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特集です。15日まで8日間の日程でアメリカを訪れた玉城知事。首都ワシントンでアメリカ政府や議会議員との面談、シンポジウムへの出席のほか、ニューヨークでは国連本部も訪問しました。

各地で、県内で相次いだアメリカ兵の性暴力事件のほか、辺野古新基地建設や有機フッ素化合物(PFAS)の問題、台湾有事の懸念などを訴えていた玉城知事。現地での取材を通して見えてきた、今回のアメリカ訪問の特徴をお伝えします。

玉城知事・国務省前「女性に対する暴力事件の、通報体制が全く日米合意が守られずに毀損されていたことへの懸念を表し、併せて、沖縄における基地の整理縮小、PFAS(有機フッ素化合物)の問題など、(日米同盟の)信頼関係において解決すべき問題があると意見交換した」

アメリカ訪問で、政府側に直接申し入れを行った玉城知事。訴えたのは、相次ぐアメリカ兵による性暴力事件を筆頭に、基地問題の現状と解決です。知事の申し入れを受け、国防総省のライダー報道官は性暴力事件について「徹底的な調査を行い、関係機関と協力して再発防止策を進める」などと発言しています。

大田知事(当時)「ペリー(国防)長官とは基本的問題についてお話しして、キャンベル次官補。若干立ち入ったことを話し合った」

過去、知事とアメリカ国務省・国防総省との面談では、長官や次官補が対応したこともありましたが、今回も含めて近年はより下位の「日本部長」の対応が通常。「格下げ」や「冷遇」といった見方も出ています。一方、県関係者はこう解説します。

県関係者「格上の閣僚が出てきても表面的な対応で終わるが、実務に関わっている担当者の方が、実質的な議論ができる」

玉城知事訪米/現地取材で見えた成果と特徴は?/沖縄の主張をワシントンで「種まき」

連邦議員や補佐官との個別面談や、議員グループへの会合出席、大学やシンクタンクでのシンポジウムに出席し、アメリカ軍基地の問題について訴えた玉城知事。個別の問題を訴える前に、強調したのは、この言葉でした。

玉城知事「自由で開かれたインド太平洋構想も理解している」「力による現状変更もあってはならない」

安倍総理(当時)「私が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を言いますのはまさしくこれらの国々、また米国や豪州、インドなど、思いを共有するすべての国、人々とともに、開かれた、海の恵みを守りたいからです」

「自由で開かれたインド太平洋」の構想は、安倍元総理が積極的に発言していました。

欧米や東南アジア各国、インドなどの国々と軍事協力を強化する方針で、念頭には台頭する中国への対抗があります。近年、南西諸島周辺での自衛隊やアメリカ軍の活動活発化でも、大義名分に挙げられます。

陸上自衛隊西部方面隊・荒井総監「インド太平洋地域の平和と安定の基礎である日米同盟。これを基軸として最悪の事態をも見据えた備えを盤石なものとすることが極めて重要」

常々、日米の安全保障体制を支持する立場を強調してきた玉城知事ですが「自由で開かれたインド太平洋」に言及するのは異例。その狙いは次のように説明します。

玉城知事訪米/現地取材で見えた成果と特徴は?/沖縄の主張をワシントンで「種まき」

玉城知事「政府間の合意については、基本的には承知はしているけれども軍事力や抑止力に頼る外交であってはならないということ。抑止力を向上することは、平和外交とバランスをとって行うことが重要であるということを県からは(日本)政府に申し上げていると説明」

知事の訪米前、ワシントンで別の動きをしていた県内の首長がいました。与那国町の糸数町長です。8月下旬から9月上旬、日系のシンクタンクの招きでワシントンを訪れ、南西諸島の防衛力強化の重要性を訴えています。

玉城知事のアメリカ訪問活動が本格始動した、9日。共和党に影響力が強いとされるハドソン研究所。知事と対談したワインスタイン日本部長は、こう切り出しています。

ワインスタイン氏「先週、与那国町長がワシントンを訪れ与那国島の国防における核心的な役割について話をした。あるいは与那国島と台湾の関係についてあなたは台湾有事が起きた際の沖縄での人道的リスクをどう考えるか。自衛隊と米軍は日本の国防のために、あるいは沖縄の安全のためどのような役割を演じると思うか。台湾での有事について」

知事はこのように切り返しました。

玉城知事「台湾有事は日本有事という言葉が危ういぐらい独り歩きしているのではないかと思う。不安定な関係を、安定する関係に移行すべきである。安定する関係を維持するために地域間の交流を進めるべきと日本政府にも中国政府にも県の考え方として伝えている」

アメリカでの活動最終日は、ニューヨークの国連本部訪問。中満次長と面談し、北東アジアの情勢について幅広く意見交換したといいます。

玉城知事「中満次長からは先日、国連の会議で中国と韓国を訪問し、北東アジアの緊張感の高まりを感じてきたことの紹介があった。沖縄県の地域外交は、対話で地域の緊張緩和と信頼醸成を目指す。素晴らしい取り組みでぜひ広げてほしいと言葉をいただいた。アジア太平洋地域で良好な関係を国同士が構築することを希望しながらも我々が行動しうることは全力で取り組んでいきたい。それがそれぞれの地域で幅広くいろいろな方々の意思に繋がり意思を受け取った方々が具体的に行動できる環境を目指して取り組むべき。それに向かって頑張っていきたい」

玉城知事は、アメリカ訪問で政府や議員のみならず、有識者や学生そして国連にも、沖縄の基地負担の現状を訴えました。地域外交が沖縄の現状を変える力となりうるのか。その真価が問われます。

玉城知事訪米/現地取材で見えた成果と特徴は?/沖縄の主張をワシントンで「種まき」

こからは現地で取材した塚崎記者です。今回の玉城知事のアメリカ訪問、改めて特徴は何があったのでしょうか。

塚崎記者「まずは面談先から見ていきたいと思います。VTRでも紹介した共和党に近いとされるハドソン研究所のほか、連邦議員でも民主党・共和党の双方と会っている印象です。大統領選挙が佳境に入りつつある今、民主党と共和党、どちらの政権になっても、アメリカの政権や議会に沖縄の主張を伝えていくルートを保ちたいというねらいもあるようです」

玉城知事訪米/現地取材で見えた成果と特徴は?/沖縄の主張をワシントンで「種まき」

アメリカ側の反応は、どのようなものだったのでしょうか。

塚崎記者「連邦議員側からは、アメリカ軍機の夜間飛行やオスプレイの安全性などについて、政府に書簡や要請を行う意向も示されたということです。オスプレイやPFAS汚染といった基地関連の個別の問題について沖縄の状況を説明し、議員の理解を得ていた印象でした」

玉城知事のアメリカ訪問、今回で4回目となったわけですが、辺野古新基地も国が大浦湾側のくい打ち工事に着手するなど、反対してきた県にとっては手詰まり感もあるとおもいます。改めて県が直接アメリカ政府に訴えるという意味はどのようなことがあるのでしょうか。

塚崎記者「はい。こと辺野古に関しては、あくまで日本政府の予算で建設を行っていることもあり、アメリカ側でも「日本の国内問題」とみる向きもあります。とはいっても、完成までの期間が見通せず、工事に困難も予想指される辺野古新基地は、アメリカ軍の戦略上あるいは、運用のコスト、基地の安定的な運用も含めて、財政上、今後大きな問題を及ぼす可能性もあります。去年、軍の幹部が報道機関向けの研修で、「軍事的に考えれば辺野古より普天間がよい」と発言し、日本政府が火消しに追われる事態もありました。軍の関係者も含め、政府や議員に辺野古新基地の不合理性を訴えることで、アメリカ側から計画変更を日本政府に、働きかけさせる可能性を含んでいるといえます。そうしたワシントンでの活動は、県が置いている事務所の活動も含めて、県民の願いがアメリカ政府の政策に反映されるよう、いわば種をまき続ける作業と言えますが、それが芽が出て根を張ったものになるのか、県民側は見守る必要もあります」

沖縄の知事のアメリカ訪問は、1985年の当時の西銘知事から数えて玉城知事の今回の訪問で23回目となります。およそ40年にわたって、知事が直接アメリカに出向き、沖縄の状況を訴えなければならない現実を改めて考えなければなりません。