今を生きる私たちが、これからの50年100年先の沖縄の未来を考えるシリーズ「IMAGINE・おきなわ」です。未曾有の被害をもたらした東日本大震災からあさってで12年となります。地震や津波といった想定外の災害に見舞われた時危機を回避したり、被害を少なくしたりするために何ができるのか考え、日ごろの備えにつなげることが重要です。
なかなか経験できない状況のなかに入り込んで問題解決の糸口を試行錯誤できる 沖縄発の「防災を学ぶ劇」が、教育の現場で活躍していました。
怒る役者「え、僕が何をできるんですか」生徒「えっと…だから、えっと…(頭抱える)」役者「僕言いましたよね。翁長さんに」
東京都 海城中学高等学校今月3日。怒り口調でまくしたてる男性をなだめることに生徒たちが挑戦しています。しかし、落ち着かせるための適切な言葉を紡ぎ出せないでいます。先週、東京都にある海城中学校で、災害が発生した後の暮らしを体験する授業が開かれました。画面の向こうから語り掛けてくる男性は、沖縄を拠点に活動する役者です。
TEAM SPOT JUMBLE・与那嶺圭一さん「とても熱心で、こういうこともやりたいんだ、こういうこともやりたいんだよ!とすごい案が出てきて、それで僕たちも(ワークショップに)関わらせてもらってるって感じですね」
海城中学高等学校・中村陽一先生「何かフィクションではありますけれども、被災地を舞台にしたドラマを作って、それを見ることが出来れば具体的にイメージするだろうと」
海城中学校では、コミュニケーション能力を育むために演劇を活用しています。3年前から防災をテーマに多様性への理解を深めることに力を注ぐようになりました。地域の魅力を伝えたり、大学の講義に協力したりしていた沖縄の劇団との出会いが〝防災劇〟誕生のきっかけでした。
ドラマ住民A「それにしてもさ、ここでの生活も長くなったさ。長いと色々出てくるよね」住民B「確かに」住民A「(小声で)例えば、朝の女子トイレ」住民B「あー、混みますよね」住民A「そう!私の番いつかね?ってなる」
劇の舞台は、災害に見舞われ自宅で生活できなくなった人たちが身を寄せる「避難所」です。何気ないことが発端で起きたトラブルの解決策を生徒たちが自発的に考えられるように組み立てられています。
与那嶺圭一さん「僕も災害に、避難所とかに行ったことがないのでどういう人たちがいるんだろう、どういう課題があるんだろうとかも、本当に何もわからないまま僕はスタートしたんですけど」「メンバーとも話し合って、ここはこうだよねって、でも俺の気持ちはどうなるの、いやこれはこういう気持ちで!ぶつかり合って」
よりリアルな避難所の暮らしを描くため、災害ボランティアの専門家の意見が取り入れられています。特に登場人物のセリフや心の動きは、役者が納得するまで話し合って決まったものです。防災を学ぶ「教材」になるよう学校と劇団で修正と稽古を繰り返したといいます。
中村先生「我々が防災教育といったときにですね、避難訓練であるだとか、実際に起こった直後にどういったことをするのかっていうのはいろんな形でやられているとは思うんですけれども、今回その先ですよね、つまり多くの人は例えば家が崩れなくても、家が住めなくならなくても電気やガスとかは止まってしまうので避難所などに避難して長く生活することになることが非常に災害の時は多い」
今回の防災劇では、決して広いとは言えない避難所のスペース利用をめぐるトラブルについて考えます。
避難所ドラマ 玉城「何回目ですか?いい加減にしてくださいよ!ルールが守れないならここにいる資格ないですよ。」翁長「は?資格?資格ってなんですか」玉城「みんなで生活しているんです。周りに迷惑ばかりかけているような人は、違うところに行ってもらわないと困りますって言ってるんですよ!」翁長「あなたはいいですよね」玉城「何でですか」翁長「一人分でしょ荷物」
お年寄りから子どもまで生活リズムも異なる人たちが共同生活を送るため洗濯物1つとっても口論の火種になってしまうというのです。2人の言い分に耳を傾けながら、双方に何と声をかけるべきか。生徒たちが劇の登場人物と実際にやりとりしながら解決の道すじを模索します。
まずは洗濯物の片づけがきちんとできていないことに腹を立てた玉城さんの説得です。
生徒説得の場面 生徒「資格がないっていう言葉がまず(口論に)つながってしまっていた」玉城「資格ないでしょ、ルール守らないのに、みんなルール守ってるのに」生徒「そうですね、ルール守ってないのはそうなんですが、翁長さんにも家族がいて、それなりに大変だと思うし」玉城「うん」生徒「そういうところも配慮が出来たかなって」
玉城「俺が?配慮すんの?配慮しないと絶対ダメなの?」玉城「翁長さんが配慮してルール守れば、俺は別に何も言うことないよ。通るときに荷物が邪魔だからあっちが配慮すればいいんじゃない。俺は何を配慮するの、俺が。悪いことしてないのに」
今度は、注意を受けた翁長さんを諭します。
生徒「玉城さんのどういうところが嫌だなと思ったんでしょう」翁長「細かいし、ルール、ルールうるさいし、あとやっぱり資格って言われたところが一番腹が立った」生徒「確かに細かいことまで注意されてましたし、資格ないとか、命令口調だった翁長さんとしても嫌だったと思うんですけど、玉城さんも、ルールを守ってほしいなとは思ってるはずなんです」
生徒「玉城さんに小言を言われるような感じでちょっと嫌な部分もあると思うんですけど」翁長「うん」生徒「できるだけ、そこは周りを気遣えないかなと…気遣えないでしょうか」
中村先生「すいません、ちょっと話の途中ですが…」翁長「気遣ってないわけではないけどね」
余裕のない状況でトラブルを仲裁することは至難の業です。
だからこそ、投げかける一つひとつの言葉に気配りすることが大切だと気付くことが出来ました。
実際に体験した生徒「避難所の生活でストレスが溜まってて、冷静には話せてないって感じでした」「これまでそんなに大きな地震を経験したことはないので、やっぱり不安だし」「ちゃんとコミュニケーションをとれるのかっていう難しさもあると思う」
実際に体験した生徒「最後僕が気遣うって言葉を使ったんですけど、そこはちょっと使い方間違ったかなという感じもあった」「ちょっとしたことで玉城さんみたいに怒る人もいるし、結局はいろんな人がいるので、いろんな人と過ごすっていう意味ではいつもとは違うし、大変だなと思いました」
実際に体験した生徒「人と人とがコミュニケーションをするときにすれ違いはいつも起きちゃうことだと思うのですが、今自分がどのように対応すればよりよくなるかっていうことを考えることは大切だなと気付きました」
「演劇」という教材のメリットは生徒の声に即興で対応して筋書きのないドラマに仕上がることです。
中村先生「避難所で生活するために備えるわけじゃないんですけれども、やはり価値観が多様な他者といかにその価値観をお互い尊重しながら、うまくコミュニケーションをとっていくのかっていうことは、あらゆるところで必要になってくると思うんです。」「教員が原案を書いて、プロがドラマにしてって、でもそういった意味では、教育と演劇、教育と芸術というものの何か一つ非常に理想的な共同の形が出来たんじゃないかと個人的には思っています」
与那嶺圭一さん「この生徒たちと触れ合う前にちょっとトラブルがあって僕も何か演じててイライラしながらやってて、でも最後まで本当向き合ってくれてとてもいいなって思いました」「やっぱり正解なんてないじゃないですか、それに向き合ってくれたらとても僕演じてて嬉しかった」
災害が起きた時、環境も価値観も違う人たちとの生活が避難所では待っています。未知の出来事に直面した時こそ、相手への想像力を働かせる。
「小さな思いやり」が、心を穏やかに過ごすための重要なカギです。
与那嶺圭一さん「コミュニケーションの考え方っていうのに、とても演劇が適していると思うんですよ。」「疑似体験でも、やっぱりうれしいし、傷つくし」「何か諦めないのがとてもいいって言ってたな、向き合うのがいいって言ってたなとかちょっとでも思い出してくれれば」
異なる人々の意見やアイデアを認め合い、多様な個性を生かして問題を解決する実感を得る。
防災だけでなく、人とともに生きることやコミュニケーションの重要性を学ぶことができる沖縄発の演劇が、今後注目の的となりそうです。