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今回の復帰50の物語は、生活に欠かせない「お金」がテーマです。沖縄が本土復帰を迎えるにあたり1971年10月9日」に県民が持っているドルを数える「通貨確認作戦」が決行されました。なぜかというと、アメリカ統治下で「ドル」を使わざるを得なかった沖縄の人たちは、当時、急激に円高が進んでドルが弱くなったことで通貨が切り替わる復帰とともに財産が激減する危機に直面していたんです。

「県民の財産を守る」という作戦に奔走した人たちの壮絶なドラマがありました。

與座章健さん「現実にXデーを決めて、何日の何時から何時まで、あれは8時から午後10時ごろまでやったのかな」

刻一刻と復帰の日が近づくなか、実行された「通貨確認」。日米両政府はもちろん、守るべき対象の沖縄の人たちにさえ、知られてはいけない極秘のミッションでした。

古銭収集歴68年 翁長良明さん「通貨交換の時に確認をするために祝復帰という印鑑を押したんですよ」「どうしてもこれ(確認を)する必要があったんですよ、300何カ所金融機関に、一斉にですよ」

作戦の痕跡を見ることができる「ドル紙幣」があります。日本とアメリカ、そして為替に翻弄された歴史を垣間見る貴重な資料です。

復帰50の物語 第39話 財産守るいばらの道「通貨確認」

知念正男さん「放っておいたらどんどんどんどん、(ドルの価値が)減っていきますから」「沖縄が日本復帰するときにやったのが世界で初めてですよ」

進む円高、ドル経済圏の沖縄、通貨の切り替えで住民の資産が目減りしないよう、駆けずり回った男たちのドラマがありました。

1ドル札の端にある小さな赤い印、落書きやいたずらではなく「通貨確認」で数えた証なんです。中には「祝 復帰」と記されたものもあります。

アメリカ軍の統治下では「ドル」が使われていました。通貨が円に替わる本土復帰を目前に控えた1971年、突如、ドルの価値が下がり始めたのです。

復帰50の物語 第39話 財産守るいばらの道「通貨確認」

当初1ドル=360円だった為替レートは、復帰の日には1ドル=305円にまで「ドル安」が進みます。下落したレートでドルを円に変換すると1ドルあたり55円の損失が出ることになり沖縄の人たちの財産が大幅に減ってしまうという危機が迫っていました。

ドルの下落による円交換時の損失を復帰後に補填するため、当時琉球政府の金融検査庁で主任検査官を勤めていた與座章健(よざ・しょうけん)さんに住民が保有するドルの資産額を調べる「通貨確認作戦」の指令が下りました。

與座章健さん「Xデーを決めて確認の作業をどうするかという、県民が持っている通貨を全部洗いざらい確認しないといけないとこんな話、普通出来るもんじゃない」

作戦は1971年10月9日のxデーに県民が持っているドルの紙幣や硬貨を数えるというものです。国内外から差額を狙う投機マネーが流れこまないようにするため、準備なども含めすべてがトップシークレットでした。そこで白羽の矢が立ったのが、與座さんが信頼できると選んだ7人の部下だったのです。

復帰50の物語 第39話 財産守るいばらの道「通貨確認」

與座章健さん「7人の侍を私が選んで、お前たち出てこい、こういう作業になってるんで一切秘密裏にやる作業だから、うちにもどんな作業をしているっていうな(と指示した)」

選ばれし7人の侍の中でも若手だった知念正男(ちねん・まさお)さんは、「法令制定の準備」や「県内各地の金融機関との調整」「人員配置の計画」など、必要な作業が多岐にわたったと振り返ります。

知念正男さん「(通常業務を)午後5時なったら抜け出す、(周りには)さぼっているとしか思われないですよね、それもしょうがないです」「すぐ向こうにですよ、アジトに」

日中は周りに怪しまれないよう通常業務をこなす傍ら、夜は用意されたアパートの部屋などに集まってxデーの準備を整えていました。知念さんの役割は、銀行や郵便局357カ所の確認会場で使う数えた証をつける印かんや保有額を記載する証明書といった備品の箱詰め作業です。書類だけでも320万枚にのぼりました。手伝いに駆り出された別の部署の職員にも満足な説明ができずに、肩身の狭い思いをしたといいます。休む暇はなく、徐々に心が削られていきました。

復帰50の物語 第39話 財産守るいばらの道「通貨確認」

知念正男さん「(3日~4日間で)1時間か2時間寝たかね、ほんとの話ですよ、朝には出勤しないといけませんから、お茶も飲んだ記憶ないですよ」

與座章健さん「人間、睡眠をとらないで3日、4日やると、頭がおかしくなる、現にそうでした僕が、いいよこんなのは、知ったことか、なるようになれとこういう感じになりました」

忙殺されながらも折れることなく、全員が使命感を胸に走り続けました。

與座章健さん「県民の財産を守るということですから、普通ならこんな作業俺やらんよというやつが出そうなもんだけどいなかった」

満身創痍のなか、ついに迎えたxデー。朝から大々的に周知が行われ、会場には朝8時から夜10時までの間、ひっきりなしに県民が訪れ、行列をつくったといいます。

紙幣の赤い印は、二重の確認を防ぐためのもので、「祝復帰」と書かれたスタンプを押す予定だったのに、急遽 鉛筆についている消しゴムで印をつけることに変更されました。

與座章健さん「米国政府のはっこうする紙幣にそんな印鑑、確認の印を押すなんてもってのほかです、それが大きなクレームでしたよ、米国政府のね、鉛筆のうらについているけしごむでポンと押すことにしてなんとか事なきを得たんだけどね」

復帰50の物語 第39話 財産守るいばらの道「通貨確認」

確認して積み上げられた現金は27万5206件で、あわせて6180万2695.11ドルにものぼりました。日本政府は330億円もの差額を補償することになったのです。

知念正男さん「単なる達成感だけでなく、世界に類を見ないことをやったわけですからね、こういう業務は世界の中で沖縄県がやったわけですからちょっと誇りに思う」

與座章健さん「ああいう仕事をやらしてもらったっていうのは、自分のこころのなかでは誇りに思う、ああいう仕事をやらせてもらって幸福だったな、よかったなという思いしか残らんさ、大事な仕事だから選ばれた人しかできないはずだけどね」

復帰50の物語 第39話 財産守るいばらの道「通貨確認」

アメリカ世からヤマト世への世代わりの裏で、財産を守るために奔走した人たち。通貨確認という特命を担った男たちの物語はこれまで詳細に語られることはありませんでした。ドル紙幣についた赤い印が、影ながらその功績を伝えています。