県内では大雨が降るたび、農地や建設現場から赤土が流出することが長年の課題となっています。ところがその赤土問題の解決の鍵が、意外にも身近なところで見つかり、注目を集めそうです。
金武町の酒造廠を訪ねた、渕上浩一さん。沖縄の土壌改良を研究している渕上さんは、この酒造廠からあるものを譲ってもらうために訪れました。それはこの液体。泡盛を作るときに出る米のとぎ汁に、EMや酒粕などを混ぜたものです。
渕上さんは、廃棄物を利用した酒粕混合液が、赤土流出防止と土質向上の2つの課題解決の鍵を握ると考えています。崎山酒造廠は、そんな渕上さんの研究に賛同し、米のとぎ汁と酒粕を提供しているのです。
崎山酒造廠・崎山淳子さん「土壌改良に使っていただくというのは、社会の企業還元として、いい形で使っていただけたらと思います」
これまではモロミ酢の原料か、畑の肥料などに使われる意外には用途がなかった酒粕と、廃液である米のとぎ汁。いったいどうやって利用するのでしょうか。
渕上さんは1000リットルの酒粕混合液をもらい、今帰仁村の実験場所となる畑にやってきました。
この畑では3つの方法で土作りをして、作物の出来の違いを見るといいます。さっそく酒粕混合液を攪拌し、ペーハーをチェック。「3.7」の数値は強い酸性であることを指しています。液の状態は良好なようです。
さっそく、畑に酒粕混合液をまき始めました。大量にまくのは、液に含まれる微生物などを土に行き渡らせるため。しかし、通常、弱酸性の土質が良いとされる葉物野菜の畑に、強い酸性の液体はあうのでしょうか。
大嶺英恭・今帰仁村副村長「こういうのは理屈上は分かるけど、現実にできるというのは見たことも無い」
株式会社オオバ・渕上浩一さん「(液がいきわたると)土がしっかりした団粒構造を持ってくれるので、農地としても良いもの、あとは赤土も出なくなるような土に変わっていく」
混合液でひたされた畑に、今度は2種類の堆肥をかけていきます。畝ごとに堆肥を分け、土質の変化を調べるのです。
この土作りの最大の特徴は、混合液をまき、堆肥をかけ、終わっても耕さないこと。耕すと、混合液の微生物などが空気に触れ、腐ってしまうからです。何もせず、3日から4日放置すれば土作りは終了です。
耕さずに土が良くなれば、労力の大幅な軽減が期待でき、高齢者でも農業がしやすくなります。雑草の繁殖を抑えるなど、実用性が高まれれば、その先に農家の収入アップも見えてくるかもしれません。
そして、一方で期待される赤土流出防止の効果。こちらは実験をしてみました。
久田記者「こちらが北部の典型的な赤土・国頭マージです。そしてこちらが、同じところで取れた国頭マージを泡盛の酒粕で処理した土です。同じ量の水をかけて、実験してみたいと思います。」
結果は歴然。処理された土はほとんど赤土が流出しませんでした。
久田記者「ちゃんと表面の粒粒した感じが残ってます」
渕上さん「団粒構造といいますが、いわゆるその粒々した状態を保つので、スッと水がはけますし」
団粒構造とは土が小さな団子のような状態で、崩れにくい構造のことです。団粒構造が弱い赤土に、酒粕混合液を染み込ませて処理すると、構造が強く変化しているようなのです。構造が強くなると、大雨が降っても、土が水に流れ出しにくくなるというわけです。
渕上さん「森を見ると、森では赤土が全然出てこない。連作障害が起こってるわけでもない。その森の土作りのような形を取れば、もしかしたら上手く、耕さないでできるものが成り立つんじゃないかなという風に(考えた)」
誰も耕さなくても肥沃な「森の土」のイメージで、沖縄の土作りを変える。もともと赤土流出防止の技術として研究をはじめた渕上さんですが、農家にもメリットがあり、取り組みやすい赤土対策を確立したいと意欲に燃えています。
渕上さん「その中(研究内容)にやはり、耕す土作りの大変さ、そういうところも上手く支援が出来ていければ」
原料の安定供給など、乗り越えなければならない壁もありますが、酒粕と米のとぎ汁という「廃棄物も地産地消」というアイデアに夢が膨らみます。
良い土壌を作るには汗水流して土を耕し、肥料を与えるのが現在の農業では常識だと思うんですが、この方法だと畑を耕す労力もいらず、作物の出来を良くして海も汚さないと言うのですから、まさに常識破りの試みです。今までの赤土流出防止策は畑の周りへの植栽や畑の勾配修正など、農家の負担が大きいですから、新しい技術として確立すると面白いかもしれません。