与那国島出身の女性が故郷を思って作った映画が話題を呼んでいます。京都芸術大学の卒業制作として作られ、学長賞を受賞したその作品を美しい与那国の映像とともにご覧ください。
映画「ばちらぬん」。それは「忘れない」という意味の与那国の言葉。この映画を制作したのは、京都芸術大学の映画学科・俳優コースに在籍していた与那国島出身の東盛(ひがしもり)あいかさん。
あいかさんは幼少期から15歳まで与那国島で育ちました。石垣島の高校に進学しますが、2年の時に中退。その後しばらく引きこもりのような生活をしていたといいます。
東盛あいかさん「その時に映画と出会った。そこからちゃんと勉強しなきゃな、映画に出たい作りたいって思いから今の大学に行きたいって目標を見つけて」
大学に進学し、俳優コースで映画を学んだあいかさんはこの卒業制作で初めての監督と主演をかけもちしました。
東盛あいかさん「一番最初はもっとフィクションで劇映画のつもりだった、オールロケ与那国で」
ところが新型コロナの影響で人の往来が制限されてしまい、企画から練り直してこの作品になったといいます。(スタッフや人数の多いロケは京都で、与那国のロケは主にあいかさんが自分で撮影を行いました)
東盛あいかさん「私が15で島を出てから何回か島に帰るたびに与那国の言葉もそうだけど文化だったり景色だったりそういうものが人々の暮らしだったり、そういうのが移り変わる様子を肌で感じて」「何かこう焦りを感じたんですよ、この島がちょっとずつ変わっていく様子に」「私に何が出来るんだろう何が残せるんだろうと思ったときに映画しかないなと思って今の与那国をどうにかこうとどめたいって思いから」
映画はファンタジーとドキュメンタリーの狭間を縫うように紡がれてゆきます。ストーリーもあるような、ないような。現実と夢を行き来しながらひとつの終着点に向かって「制服の少女」としてあいかさんは島を駆け巡るのです。
東盛あいかさん「新しい挑戦をしながら与那国を言葉だったり文化、暮らし、おじいちゃんやおばあちゃんが話す言葉だったりっていうのを色んな人に見てもらいたいっていう思いから出来た映画です」
生まれ島を離れて、改めて島の伝統文化や言葉の素晴らしさに気づき、勉強しているというあいかさん。
東盛あいかさん「昔はハヂチを入れている女性の手が綺麗、美しい、あの手でごはん作ってもらいたいっていう、そういうちょっとした憧れみたいな」
しかしハヂチは日本政府によって「醜いもの」「汚いもの」として禁止され排除されてしまった伝統の風習。今ではハヂチをした女性を見かけることはありません。
東盛あいかさん「小学校低学年くらいまでまだギリギリいたんですよ(ハヂチを)入れているお婆ちゃんが。それを私は綺麗だと思ったし(敬愛の意味をこめて。)」
「忘れない」あいかさんはこの言葉を変わってゆく故郷、老いてゆく祖父、失われてゆく島の言語に向けて何度も誓うように語りかけます。
東盛あいかさん「島の人たちが自分たちの島のことをもっと関心を寄せて特に若い世代の方々とかにはもっと島の言葉だったり文化だったりそういうのを関心を寄せて学んで後世に伝えていけるようにして欲しい」
この作品は2020年度、京都芸術大学卒業制作の最高賞である「学長賞」を受賞しました。あいかさんの、ふるさと与那国にかける思いが実ったとも言えるでしょう。
東盛あいかさん「見た人が映画のシーンをふと思い出したときに与那国島に繋がる、与那国島を思うきっかけになったりしてくれたらいいなと思っています」
大学を卒業したあいかさんはこの春上京。俳優をメインに、監督業にも引き続きチャレンジしてゆきます。「忘れないよ」という思いを胸に抱いて。