首里城の復興を追いかける「復興のキセキ」です。来年秋の完成を目指す首里城正殿では琉球王国当時に近い復元となっていてその一つが、正殿を象徴する朱色(あかいろ)が地元由来の弁柄を使うことでより赤みが強く落ち着いた色へと変わること。また向拝奥の彫刻物・そして屋根瓦など様々な復元が変わることとなっています。
また令和の復元ではもう1つ注目したい復元がありますそれが、朱い色から黄色へと変わる「扁額」です。政治的な意味あいを持つといわれる扁額、きょうは色だけではない彫刻物にも注目してみたいと思います。
県立芸術大学 安里進名誉教授「(扁額は)皇帝の書を慕っている非常に政治的な意味合いの強いものですね」
考古学や琉球史が専門の県立芸術大学の安里進名誉教授。長年、首里城の復興に取り組み、平成の復元から「扁額」の調査・研究に携わってきました。
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県立芸術大学 安里進名誉教授「(中国の)清の時代になって康煕帝がですね自分の書を各地に国内国外の息のかかった世界に配って、これを扁額に仕立てさせるってことを始めるんですよね。琉球の場合には、王の玉座の周りに扁額を歴代の皇帝の扁額を飾ってるわけですね、それを冊封儀礼のときに冊封使が来たときに2階に上げて見せて皇帝に忠誠を誓ってるっていうことを見せるわけです」
かつて、中国は宗主国として内政や外交などを支配していました。
県立芸術大学 安里進名誉教授「中国が宗主国になっていて琉球とか朝鮮とか周りのアジアの国々が属国になるわけです、だから何かあるときは宗主国が守ってくれるとかですねそういう後ろ盾になるわけです」
歴史的に結びつきが深い中国と関係を象徴する扁額令和の復元の際に大きく変わることになります。那覇市に寄贈された、尚家古文書「御筆御表具并御額御仕立日記」(ぎょひつごひょうぐならびにおんがくおしたてにっき)これまで扁額の下地(したじ)は朱色と考えられてましたが古文書では「鏡黄色塗」(かがみきいろぬり)という記述から下地が「黄色」だったことが分かりました。
県立芸術大学 安里進名誉教授「皇帝同治帝の変額を復元したときの業務日誌が出てきて、これに基づいてかなり具体的に見えたわけです。これは私も最初驚いて」
県指定無形文化財 琉球漆器保持者 諸見由則さん「きょう温度湿度いくらかとかあまり(塗り作業が)早くても刷毛目がでたり(漆が)あとで沈んで凹凸がないようにしたい、その調整が大変」
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首里城の復元に20年近く携わってきた諸見由則(よしのり)さん。おととしから始まった扁額の制作は、今月から地板に黄色い顔料を塗る作業に入りました。縦およそ1メートル、横およそ3.1メートルの地板には30以上の工程が施されています。今後は黄色塗りされた中山世土の文字を地板に貼り合わせ仕上げ塗りの作業に入り、来年3月の完成を目指します。
日本全国が厳しい寒波が見舞われるなか、愛知県あま市では「扁額」のもう一つ作業が行われていました。
彫刻師 杉浦誠さん「こう刻んであるところをもう一遍こうやってちょっと斜めにね彫るんですよ、そうすると斜めになった分、距離が延びる鱗が厚く見える」
彫刻師・杉浦誠(すぎうらまこと)さん。東京芸術大学で保存修復彫刻研究所の講師を務め木彫刻を教えています。今回はある縁で制作依頼があったと話します。
彫刻師 杉浦誠さん「以前琉球王国文化遺産集積再興事業っていうのがあって、その中に円覚寺の仁王像を復元するっていう仕事で木彫を担当させてもらった」
扁額の復元で額縁にあたる部分を担当している杉浦さん去年4月から作業に取りかかっています。扁額には、中国で縁起のいい数字とされている「9」から9頭の龍が施されています特に中央の龍は扁額を守るように正面を見据えています。
彫刻師 杉浦誠さん「(古文書には)ヒノキで作ってあったとか、9頭の龍がいるとか、その青龍が いるとかその青龍だけは、厚みがあって、そのサイズも書かれてて」
彫刻材ヒノキと顔の間隔はおよそ20センチ、険しい表情にも緊張感が漂います。
彫刻家 杉浦誠さん「尻尾がこうあるじゃないですか、龍の鱗がこうあって鱗1枚の重なりは体のようにいかないといけない。腹板が一体になっていなければもうちょうと楽なのに、そういう思いもありながら何度もやり直してやる」
使用するノミや彫刻刀はおよそ200本、そのうち鱗を彫る彫刻刀だけでも9本あり、龍が動く姿を想像しながらミリ単位で1枚1枚丁寧に彫り進めます。杉浦さんは、彫った龍にはある特徴があると話します。
彫刻師 杉浦誠さん「率直に言えば、龍の顔が(沖縄のは)怖くないんですよ。親しみやすいって言えばいいんですかね」
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いにしえの職人に思いを馳せ次の世代に残す作業を心がけている杉浦さん。
彫刻師 杉浦誠さん「一番大事っていうか、復元でやっちゃいけないのは自分を入れないっていうことなので、僕の作品じゃないので、とにかく僕は入れちゃいけないんですよ。当時の技術であったり考え方であったりしたものをもう一度作ることで、今にはない技術が考え方・形ですよね、それをもう一度見つめなおして作ることで当時の技術をもう一遍復活させるような(技術が)受け繋がれていかなければ勿体ない』
多くの人の知識や知見と、彫刻師40年のベテランが挑む扁額の復元来年秋、正殿の王座に掲げられます。
県立芸術大学 安里進名誉教授「扁額ってのは僕にとって正殿の見え方を、が大きく変えるもの。赤から黄色になるだけじゃなくて、それの背景には当時の国際的な琉球の置かれた国際環境があって。揺らぐ世界の中でどうやって自分の国を維持しようというふうに苦心したかっていうのがこの変額はよく表しているなっていうね」