首里城の復興を追いかける「復興のキセキ」です。今回、取り上げるのは針と糸が織りなす「刺しゅう」です。伝統ある技で復元への思いをつなぐ2人の職人を紹介します。
異国情緒あふれる町・長崎。この地で正殿の復元に力を尽くす女性がいます。寺田貴子さん。首里で生まれ育ったうちなーんちゅです。普段大学で教鞭をとる寺田さんが制作するのは、国家の儀式や政が行われた正殿1階・御差床(うさすか)を飾る”垂飾”の刺繍。
縦・24cm、横・3.6mほどの布地の両面には、炎が燃え上がるような火炎宝珠(かえんほうじゅ)に阿吽の龍、瑞雲など 煌びやかな文様が手作業であしらわれます。
寺田貴子さん「自分が刺したんですけど、あら綺麗だわって思ってしまったり。私は刺しゅうが楽しくてしょうがないし、これをするために私は生まれて刺しゅうを習っていたのだと思うので。命の刺しゅうですね」

実は令和の垂飾、平成の時とは異なる技法が用いられます。平成の復元では、日本刺繍 のみが使われていましたが、今回は、刺繍技法のひとつに「琉球古刺繍」と呼ばれる繍い方が採用されました。
かつての琉球で、神事の衣装などに使われていましたが、王国の終焉後、技術は受け継がれず途絶えてしまった、と見られています。失われた技法を取り戻そうと奔走したのが、他でもない寺田さんです。フィールドワークを重ねては残された資料を分析。見事、琉球独自の技を復活させました。
そのうち”琉球千鳥繍い”と呼ばれるステッチは、互い違いになる糸の重なりが立体感を生み出します。縫った後、布地の裏に糸が渡らないのも特徴です。
寺田貴子さん「(琉球古刺しゅうは)緻密だけれども重たさや圧迫感などがなくて、とても大らかでひと針前のステッチがうまく刺せなくても次のステッチとその先、その後のステッチで少し不揃いなところもカバーしてくれる。(当時の人々は)中国や日本の緻密で美しい完成度の高い刺しゅうを目にしていたと思うがそれを見ていながら琉球らしい刺繍をよくぞ編み出してくださったなと。多分得意げに刺していたんじゃないかな」
技術の継承にも取り組んでいます。沖縄に足を運んでは”琉球の手仕事”を伝えていて瑞雲の一部は寺田さんが立ち上げた古刺繍保存会のメンバーの手で進められています。

寺田貴子さん「今の技術の集大成ではあるが、琉球古刺しゅうにとってはここからがスタートだと思う。国の内外からいろんな人が見に来てくれて「自分の地域にもこういう刺繍がある」あるいは沖縄に関する記録が海外に残っているかもしれないので。そういう情報が得られるきっかけになるかもしれない。首里城の来年の完成は、大変 意義深いものだと思っている」
首里城が完成することで、新しい資料が見つかるかもしれない、技術が解明される一歩になるかもしれないというのは浪漫がありますね!
寺田さんワクワクが止まらないと話していました。ここまで琉球古刺しゅうでの復元の様子をご紹介しましたが、もう一人、異なる技法で垂飾を制作する職人がいます。
玉城アナ「長崎で琉球古刺しゅうが施された垂飾り 次なる復元の舞台はここ京都です」
日本の歴史・文化の中心として栄えた京都。市内の工房で施されるのは、龍の刺しゅうです。
大槻ひろみさん「憎めない。とってもかわいい龍 沖縄の龍という感じがします」

この道32年の技術者・大槻ひろみさん。和紙に貼った金箔を絹の糸に巻きつけた「金糸」と呼ばれる糸を用いた金糸繍いを任されています。長崎で寺田さんが琉球古刺繍を施した布地を受け継ぐ形で大槻さんの作業はことし1月に始まりました。しかし、当初は不安しかなかったと振り返ります。
大槻ひろみさん「金糸。この金糸がすごく太いんですね。こんな小さな鱗を1枚1枚縫うということはやったことがないし、理解してもらえないかもしれないが(糸が)暴れる 言うことを聞いてくれない」
平面でありながら立体感ある龍を表現するため、これほど細かな文様に対しては通常は用いない太さの金糸を操ることに。一般的な刺しゅう糸と比べてみるとこの通り。
太い糸の取り扱いは難しく糸を綺麗に折り返すことや、隣の糸とくっつくよう縫うのも一苦労でした。 また300枚以上ある鱗の作業は途方もなく…
大槻ひろみさん「一枚一枚 勘定する。数を数えるのが…もうやめようと思った。数えたら嫌になると思って。すごく苦しかったのは尻尾 やっていても、いつ終わるのかなと」

先に入った琉球古刺しゅうを邪魔しないように、一方で、控えめになりすぎずに龍が際立つように。寺田さんと相談しながら今月、3カ月かけて一匹(体)目の龍を仕上げました。実際に正殿に飾られる時の照明に近づけてみると…黄金色に輝きます。
大槻ひろみさん「もちろん龍は動かないが見ている人は動きますよね。見るために。そうするとうねっているっていうのかな。動いているような動いているのは自分なんだけど龍の鱗が動いているように見える。そういうふうに見てもらえたらうれしい」
首里城から遠く離れた地で糸と糸が紡ぐ琉球の世界。垂飾りは、正殿の完成間近の来年の夏頃に完成予定です。その他にも、垂飾りは5色の玉を不規則に垂らした飾玉も取り付けられ、さらに華やかになった姿で令和正殿を彩る予定です。ぜひ公開されたときには注目してみてください。