辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票。沖縄で基地問題をめぐる県民投票は2回目、名護市民投票も含めると住民投票は今回で3回目です。沖縄が過去2度経験した住民投票から今私たちが学ぶべきこととは。過去の取材映像を中心に振り返ります。
大田知事(当時)「初めてですね、戦後50年経って、県民1人ひとりが自らの意思を表明するという意味で、歴史的な事件ではないか、という風に考えております。」
23年前に行われた県民投票。在日アメリカ軍人らの特権的地位を定める日米地位協定の見直しと、基地の整理縮小を求める声が、48万2千票あまりに達し、圧倒的な結果となりました。
大田知事(当時)「過去半世紀の間、自らの意思を問われることなしに、常に他律的に律せられてきた自らの生活というのを、将来に向けて自分たちの手で作り上げていこうという、我々が絶えず話しておりますことがようやく理解されるようになったのかなと。」
過重な基地負担を引き受けてきた県民の、負担軽減を求める声が形になった96年の県民投票。当時の大田知事は、その結果を県民の「自らの意思」と繰り返し、評価していたことがうかがえます。
一方対照的だったのは、その翌年の名護市民投票。辺野古に、新たな基地を受け入れるか。名護の街全体が激論に包まれました。
喜久里逸子記者「日ごとに加速してきた、賛成・反対の支持を求める運動は、投票日を明日に控え、かなり激しいものとなっています」
前年の県民投票とは異なり、過激な集票合戦が繰り広げられ、辺野古基地賛成票も46%台まで伸びました。当時、橋本内閣の沖縄政策のブレーンとして、大田知事と度々面会していた下河辺淳氏は、96年県民投票と97年名護市民投票を分析した、こんなメモを遺していました。
下河辺氏のメモ「全体としてみれば投票者数の増加分と基地反対票の減少分が受け入れ票という結果になった。」
下河辺氏は、名護市民投票では「基地反対」が県民投票と比べ2,900名減少していると指摘。そしてこの2,900名がすべて辺野古基地の受け入れに変化したとして、県民投票から投票者が増えた9,700名がすべて基地受け入れ票を投じたとすれば、基地受け入れの全体票数とほぼ一致することを指摘していたのです。その背景として挙げたのは。
下河辺氏のメモ「名護を含む、本島北部の振興策が期待された。本来、基地の整理縮小・移転の問題は地域の振興対策とは別の問題である。」
基地をめぐる議論に付いて回る、振興策の”アメ”。96年の県民投票を、大田知事が「県民自らの意思」と評価したのとは対照的に、名護市民投票の結果は、振興策の影響があると認めているのです。
下河辺氏のメモを分析した琉球大学の山本章子講師は、振興策を投票の選択肢に絡めたことも、賛成票が伸びた1つの要因だったとみています。
琉球大学・山本章子講師「賛成・経済振興の観点から賛成・反対・経済振興の観点から反対、の4択にしたんですね。経済振興と絡めることで賛成票を多くすることに成功した面があったんだと思うんです。」
辺野古埋め立ての是非を問う今回の県民投票は、そうした問題はないのでしょうか。
キャスター:久田さん、名護市民投票では選択肢に振興策を絡めたことが投票に影響を与えた、という指摘でしたね。
久田記者:はい。詳しく見ていきますと、無条件の賛成は2,500票程度だったのに対し、条件付き賛成は11,700票もあったんです。振興策を加味した選択肢があるだけで、投票に相当影響したことが推測できると思いますね
キャスター:さて、今回の県民投票の選択肢には、振興策を条件としたものはありませんが、最後の最後に、これまでにない選択肢「どちらでもない」が登場しました。これをどう考えますか。
久田記者:はい、今回この選択肢をめぐり、琉球大学で興味深い実験がありました。実際の県民投票と同じ設問で、賛成・反対の2択の場合と、「どちらでもない」を含む3択で学生に投票してもらったんです。結果を分析した専門家にお話を伺いました。
琉球大学 久保准教授「賛成反対がそれぞれに減って、どちらでもない、が増えるのかなと思いながらやっていたんですが、結果として出てきたことは、賛成票の割合は変わらずに、反対票だけが減る、というというものでした。」
久田記者:実験の結果、賛成・反対の2択で実験した学生の98.5%が、埋立への賛否にはっきりと投票したのに対し、3択では、「どちらでもない」に22.3%が投票する結果になった、ということなんです。
久田記者:実際の県民投票では、「どちらでもない」という人は、投票に行かないのではと考えられているため、久保さんは「どちらでもない」が2割を占めることはないと見ていますが、この「どちらでもない」の選択肢を、逆に、考えるきっかけにしてほしいと話しています。
琉球大学 久保准教授「どうしても3択にするということ自体が、そうしたい人たちの思惑の影響を受けたという風に見がちなんですけど、そもそも賛成反対という2択にすること自体、反対が出やすいということを思っているからこそ、代替的な案を出しているわけですね。」
琉球大学 久保准教授「どちらでもないという選択肢を前にした時に、今まで自分が持っていた反対だったり賛成だったり、そういう意見が、”どちらでもない”があっても、それでも賛成なのか反対なのか、ということをやはり考える機会にしてほしいというのがあります。」
久田記者:考えた末に「どちらでもない」という人がどれくらいいるのか、わかりませんが、一定の人が「どちらでもない」に投票した場合、それをどう評価するのか、玉城県政にとっても悩ましいところだと思います。
キャスター:「どちらでもない」をきっかけに、とことん自分の考えを煮詰めていくことになればいいですね。以上久田記者でした。