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沖縄を巡る、有事や国際関係などを考える「『有事』の果てに」です。前回に引き続いて、アメリカで取材した、台湾有事をテーマにしたリポートをお送ります。今回はアメリカで共和党系とされるハドソン研究所の見解を紹介します。核兵器や各国の対応も含めて、日本、そして沖縄への影響がアメリカではどのように議論されているのでしょうか。

玉城知事「台湾有事は日本有事という言葉が」「危ういぐらい独り歩きしているのではないかと思う」

去年9月の玉城知事のアメリカ訪問。およそ1週間に及んだ活動がスタートしたのは、共和党系とされるワシントンのハドソン研究所での講演でした。

そのハドソン研究所がこのほど発表したのは、西太平洋地域のアメリカ軍基地について分析したレポートです。航空機を相手の攻撃から守るシェルターの不足など、基地の脆弱性を指摘し山口県の岩国基地は、10発のミサイルで無力化できると解説しています。

ウォルトン氏「沖縄や日本の他の地域にあるアメリカ軍基地は、1990年代よりも大幅に、深刻な脅威に直面している」

そう語るのはレポート執筆者の一人、ティモシー・ウォルトン氏。

塚崎記者「米空軍嘉手納基地です。あちらに戦闘機を格納するシェルターが複数確認できます」

台湾有事では日米のになることが想定される嘉手納基地。ウォルトン氏は、沖縄の米軍基地の状況をこう説明します。

「有事」の果てに(2)/共和党系米シンクタンク/台湾有事で米中双方が「核使用」も/日本が負うリスクとは

ウォルトン氏「報告書では嘉手納基地や普天間基地は岩国基地と同様の評価はしていない。沖縄のアメリカ軍飛行場はより強固だといえる。とはいっても、沖縄は中国にとても近い。紛争が起きた場合、中国は標的に多くの兵器を投入する可能性がある。沖縄や日本の南西諸島で、緊急に防御を高める必要があることがわかった」

在日アメリカ基地の攻撃からの脆弱さが指摘される一方、近年のアメリカ軍と自衛隊の訓練では、部隊を民間空港も含めた各地で運用する方針がとられています。ウォルトン氏は「作戦の効果」のためと語ります。

ウォルトン氏「アメリカ軍の部隊が民間や商用、軍用のさまざまな飛行場に分散できれば、作戦を効果的にし、中国は少数の攻撃目標への対処から、多数の異なった目標への攻撃をしなければならなくなる。おそらく、C130輸送機やヘリコプターのような航空機から始めて、防災用の物資の輸送を実践すれば、災害時には早急に物資を運ぶことができるようになる。安全性の基準が確立され、通常の運用が確立されれば、ほかのクラスの軍用機に拡大することができると思う」

日本各地に部隊を分散させて作戦を進める構想を描くアメリカ側。さらに懸念されるのは、米中の「核戦争」についてです。ウォルトン氏を同じくハドソン研究所で研究を続ける村野将氏。台湾有事で「核兵器のカード」をどう使うか。こう語ります。

「有事」の果てに(2)/共和党系米シンクタンク/台湾有事で米中双方が「核使用」も/日本が負うリスクとは

村野氏「(中国は台湾有事で)台湾周辺を中国の法執行船で取り囲んだり、外側を中国海軍の船で取り囲んで緩やかな隔離・臨検のような状態から徐々に軍事的な海上封鎖のような状況を作っていく。米国がその封鎖を破るため軍事介入をしようという動きを見せたとき(中国が)実際に核兵器による攻撃を行うかはわからないが。核を使うかもしれないというそぶり。例えば弾道ミサイルの発射実験を太平洋に向けて行ったりだとか、米国側、米国や台湾の防衛作戦に協力するかもしれない日本側に対して、もしかしたら我々がこの台湾有事に関与したら、中国は核攻撃を我々に対してしてくるかもしれないと脅しを想像させることで協力をためらわせるということをしてくる可能性は十分考えられる」

ウクライナや中東などでの危機が続く中で、台湾有事が発生し、アメリカが核を使うシナリオを解説します。

村野氏「米国の西太平洋地域における通常戦力は、今や中国に対して必ずしも優勢ではない。開戦数日間のうちで非常に貴重な長距離の精密誘導兵器というものを消費してしまって、もう中国の侵攻を止めるためには核兵器を使うしかないという状況に追い込まれる可能性がある」

村野氏は台湾有事が発生した場合に起きうることについて、政府が国民に説明するよう求めました。

村野氏「(日本には)中国から通常戦力だけではなくて核を含む脅しを受けたとしてもそれをきちんとはねのけられる拒否力・防衛力を整備して、台湾を守るための米軍の作戦に協力するというオプションと中国からの脅しに屈して、米国の台湾防衛作戦には協力せず、台湾がとられる可能性が高まることを見過ごすという大きく分けてこの二つのオプションがある。今の米中関係で行くと西太平洋地域の軍事バランスの最前線は台湾なわけですけれども、沖縄を含む南西諸島と日本がまさに文字通り最前線になってしまう。そこに防衛線を引き直して、今度は台湾防衛でなくて日本防衛を最優先で考えなければならない状況が生じてくる。政府はなかなかリスクがあると説明するのは難しい。台湾防衛にコミットすることは米国に協力せずに台湾を見捨てることよりも、相対的に日本にとって引き受ける価値のあるリスクであると正直に国民に説明する必要がある」

「有事」の果てに(2)/共和党系米シンクタンク/台湾有事で米中双方が「核使用」も/日本が負うリスクとは

アメリカや日本の戦略上の観点から、南西諸島の立ち位置についてはこう強調します。

村野氏「何らかの作戦基盤は日本本土、特に南西正面において必要であり続ける。我々に必要な作戦基盤は増やす必要はあっても減らせる余地は殆どない。作戦基盤を沖縄だけでなくて日本全土に広げることで、沖縄だけでなくてほかの地域、地方自治体でも日本の安全を高めるために負担をしているんだという状況は今後出てくる必要がある。結果的にあくまで相対的だが、沖縄の負担軽減。沖縄だけに集中しているわけではなくて、ほかの地域でも日本の安全を高めるために貢献をするために負担をするのだと。インド太平洋地域全体で中国から降りかかる安全保障上のリスクを軽減するために負担を相対的に分散させていくことが結果的に紛争を抑止する。中国にとって攻めにくい、結果的には相対的な安全を高めることになるのではないかと思う」

村野氏が語る、台湾有事のリスクと負担。政府の口から、それが語られないままであれば、外交や防衛、そして住民がどうなるかも議論することすらままならないのではないでしょうか。

台湾有事については、多くの基地負担を抱えてきた沖縄だけでなく日本全体が巻き込まれるリスクも指摘されています。

防衛力の強化を巡って、勇ましい議論をする前にそのリスクや危険性は、日本全体で負うことになるのだという、当事者意識を持つことが必要になると思います。

2回にわたって軍事の視点から台湾有事の分析をお伝えしてきました。次回は外交の観点から台湾を巡る米国と中国、そして日本の関係について専門家の分析をお伝えしていきます。ぜひご覧ください。