足のトラブルで悩む人を支えるために「整形靴」というものがあります。あまり聞き慣れない言葉だと思いますがご存じですか?機能性からデザインまで、その人に合った靴を履いてほしいと取り組む職人に迫りました。
真剣なまなざしで作業をする一人の男性。作成しているのは「整形靴」です。
大田さん「早い段階に必要な方が(整形靴を)履くことによって歩ける期間が長かったり変形の予防とかにも繋がるので、この「整形靴」っていうものを知ってもらいたいと思っています」
そう話すのは 「大田 守誠 (おおた もりまさ)」さん。1929年創業、那覇市松尾にお店を構える老舗「大田製靴店 (おおたせいくつてん)」 の3代目店主です。
整形靴とは、リウマチや糖尿病といった病気、事故で足の指が曲がったまま伸びなくなったという変型や欠損など、足に悩みを持つ人たちを支える「装具」のこと。製作の流れは足の状態、身体のバランスなどを確認し、足の型をとった模型を製作、仮合わせとデザイン確認を経て、製作を開始し、約1,2ヵ月の期間で完成します。
大田さんは整形靴を学べる県外の専門学校を卒業後、約4年間、整形靴を作る技術を高めて2017年に沖縄へ帰ってきました。
大田さん「紳士靴の製造と靴修理、2017年からは整形靴といって足にトラブルのある方への靴の製作とインソールの製作となっております」
整形靴はゴツゴツとした印象が強いうえ、費用が決して安いわけではないため、購入することを 躊躇(ちゅうちょ)する人が多いといいます。そのため、医師の診断を受けて整形靴が必要だと認められれば保険を適用して、製作費を1割~3割に抑えられるということもあまり知られていないのが現状です。患者のリハビリを行う病院では、自分にピッタリの整形靴が欲しいという声もあるといいます。
山口院長「麻痺があって装具を履かないといけないのだけど、でも本当はおしゃれな靴が履きたいっていう方は結構いるのですよ。それでも結局は、おしゃれな靴って履けないじゃないって言って、諦めてしまう方が多いわけですね」
大田さんが整形靴を作る際、「履きやすさ」と「デザイン性」の両立を心掛けています。お年頃の子供にはみんなと同じような明るい靴を。大人には 「一般的」な靴を。その人の用途に合った靴を提供できるようにと考えているからです。
大田さん「普通に見えるデザインっていうのが皆さん履きたいと思いますので、機能はもちろんなのですけど、そういった見た目っていうのを付け加えてあげて、歩ける期間を少しでも長く歩いてもらえる、そういったお手伝いができるものを提案して作っていきたいと思います」
脳卒中で右半身不随になり、履きたい靴が履けなくて悩んでいた當山篤さん。右半身の自由がうまく利かず、足首の曲げ伸ばしも出来ない為、靴紐も結ぶことや靴を履くことさえ、苦労がありました。
當山さん初めて履いた時の感想「ふらつきがなくなったのが一番の感想ですね。靴ひももですね、自分が片手では結べないので、伸び縮み出来るゴムにしてもらったんですよ。安定性とか機能性も(普通の靴と比べて)全然違うので、自分としては最高の靴です。世界に一つだけの靴なので…こういうのをもっと県内で広まったら喜ぶ人が多いんじゃないかなって正直思いました」
受けられるべき人に保険適用を知ってもらい負担を軽くしたい。その想いから大田製靴店では、今年の4月に義肢装具士を雇って整形靴を必要としている人と一緒に病院へ赴き、医師との間を取り持ち受け渡し後の相談などにも対応できるようになりました。
重石さん「他の会社で8年くらい義肢装具士をやってきたんですけど、なかなか全ての患者さんに、ほんとに最善のものが行き渡っているとは言いにくい状況で、機能だけじゃなくて、デザインなんかも大事になってくるところなんで、そういうところも1人1人細やかに出していけるっていうところはいいなと思いまして、それに大いに賛同したっていう感じですね」
大田さん「みなさんそれぞれ足の悩みがあると思うんですけど、その一つ一つの足の悩みに耳を傾け、それを形にするのが私たちの仕事だと思っています。みなさんの履きたい、歩きたい、叶えたい、そんな靴を提案させて頂きたいと思います。
老舗の靴屋で長年、たくさんの人の「靴」を支えてきたお店から、歩きたい気持ちを叶える新たな「靴」の形へ。ひとりひとりに合った靴を届けることで、歩ける時間を少しでも伸ばして笑顔になってほしいという想いがありました。