首里城正殿の再建を追いかける「復興のキセキ」です。首里城火災からあすで5年になります。瓦工事や漆塗装などの作業が進み「在りし日の正殿の姿」が復元されていますが、今回は「火事」に対する備えについてスポットをあてます。消火にあたった消防隊員と当時を振り返りながら、二度と繰り返さないための対策とは?
2019年10月31日未明から11時間半にわたって燃え続けた首里城。正殿や北殿・南殿などが全焼するなど、甚大な被害をもたらしました。
県民(首里城火災当時)「思いが詰まった場所なので、初めて見に来たけどテレビでいるより実物を見る方がショックが大きいですね。子どもがまた奇麗な首里城をみられるのを、沖縄の人もその希望を持っているのでまた立ち上がって欲しいですね」
炎に包まれ崩れていく城。県民の目にいまも焼き付いて離れない光景です。
高良さん「一瞬で灰になってしまった現状をみて悲しい気持ちと、消防隊としてもう少し何かできなかったかという気持ちと、本当に複雑な心境でした」
那覇市消防局の高良周児(たから・しゅうじ)さんはあの日 現場に出動した消防士です。未明に緊急要請を受け、首里城の南側でホースの中継作業などの消火活動に当たっていました。
高良さん「首里城が燃えているという現実を目の当たりにして衝撃をうけているのと我々消防隊でこちらに来ていますので消防としての使命感、複雑な気持ちがあったのを覚えています」
子どものころから沖縄のシンボルで、なくなることなど想像もしていなかった首里城が焼失したのはとてもショックだったといい、あの日からずっと「また会える日」を心待ちにしています。
正殿の再建現場では、職人が”在りし日の姿”を取り戻す作業を進めるなか防災への対策も行われています。
「早期発見・初期消火のために」
火災当時の防犯カメラの映像では、夜間ということもあり、暗く不鮮明で火の勢いもわかりづらい状況でした。そこで「令和の復興」では暗い場所でも見やすい「低照度型カメラ」を正殿に35台 死角なく設置することになりました。また、煙や熱の感知器や火事が起こった時に自動で消防機関に通報するシステムなども整備される予定です。管理事務室では警備員が24時間態勢で監視していて、異変があればすぐに気づけるようになっています。
さらに火災発生時警備員が火元に駆けつけると煙が充満して入れず、対応ができなかったことを踏まえ、以前はなかったスプリンクラーを各階に設置します。また構造面では見た目をほとんど変えずに正殿の軒の部分の厚みをふやし、不燃板を張って燃えにくくするなど随所に火災対策が盛り込まれています。
高良さん「この門になるんですけど、ちょうど門の色が変わっているあのあたりを破壊して入ったと聞いています」
当時 現場に駆け付けた消防隊員の行く手を阻んだもののひとつが、「施錠された城門」です。北側から到着した隊員たちは久慶門の鍵がしまっていたことからやむを得ずチェーンソーでかんぬきを切って門を開けるまで中に入ることができませんでした。
高良さん「進入できないとなると、破壊するという、消防活動の障害になりますよね、これが迅速放水に影響を及ぼしたのかなと思う」
今回の教訓から首里城の城門には火災報知設備と連動して自動で開錠して入れるような「くぐり戸」が取り付けられることになっています。
そして消火活動をさらに困難にしていたのが坂や階段の多い首里城の要塞構造です。消防車両が城郭内に入ることができなかったため隊員は外から数百mホースを伸ばす必要があり、現場に到着してもすぐに放水が出来ませんでした。
高良さん「首里城自体高台にあるので周辺から水を送っても落差で圧力があがらない状況があったものですから、水を送ってもなかなか圧が上がらない状況だったので私たちも消火栓から中継の形で圧力を上げる活動をしていました。実際に坂道でもありますし、消防隊員は装備をたくさんつけておりますのでだいたい20㎏位を背負っている、そこから火事の現場まで伸ばす時間と体力があるので(消火活動が遅れてしまう)」
濱元晋一郎記者「ホース延長の作業がどのようなものなのか今回特別に体験します」
ホースを伸ばす作業を実際に体験すると、防火服は重く動きづらく、火災現場で呼吸を確保するために背負う空気を入れたボンベは10キロ以上もありました。20メートルのホースも1つ7キロ程で、平地を走って伸ばしていくだけで相当体力が削られます。隊員の補助があっても120メートル伸ばすのに3分あまりかかりました。
では、首里城のような急な階段やカーブの場所でのホース延長出はどうなるのか、階段を使ってやってみます。装備を背負っての階段を上がると動きが平地よりも遅くなってしまいます。
濱元晋一郎記者「(カーブでホースを整える)作業ですごく時間がかかります」
カーブの部分ではホースがどれくらいのびているか分からなくなり、補助に入った隊員4人にさばいてもらい、やっと前に進むことができました。同じ本数のホースを繋ぐのにかかった時間も4分あまりと1分も遅くなったほか、自力で装備を脱げないほど疲弊してしました。
濱元晋一郎記者「一段一段(階段を)上がるたびに(装備の)重さが足と腰にきて、そこからホースを繋いで伸ばす作業で握力もなくなってきて。平面とは全く違って体力が奪われた気がします」
放水作業をする前からホース延長作業で消防隊員の体力と放水までの時間を奪うこの問題を解決するために設置さるのが「連結送水管」です。首里城の地下に配水管を通していて火事の時にはポンプ車などが城の外から送水口を使って水を送ることで城内では放水口にホースを繋ぐだけで消火活動を行うことができ、ホース延長作業をしなくてもすぐに放水ができるようになります。送水口は正殿の目の前を含めて6基設置されることになりました。
さらに消火活動に使うための水をためる防火水槽を新たに2つ建設予定です。
高良さん「この辺に(防火水槽)ができるのであれば相当な労力カットだと思います。連結送水管があることによって最初の水を出すタイミングがかなり早くなると思うのその部分に関しては有効な設備だと思います」
復興が進む最前線の現場には、懐かしい赤と白の屋根が戻っていました。
高良さん「焼け跡からは想像もできない速さで着々と工事が進んでいると感じる。この火災を経験した我々が今できることをしっかりやっていってそれを後輩たちにも引き継いでいって首里城、ひいては市民県民の生命財産を守っていきたいなと思う」
「あの日」の光景を二度と繰り返さないために。防災への意識を新たに取り組まれています。