使うかという発想の転換がエネルギーへの変換と再利用を実現しました。島の伝統産業が、島のエコを考えるきっかけになったのです。
下地部長「最近は環境問題がぐっと身近なものになった。地球規模では微々たるものですが、宮古島の一企業として(環境保全)活動に深く関わっていきたいと思っています」
畑や家畜など、昔はリサイクルできていたはずの環境が、現代では変化してしまっている場合は多いものです。その生産性が環境に大きな影響を及ぼす企業、やはりこのような技術の導入も視野に入れて、実効的な取り組みが増えることを期待したいです。