続いては、シリーズ「たどる記憶・つなぐ平和」です。戦後80年。歴史や足元を見つめ直す機会が続くなか、街の記憶と先人たちの思いを音楽でつなごうと立ち上がった人たちがいます。歌うのは、戦後復興の象徴、『奇跡の一マイル』といわれた国際通りです。
先日、お笑い集団FECの事務所では、芸人たちがある稽古に励んでいました。
「ラストに登場するのは、MCチョンダラー・・・ハイヤ」「クレラップ、ごさまる、チョンダラーのところ、その時はこっちの位置。そうだね(クレラップ、ごさまる、チョンダラーのところはそのまま」
FECに所属する、なかちさん、ゴリラコーポレーションの幸平さん、そしてまーちゃん。3人がお笑いの枠を超えて挑戦したのは、ラップ!今回、音楽ユニット「THE安里1丁目ミラクルボーイズ」を結成し、この日、デビュー曲となる「奇跡の1マイル」を練習していました。
「クレラップ、護佐丸、ちょんだーら3MC THE安里一丁目ミラクルボーイズ!」
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彼らの活動拠点である国際通りをテーマに制作した楽曲「奇跡の1マイル」戦後復興に尽力した先人を讃えるとともに時代とともに移り行く国際通りの姿を世代も芸歴も異なる3人それぞれが素直な感情と思いをラップにのせて表現しています。
「MCクレラップ」なかちさん「僕もこの楽曲をきっかけに奇跡の1マイルって言われていた由縁だとか、国際通りの名前の由来も知ったので、同世代にちょっとでも知ってもらえたらなと思いがあります」
「MC護佐丸」幸平さん「ぼくは30代なんですけれど、30代目線から見た国際通りをテーマにして書いた」「自分たちができることを今やろうみたいな思いを込めて書いてはいます」
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「MCチョンダラー」まーちゃん「それぞれの思いを聞きこんだうえで汲み取っていただければなというのが一番かな。それが戦後80年につながると思う」
メンバー最年長であるまーちゃん。今回、ある歌詞に特別な思いを込めていました。
まーちゃん「『アーニーパイルの名を借りながら 占領者達、出し抜きながら』っていう歌詞になったんですけど」
終戦直後に建てられた大衆娯楽施設「アーニーパイル国際劇場」「奇跡の1マイル」と呼ばれる繁華街へと発展した国際通りの名前の由来も、この劇場からとされています。
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アーニー・パイルとは、アメリカ軍の従軍記者の名前ですが、当時その名を劇場につけていたことに、まーちゃんは感じるものがあるといいます。
まーちゃん「娯楽を沖縄の人たちに届けるために米軍さえもアメリカさえも利用して生きてやるぜっていう気持ちがあったと思うんですね。だからぼくらもそれは今の沖縄の現状だったりにつながるなと思って」
壺屋の住宅街見ながら、まーちゃん「この辺の感じ」八木さん「カーラヤーが多かった」「壺屋と言ったら古風があって、昔ながらのね、住宅街」
芸能や文化がどれだけ沖縄の人たちの心を潤してきたか。まーちゃんは、戦後復興に携わった人物に話を聞きました。うちなー芝居の役者・八木政男さんです。
戦前から舞台にたち、大阪の劇場などで芝居をしていた八木さん。故郷、沖縄に引き揚げてきたのは1946年。目の当たりにしたのは、変わり果てた那覇の街の姿でした。
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役者・八木政男さん(94)「あきさみよー、うちかわたる、うちなーやっていってね、もうポロポロ泣いたよ。だって、泊小学校の建物が見えたんだもん、久茂地から。もう、前島も全部何もない。焼野原。引き揚げてきてね、あの泣いたことは一生涯忘れられない」
引き揚げ後、芝居に力を注いだ八木さん。戦争で何もかも失い、皆が打ちひしがれていた時代。人々が芝居を求める思いが強く伝わってきたと語ります。
役者・八木政男さん「慰安だな。要するに。そのためにやるんだという、みんなその気持ちは持っていたよ(辛いことがみんなあったから?それを癒すために?)そうそう」「見る客も真剣に見てね、うんと泣いて笑う時には笑って」「だから、役者と客と一体となってね、あの当時は。芝居したもん」
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芝居で人々を明るく照らし続けてきた八木さんの思いに触れたまーちゃん。今に至る歴史を学び、未来にどうつなげるのか。芸能に携わるものとして果せる役割について考えました。
まーちゃん「何も物がないその時期に、自分たちで大衆を民衆を励ますっていう。そして喜ばせるという意味でも、ステージを重ねてきたんだなという重みです。だから、そこに僕としては、エンターテイメントの一番やらなきゃいけないこと根底があるなと、お話聞きながら思いました」
そして迎えた公演の日。楽曲初披露の舞台に選んだのは、お笑いの定期ライブ公演。最後の演目です。メイクを施すなどしてMCに扮した3人。「奇跡の1マイル」サプライズで初披露です。
「奇跡の1マイル」
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MCクレラップ=なかち「Mcクレラップ、歩く1マイル、誰もが振り向く刺激的スタイル」「わった―島はご覧の通り変わってしまった?睨んだ通り未来も誰かの思惑通りいい~んワッタ―想像通り」「インターナショナルぱーりータイムここが奇跡の1マイル」「Boom!だ、おっしゃる通りCool!な一本通りDeep!な夜の帷Woo!!国際通り」
MC護佐丸=仲村幸平「街であふれるオリオンのT、夢や憧れのせ三つの星島、感じるなら俺も欲しい徐々に薄まっていく沖縄の血、エイサー鳴る音ねに第三の影結果出るたびに泣いちゃうの誰?明日知れず俺らに不安の種、いいんだ俺たちがやらないだけ」
MCチョンダラー=まーちゃん「戦後の歴史を紐解けば、壺屋から始まる営みが、平和な日々を噛み締めながら、生き抜く一歩を踏みしめながら、命を繋ぐ闇市場渦巻く熱気は過去一番、アーニーパイルの名を借りながら、占領者達出し抜きながら受け継ぐ教えはしたたかに反骨の闘志、軟骨にワッターに流れる島小(しまーぐゎ)の血芸能で融和、琉球の地 ローカルなパッショングローバルとセッションどローカルな感情グローカルに合唱、ウヤキハンジョウ商売繁盛マサルハンジョウShow time enjoy!」
観客「内地の方も、世界中の方もみんな巻き込んだ歌詞で、すごいかっこよかったです」
観客「沖縄の歴史まだまだ知らないなって思う部分があったので、もっと沖縄知るためにもこの曲聞きたいなと思いました」
「MCチョンダラー」まーちゃん「自分たちが生まれたところ、自分たちが生きてきたところ、生きてきた時間みたいなのを振り返った時に絶対辿りつくんです。ここに。だから、そこでラップという表現、方法ですけれど、できたのはすごくぼくはよかったなと。若い子たちも興味持ってくれたらいいと思います」
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「最高!」
沖縄戦の継承にかぎらないが、興味・関心を持たせることは大事で、さまざまな方法がある。
激戦をくぐり抜けた人たちのおかげで自分がいるんだと気付くと、国際通りも違って見えてくる。
戦後を生きるわたしたちは、改めて足元を見つめ直し、現在を未来を考えたい。