プレイステーションの開発などで苦境にあったソニーを復活させた前社長の平井一夫(ひらい・かずお)さん。
ビジネスの世界から引退し、平井さんが今、子どもの貧困と教育格差の解消に取り組んでいます。
それは「感動体験」という平井さんならではのユニークな方法でした。
平井一夫さん「社長だからえらいというわけじゃ全くないし、部長だからえらいというわけじゃ全くないんですね。まずは、この人のために頑張れると思うようなEQの高さ、人間としてリスペクトされているかどうかが一番大事」
先月、那覇市で開かれた琉球銀行主催のトップセミナー。講演したのはソニー前社長で、現在はソニーグループシニアアドバイザーの平井一夫さんです。
社長として3度の経営再建を担った平井さんが語るのは、組織の力を引き出すリーダーシップ論。
平井一夫さん「まず最初にモチベーショナルリーダーシップの一番大事だと思っているのは、正しい人間になる。これは正しい、間違っているということではなく、モチベーショナルリーダー、もしくはリーダーになるための人間としてのベースがちゃんとできているんですか、あるんですかということをまずは問わなければいけないというのが、私の長い間経営してきたなかでの一番の大きなポイントになっていると思っています」
その経営哲学は、構造改革が求められる多くの企業や組織に注目されています。
平井一夫さん「プレイステーションの仕事も長い間やっていたんですけれど、いろんなお子さまと接する機会がいろいろありまして。プレイステーションを楽しんでいらっしゃるお子さまの輝く目を見ていると私も感動して。それで、いつの日かビジネスの世界から卒業したら、子供たち、目が輝くような感動できるような何らかの形で体験を提供できればいいかなと思っていて」
おととし、平井さんは、こどもたちの貧困解消を目指し取り組む団体、「プロジェクト希望」を立ち上げました。
プロジェクト希望のミッションは、「あらゆる子どもに、きっかけになる、感動体験をつくる」こと。
こどもの貧困を減らすためには、多面的な支援が求められるなか、平井さんが着目したのは、「体験の格差」です。
平井一夫さん「スポーツ観戦に行くですとか、いろんな遊園地に行ってみるですとか、ピクニックとかバーベキューでもいいですし、なかなか体験できないようなことをあえて体験してもらうことによって、自己肯定感といいますか、学校行って俺こんなことしちゃったんだよね、私こんなこと見たんだよねっていう風な自慢できるような体験っていうのがすごい大事」
平井一夫さん「一つの例として、ゲーム制作の現場に中学生高校生をお連れしたことがあるんですけれど、キャリアの選択肢を見るってことも含めてそういった会社訪問をしてもらったり、いろんな体験が感動体験につながるんじゃないかなと思ってます」
こどもの7人に1人が相対的貧困と言われる日本。孤立などの相対的貧困、いわゆる「見えない貧困」は見過ごされがちですが、少子化が進む日本の将来に直結する深刻な問題です。
平井一夫さん「経営の視点で言いますと、経営っていうと『もの』と『お金』をどういう風に効率的に回して会社を経営していくかということなんですけれど、実は国とかも一緒で、やはり『人』は大事な資産になるわけですけれど、その大事な資産の7人に1人がこういう状況におかれているのは、ある意味ではもっともっと効率的な国の経営っていう意味から考えたら、是正していかなければならないと思う」
日本の将来が危ぶまれると話す平井さん。これまでのキャリアで得た知識やノウハウを生かし考えたのは、こどもたちと語り合う場。自らが子どもたちと語りあい、経済的に困難、または、様々な課題に直面する子どもたちの背中を押します。
平井一夫さん「みんな誰もが幸せそうな顔しているけれど、みんな悩み事あるんですよ、だから自分だけがこんな悩まなきゃと思っちゃいけなくて。みんなそれぞれ、私も含めていろんなことで悩んでいるんだからということをメッセージとして伝えるようにしている」
平井一夫さん「私も思春期のときそうだったが、なんで僕だけこんなに悩まなきゃいけないんだと思いがちなんですが、みんなそうなんだからということで、少しそういった気持ちが自分だけじゃないんだと思えるだけでも非常にいいかなと思ってます。(Q.心が育っていくきっかけに?)そうあってくれるとうれしい」
また去年、助成プログラムも創設しました。こどもの支援活動を行っている団体へのファンディングです。
ひきこもりの若者を支援する沖縄青少年自立援助センターちゅらゆいも助成を受けた団体の一つで、今年1月北海道ツアーを実施。子どもたちは親元を離れ、北海道の壮大な自然に触れたりと、普段の生活ではなかなか経験できない貴重な時間を過ごしたことで、また一つ成長したようです。
平井一夫さん「体験の格差は、みなさんが解消しなきゃいけないとはおっしゃるんですけれど、なかなか数値化できない。効果が。偏差値が上がりました、テストの点があがった、志望校に入れましたという教育の格差の現場はある程度効果は図れるんですけれど、みなさんで遊園地に行って、バーベキューしたからといってそれで感動したと、みなさんお子さん喜ぶんですけれど、じゃあそれがどういう風な効果測定できるかなかなかできない」
これまでビジネスの世界で手腕を発揮してきた平井さんですが、現在は、次なる目標を定めて新たな道を歩み始めています。
平井一夫さん「希望の場合は自分がすべてファンディングしてますから、効果測定は。すぐはできなくてもいいから、お子さんたちが喜ぶような感動体験を提供して、みんなの目が輝いている、それで私はいいなと思っている」
次世代を担うこどもたちが心豊かに暮らせる社会を目指して。平井さんの思い描く未来とは?
平井一夫さん「一人一人のお子さまがいろんな体験をして、自分のいろんなことに対して意見を持って、それをうまく表現しながら自ら自分の将来を切り拓いていくことができるような環境を私たち大人が創り上げていかなければいけないと思いますし、それがひいては沖縄の将来もそうですし、日本の将来につながっていくと思いますので、これほど大事な資産はないですから、大事に大事に育んで大きくみなさんに羽ばたいてもらうことを私たち大人、一人一人が考えなければいけないと思う」