「もぅ…だめだ」そんな悲痛なため息が聞こえてきそうな状況です。静止画を指しながら牛に与えるエサの仕入れ値が高騰を続けていて「生産コスト」が高くなっています。
おまけに、育てた子牛を買ってもらう「セリの価格」が落ち込んでいて”思うような収入を得られない”といいます。
”お金をかけて飼育した家畜が高く売れない”まさに、「泣きっ面に蜂」のような状態に追い込まれているなか消費者への販売価格に転嫁させないために畜産農家が我慢せざるを得ない正念場に立たされています。
初セリ「(機械音声)入場番号414番…331キロ」「(司会)はい、331キロはいどうぞ…!!!」
肌寒さの残る早朝、血統や生年月日などが書かれた資料を手に畜産農家の人たちが真剣な表情でたくさんの牛たちを品定めしています。
糸満市にある南部家畜市場の初セリでは生後1年未満の450頭の子牛が競りにかけられました。食用になる肉用牛を扱う農家には繁殖用の母牛(ははうし)を飼育し子牛を産ませて市場に出荷する「繁殖農家」と買い付けた子牛を約2歳半まで育てて出荷する「肥育農家」の2つに分かれます。
セリの会場では、出品した子牛を繁殖農家が見守るなか、将来的に利益が見込める牛を買い付けるため県内外から駆けつけた肥育農家らが血統や体格などを入念に確認し、入札のボタンを押していました。
南部家畜市場の初セリでは子牛1頭あたりの平均価格は60万7533円で去年に比べると約8万円下がっていて、繁殖農家にとっては厳しいスタートとなりました。
繁殖農家・比屋根智和(ひやね・ともかず)さん「たぶん去年が、70万前後していたと思うんですけれども、それが今月まだ終わらないですけれど、たぶん60万いかないと思うので、10万ちょこっと下がってますかね。大体言われているのが(採算ライン)60万円…今採算割れなんですよ、はっきり言って。やっぱり…プラスにならないと(農家は)減ってきますよね」
「このままでは続けられない…」と農家が悲鳴をあげるほど深刻な子牛価格の下落は南部市場だけの話ではありません。
JAおきなわによりますと、県内に8つある家畜市場の初セリで平均価格は1頭あたり59万1216円と前の年に比べて、11万5372円(約16%)減少しました。
肥育農家・本村長也さん「繁殖農家さんがあっての肥育農家だと思いますから、繁殖農家さんもできるだけ頑張っていい牛をつくっているとは思いますから、そこには応えたいという思いはあります」
肥育農家にも、購入費用を抑えないといけない苦しい事情がありました。
背景にあるのが、「生産コストの増加」です。急激に円安が進んだことや、ロシアのウクライナ侵攻で輸入に頼る飼料や燃料が高騰しているため、子牛を安くで手に入れようとする動きが強くなっているといいます。
肥育農家・本村長也さん「『生産コスト』っていうのが1.5倍まで膨れ上がっておりますので、その分は抑えるってなると…本音としてはそう(子牛の価格を抑えたい)ですね…はい」
JA沖縄中央会によりますと、おととしは6万円台で推移していた配合飼料価格は徐々に上がりはじめ、先月ついに9万円を上回りました。ここ2年で約1.5倍となっています。
生産コストの増加を販売価格に反映させないため、企業は奮闘しています。
もとぶ牧場 坂口大河(さかぐち・たいが)さん「ここが弊社の飼料棟ですね。エサの管理をしている飼料棟になります」「これが発酵飼料になります。実際きのう仕込んだものなので発酵し終わってはいないんですけれども、発酵中はふくらんでですね、発酵し終わるとしぼむという形になってます」
本島北部で約2000頭の牛を飼育しているもとぶ牧場では、牛を育てるエサとして繊維質を多く含んだ「稲わら(いなわら)」と炭水化物やタンパク質を多く含む「配合飼料」本来廃棄されるはずの”ビールかす”を混ぜて作った独自の「発酵飼料」を使っています。
3つの材料すべての価格が上昇しています。
もとぶ牧場 坂口大河(さかぐち・たいが)さん「ロシアウクライナの問題で、2国は全国でも小麦の生産がトップなんですけれども、その配合飼料の主な材料は小麦なので、それでまた配合飼料自体もまた、エサ自体もまた上がって、ガソリン自体も乗っかってという形で二重苦になりますね。2000頭分のエサ台が…毎日あげるものなので、上がってしまうというのはやはりじわじわとボディーブローのように効いてくると」
販売価格を上げることによる消費者離れを起こさないためにもコスト増に耐えるほかないといいます。
もとぶ牧場 坂口大河(さかぐち・たいが)さん「出荷価格に関しては一般的には市場相場なので、上がるってことは実はなくてですね。なので…そうですね、出荷価格にそのまま乗せられればいいんですけれども、肥育農家というのはそういうことができないので、あくまで市場の値段という形になってきます。なかなかつらいものがありますね」
飼料や燃料の高騰がいつまで続くのか先行きが見えず農家は正念場に立たされています。培ってきたブランドを維持していくためにも飼育に妥協はしたくないと話します。
もとぶ牧場 もとぶ牧場 坂口大河(さかぐち・たいが)さん「エサによってもとぶ牛の味というのは変わってしまいますので、そこは現場としては妥協せずに、牛の欲しい分、何を必要としているのかというのを考えながら与えないといけないなとは思っています」「一番はそのみなさまにおいしく食べていただくっていうところが根本として、根源としてあります」
もとぶ牧場では、加工品の開発や直営のレストランでの販売に力をいれるなどして逆境を乗り切りたいとしています。
レストラン利用者「お母さんにお願いして、「お肉食べに行こう」みたいな感じで、ノリノリできました」
レストラン利用者「A5ランクのもとぶ牛がめっちゃおいしかったです」「他のところと脂の乗り方が全然違くてなんか食べた瞬間、ふわっととろけてぎゅっとなくなるからめっちゃ好きです」「価格高騰はどの食糧にもみられてくると思うんですけど、変わらずに自分なんかが消費していくのがその人たちへの感謝のお返しかなと思うので、どの値段であってもここは来ます…!」
もとぶ牧場・もとぶ牧場 坂口大河(さかぐち・たいが)さん「食で皆さまとつながれることが大変うれしく思いますので、今後ともぜひ応援していただきたいと思います。」
牛を食べて消費することで初めて家畜の市場価格を上げることにつながります。消費者の理解が生産者を救う大きなカギの1つとなっています。