今月は乳がんの早期検診を呼び掛けるピンクリボン月間です。日本人女性が一番罹患する確率が高いガンです。おととしまでは11人に1人でしたが、今は9人に1人となっています。
こちら、16年前から年に一度のペースで発行されている乳がんを経験した人やサバイバーでつくる乳がん患者の会「ぴんくぱんさぁ」が制作している啓発広報誌なんです。
患者会の名前をもっと知ってもらおうと、広報誌の名前も「ぴんくぱんさぁ」。同じなんです。
家族や仲間たちと手を取り合って輪になり繋がっている様子から、女性を主人公に花やハートを添えたもの。こちらはピンクリボンをモチーフにしています。第一号から様々な工夫を凝らしてデザインを描いてきたのがこちらの男性。私も乳がんの取材をする中でお話しを聞きたいと思っていた人でした。
もっと早く検診をしておけば、と後悔をする前に、女性だけでなく男性にも関心を持ってほしいと行動する。その原動力は、最愛の妻の存在でした。
玉城徳正さん「(Q.表紙の中で一番心に残っているものはありますか?)一番最初の頃だと思います。やっぱりスタートした頃。ちょうどうちの妻もまだ元気だったので、その経由で(妻に)頼まれたので、この頃は本当に非常に手作り感がある」
これまで手がけてきた広報誌を前に思いを語る、玉城徳正さん68歳。やさしい口調が印象的です。
長く勤めた広告代理店で培ったデザイナーとしてのノウハウを生かして、乳がんを啓発する団体「ぴんくぱんさぁ」が発行する広報誌の表紙をすべてデザインしています。
さらに乳がんの理解を深めてもらうためのイベントでも、企画・運営の面で支える縁の下の力持ちです。
ぴんくぱんさぁ・与儀淑恵さん「本当に頼りになる」
ぴんくぱんさぁ・高澤嘉津子さん「見えないところですごい支えてくれている方」
「みなさんが主役」。これはぴんくぱんさぁ応援団長を自負する玉城さんの口癖です。
16年前の患者会立ち上げ当初から支えてきました。そこには、玉城さんの妻・恵美子さんの存在がありました。
玉城徳正さん「私の妻は志半ばというか途中で亡くなってしまったんですけど、この意志を(継いで)、もし私ができる自分の得意なものでお手伝いできるのであれば」
18年前の2003年夏、玉城さんの妻・恵美子さん(当時42歳)は、胸のしこりが気になり始めたことや40代になったことを機に初めて受けた検診で、乳がんと告知されました。
玉城徳正さん「乳がん=死をイメージするじゃないですか。私も(頭が)真っ白ですよね。それ以上に本人がものすごい動転して泣き叫んでいた」
すでに病状は進行していてステージは3。医師からすぐにでも手術が必要な状態だと診断されました。
しこりの大きさやリンパ節に転移しているかどうかで、乳がんの進行度が表されます。
ステージ0は10年生きられる確率が95%、ステージⅠは89%、ステージⅢのA分類で58%、ステージⅣで25%と言われています。
ステージ3や4になってくると、乳がんだけでなく他の臓器に転移して、再発するリスクが高くなるといいます。
恵美子さんの場合、当時の医療では生存率を上げるためにと、腫瘍が見つかった右側の乳房を全て摘出することになりました。
玉城徳正さん「ただ気づいてあげられなかったというのが一番ものすごい後悔してます。1年前、半年前に行っていればひょっとしたら(結果が)違っていたかもしれない」
当時の玉城さんは、会社では管理職として深夜まで働き、家庭では3人の男の子のお父さん。闘病生活を送る恵美子さんと過ごす時間も作れなかったと振り返ります。
玉城徳正さん「病院の面会時間と仕事のバランスもあるし、なかなか思うようにはできなかった。本人はやっぱり1人ぼっちですからね。部屋で」
次第に明るさも取り戻した恵美子さんでしたが、病気の進行には勝てず、3年10カ月の闘病生活を経て、45歳でこの世を去りました。
この先、自分と同じ思いをする人がうまれないようにと玉城さんは、恵美子さんが亡くなってからもなお、妻を支えてくれた仲間の活動をサポートしているのです。
玉城徳正さん「亡くなった後はもうどうしようもないですからね。何かできることがあったんじゃないかと。一番はとにかく検診に行くように背中を押してほしい、もしくは一緒に行ってほしいというのが一番」
リボンズハウスに、恵美子さんの残したものがありました。
ぴんくぱんさぁ・与儀淑恵代表「これは玉城さんの奥さんが、入院中のみんなに手作りで作ってくださっていたものなんです」
少しでも使いやすいものをと、生前、恵美子さんが作った乳房を摘出した後につける補正パッド。今もぴんくぱんさぁのメンバーが引き継いで作っていて、そこに玉城さんが書いたポストカードを添えて完成です。ふたりの思いが、今も患者さんの元へとわたっていっています。
ぴんくぱんさぁ・与儀淑恵代表「恵美子さんの気持ちもたくさん私たちも継いでいきたい」
玉城徳正さん「感慨深いですよね。それがこういう継承というか続けられてるというのはびっくりしました」
コロナ禍2年目、今年は例年発行している広報誌の作成できませんでした。その代わりに、今月25日から開催するピンクリボンパネル展に向けて、作戦会議を重ねています
今、玉城さんは自身がスピーカーとなって、パートナー目線や男性へ伝えていきたいといいます。
玉城徳正さん「特に乳がんの場合は初期段階であれば、完治するリスクが非常に高い病気なんです。だからそれがあるので定期的に検診に行くというのをぜひやっていただきたい。不幸にも乳がん患者になったとすれば今度はその人のその後の人生の中でやっぱり楽しく過ごせるような環境作りというかそれが大事だと思うんです」
玉城さんは、妻が闘病生活で辛いときに同じ病期と闘うぴんくぱんさぁのメンバーが助けになってくれたと、その感謝の意味も込めて、活動を続けているんだそうです。
コロナ禍で、今検診を控えることで将来の生存率に影響がでるという調査結果が報告されています。
浦添総合病院の乳腺専門医、藏下先生によると、アメリカの報告では、受ける予定だった乳がん検診を遅らせたり、あるいはそのまま受けなかった場合、2030年までの間に乳がんで死亡する女性が増加するであろう、という分析結果が出ているということなんです。
今、検診を遅らせた場合の増加はわずかですが、そのまま受けなかった場合の死亡者数の増加は高くなっています。いかに早く検診に行くのが大事かが分かりますね。
全国40歳~69歳の女性へのアンケート調査による研究で、年齢が高いほど、またこれまで定期的な受診歴がない人ほど(日頃から乳がん検診を受ける習慣がない人ほど)、予定を変更する傾向があると報告されています。
藏下先生は「乳がん検診による早期発見・早期治療で死亡のリスクは確実に減らせます。乳がん検診は確かに『不急』かもしませんが決して『不要』ではなく、コロナ禍を理由に乳がんによる死亡者が増えることがないよう検診はしっかり受けてほしい」と話していました。