浦添市にあるキャンプ・キンザー内でダイオキシンなどの高濃度の汚染実態がこのほど明らかになりました。
ジャーナリストのジョン・ミッチェルさんが入手した文書には基地内の環境調査の記録が詳細に記されていました。文書で明らかになった汚染の実態を読み解きます。
ジョン・ミッチェルさん「報告書によると、子どもたちへのリスクはとても高くEPA(米環境保護庁)の健康基準値の6.7倍に上った。そして、草刈りなど外で働く基地従業員については安全基準から2倍のレベルだ」
フリージャーナリストのジョン・ミッチェルさんが入手したキャンプ・キンザーで実施した土壌調査の結果をまとめたアメリカ軍の2019年10月の報告書で汚染の実態が明らかになりました。アメリカ環境保護庁が定めた基準値と比較して、ダイオキシンで520倍、PCBで41倍など高濃度の汚染が確認されたのです。
報告書をまとめたアメリカ海軍・海兵隊の公衆衛生センターはキンザーの居住者や労働者に伝達することを推奨していました。ただ、同じアメリカ軍でも、部隊内部は正反対の意図を持っていました。ミッチェルさんが入手していた沖縄に駐留する海兵隊や環境関係の部署の関係者を含むメールのやりとりには意図的に調査結果を隠そうとした目論見が記されていたのです。
米軍関係者「私は報告書を共有したくないし現時点ではいかなる形でも公開する計画はない」「敵意のある地元メディアから急にコメントを求められたり、ネットでの報告書公開の有無について聞かれたりしたくない」
県内のマスコミから汚染の批判を受けたくないアメリカ軍は報告書がまとまる直前の19年7月の段階で非公表を議論していました。
結局、ミッチェルさんが情報自由法で2019年に記された報告書を入手し今年に入ってそれが報道されるまで汚染の実態は明らかになっていませんでした。
海兵隊はQABの取材に、報告書を情報自由法に基づいてインターネットで公開したことを明らかにしました。ただ、軍による報告書の公開はミッチェルさんの開示請求に伴う対応の可能性があり、長く報告書を公表していなかった可能性もあります。
周辺住民や基地従業員など県民だけでなく、基地で働く軍人やその家族にも汚染の実態が知らされなかったことでミッチェルさんはアメリカ軍の存在意義自体に疑いを向けます。
ジョン・ミッチェルさん「軍がなぜ沖縄にいるのか疑問を持たなければならない。軍は「日本を守るため」というが米軍は自らの(軍人の)子どもや軍人たちさえも守り切れていない。私たちはなぜ軍がここ(沖縄)にいるのか疑問を持たなければならない」
沖縄のアメリカ軍基地で起きている環境汚染問題に詳しい沖縄大学の桜井国俊名誉教授はアメリカの国内の基地と海外の基地での二重基準の存在を指摘します。
桜井国俊名誉教授「汚染が知られてなくても、外部に知られてなくても、地元に知られてなくても米軍は浄化する責任があるとなっているんですよ米国国内では。米国国外の(汚染対策を示した国防総省指針)471508の場合は知られてなければ何もしなくてもいいことになっている。米軍基地のもたらす環境汚染問題に関しては米国国内での国防総省の取り組みと国外、とりわけ沖縄での米軍基地の汚染の取り組み非常に差がある」
地元の浦添市議会も先月7日、国に汚染された土壌の早期撤去などを求める意見書を全会一致で可決しました。
すでに日本とアメリカの間で合意しているキャンプ・キンザーの返還について「広範囲にわたる土壌汚染問題が返還後に実施される支障除去に要する期間と事業着手時期の大幅な遅延が危惧される」などと訴えています。
一方の防衛局は政府がアメリカ側から報告書の提供を受けたことを明かにしています。
浦添西海岸に近く民間地に隣接するキャンプ・キンザーの南側エリアでも、汚染は確認されています。かつては化学物質の保管場所が存在。1960年代後半から70年代前半にかけてベトナム戦争から持ち帰った物資が保管されていました。
49年前の1974年には段ボールや金属製の容器から汚染物質が漏れ出す大規模な事故が起きています。アメリカ軍は汚染された土を北側エリアなどに分散させたことで、基地内で汚染が拡散したとみられています。
桜井国俊名誉教授「キャンプ・キンザー周辺の海産物がどんな状況になっているのかというデータがですね、残念ながら私まだ見たことないんですね。このあたりの調査が必要だと思う」
キャンプ・キンザーではこれまで、退役軍人の証言などからベトナム戦争で使用していた枯葉剤が保管されていたことが明かになっています。今回明らかになったダイオキシンなどの汚染と枯葉剤との関係性は不明です。
海兵隊はQABの取材にダイオキシンによる汚染については「自治体の焼却炉や自動車が発生源の可能性が高い」と釈明しています。また「人との接触を防ぐためフェンスで囲まれた特定の区域を除いて人間に対する健康のリスクはない」としています。対するミッチェルさんはベトナム戦争の影響を指摘します。
ジョン・ミッチェルさん「ベトナム戦争の被害が今も沖縄にあることを示している。ベトナム戦争は45~50年前に終結したが戦争の遺産は今も沖縄の土壌を汚しキャンプ・キンザーを汚している私は沖縄ではベトナム戦争が終わっていないと感じる。沖縄は第二次世界大戦(沖縄戦)に苦しんできた今も不発弾に囲まれているベトナム戦争もまた化学汚染で沖縄に影響を与えている戦争は砲声が鳴りやんだあとも長い間汚染し続けると気付いてほしい。戦争は環境や人間の健康をむしばみ続ける」
沖縄戦で焦土と化し、本土復帰後も過重な基地負担を県民は背負わされてきました。アメリカ軍が一度は闇に葬った汚染の調査報告書はアメリカが行ったベトナム戦争の犠牲までも沖縄に押し付けている実態を記しています。
フェンスの向こう側で起きた重大な事態も軍の一存で隠されるという不条理について、まずは一人一人が知ることが重要です。
ミッチェルさんはこのほど、一冊の本をまとめました。今回の報告書入手にも使ったアメリカの情報公開制度についてノウハウをまとめており市民や行政などに活用を呼びかけています。