高校日本史の教科書にある集団自決の記述から「日本軍の強制」という表現が削除された教科書検定問題。それに抗議して開かれた県民大会からきょうでちょうど1年です。学校現場では先生や生徒たちが改めてこの問題について考えました。
去年、11万人余りが集まった教科書検定意見の撤回を求める県民大会。あれから1年を迎えようとしていた今月25日。名護市の北部農林高校に、高校生代表を務めた2人の姿がありました。
照屋奈津美さん「県民大会の反響は大きくて、良い意味でも悪い意味でも色々な意見をもらいました」
津嘉山拡大さん「あの時はひーじーじらーしてたけど、超怖くて」
あの県民大会から「何が変わり、何が変わらなかったのか」と題したシンポジウムです。教師と生徒が意見をのべ合いました。
北部農林生徒「とても大切なことなんだけど、やっぱりこの忙しい毎日に追われたりしたら、自分の中で風化していったりするとか」「もっと学んで色々な人に学んでほしいと思うし、伝えていきたいなと思いました」
去年の県民大会には北部農林高校の生徒をはじめ、多くの高校生も参加しました。
その後、県を含め、大会実行委員会の代表らは、文部科学省に直接検定意見の撤回を要請しましたが文科省はこれを拒否。この春からは高校歴史教科書の集団自決についての記述から「軍の強制」という表現が消えました。沖縄の思いが行き場を失ったのです。
現場の教師たちも不安を抱えています。先月開かれた「高校社会科教員の集い」。教科書の内容が変えられ、戦争の事実を語ってくれる体験者が少なくなる中、沖縄戦をどう教えていけばいいのか様々な課題があがりました。
教師「私は去年、ひたすらパニックに陥っていました。沖縄の歴史をどんな風に教えたら、どんな矛盾があるか、やりやすいかということを話し合う場がなく」「何年か経ったときにきちんと教えられるかといったら無理あろうと」「なんだこの記述は、これだけでは不十分だよという発言が現場から上がってこないと、記述を元に戻すきっかけが生まれない」
教科書を使う当事者として、生徒たちにもこの問題に真剣と向き合ってほしい。戦争や平和に対する考えを押し付けられるのではなく、自分の心で考えてほしい。北部農林高校のシンポジウムにはそんな教師たちの思いがありました。
教師「心の中に平和の種を植えてもらいたい。戦争ってやだね、戦争しないっていうんだけど、そこでとまっちゃいけないと思う」「何か楽しいね、安心だね、もっと豊かになれそうだねという世界をみんなでつくれば良いなと思います。そのためには、意見を言わなければならない、高校生だって意見を言わなければならない」
シンポジウムが終盤に差しかかったころ、一人の女子生徒が勇気を振り絞ってこんな発言をしてくれました。
生徒「こういうことに気持ちを込められない人は意識が低いとか、冷たいとか、不真面目といわれるけど、私と同じ気持ちを持っている人もいると思う。どうか、私みたいに深く気持ちを込められない人を悪い奴だとか、いわないでほしいです」
『戦争には反対、でも同じように熱くなれない自分は、みんなから受け入れてはもらえないのではないか』と心配していた生徒。これから先、沖縄戦をどう教え、伝えればいいか、考えさせられる意見でした。
教師「考え方も違うし、価値観も違う。平和という言葉の一つひとつの概念も違う。でもその一人ひとりが大事にされることが教育の中では一番大事だと思っています」
生徒「自分の意見だけじゃなく、人の意見も聞けて、考えさせられてためになった」
津嘉山拡大さん「1年経って、こういうことができるんだということが大きくて、あの時とまた違う平和について考えることができた」
教師「高校生が県民大会きっかけに沖縄戦の問題や歴史の問題を考えるようになったことが実感としてよくわかったし、手探りながらも、何かやりたい、やり続けたいというのを持っていることが実感できた」「何が平和かを考える、日常の自分の生活や普段考えていることにひきつける、そんなことを学ぶ、考える日にできたらよいと」
県民大会から1年が経ち、この問題に対する温度もやや下がったのかとも思われましたが、学校現場ではこれが沖縄県民にとってどんなことを意味するのか、議論が続いているんですね。
島袋記者「沖縄の子どもたちは小さな頃から平和学習をしているので『戦争はダメ、平和が大切』とは言えるけれど『なぜダメなのか』と問われると言葉を持たない…という指摘もあります。体験者が年々少なくなっている今だからこそ、生徒も先生も自分の頭で、心で考がえることが大切なのだと思います」
内容が変わった教科書を使う学校の先生たちも苦悩が続いていますね。
島袋記者「社会科の先生たちは教科書に『日本軍の強制』を明記し、沖縄戦の記述を充実させるよう、あさってにも教科書の出版社などに要請文を要請文を送る予定です。また、教科書を書く執筆者も記述を元通りにするよう年内にも訂正申請をする予定ですが、出版社側が二の足を踏んでいて、まだ見通しが立っていません」
この問題が動くことはないんですか?
島袋記者「教科書の執筆者は真実をきちんと教科書に載せたいと活動しています。ですから沖縄県民が彼らを応援し支えることが大切だと思います。世論が盛り上がれば、訂正申請に前向きになる出版社も増えると見られます。何よりも県民が今後もこの問題に注目していくことが必要だと思います」