“アメリカ軍基地”をネタにしたお笑いの舞台、「お笑い米軍基地」笑いの力が生む“共感”で現状を変えることができればと舞台を続けて、20年目になります。ことしも満席の会場を笑いの渦に巻き込みました。
コント「辺野古トライアスロン」の一場面
「今辺野古トラックだらけ。すごいよ。隣を歩いていていたヤンバルクイナがびっくりしすぎて、ちょっと飛んでたからね、あのヤンバルクイナがですか、飛ばない鳥、ヤンバルクイナがですか。飛んでたよ」
沖縄が抱える基地問題などを鋭く風刺する人気の舞台「お笑い米軍基地」このコントは、新基地建設が進む辺野古を舞台に展開される架空のトライアスロンという設定。最終種目のランに替わって実施されたのは「座り込み」です。
コント「辺野古トライアスロン」の一場面
「(座り込みって楽じゃないですか?)兄さん何言ってるか。座りこみ大変だよ。(だって座りこむだけですよね?)じゅんに叩かれるよ」
辺野古の新基地建設に反対しゲート前で座り込みをする市民と警備員とのやりとりをコミカルに描き、笑いを誘います。まーちゃんの名で親しまれている、お笑い芸人の小波津正光さん。この舞台の企画・脚本・演出を手がけて、ことしで20年目になります。
製作総指揮 小波津正光さん「この矛盾とか可笑しさとか、そういうのをコントの中から、それぞれが共感してほしいなっていう。それぞれの立場で笑えることあるんじゃないかなと思う」
今月上旬。那覇市の事務所では、本番に向けた稽古が行われていました。稽古に励むのは、演芸集団FECに所属する沖縄の芸人や俳優たちです。
コントの一場面「おじさん持ってきたよ。お、つながった。せーの、米軍基地反対!ちょっと待て」
お笑い米軍基地は、2004年、沖縄国際大学にアメリカ軍のヘリが墜落した事故をきっかけにはじまりました。当時、芸人として東京で活動していた小波津さん。県外での報道に“強烈な違和感”を持ったといいます。
芸人・小波津正光さん「ぼくは沖縄の事故のニュースを見たいんだけれど、ぜんぜん全国放送では、ほとんどやってなくて」「(全国紙では)アテネオリンピックが開幕して聖火をバックににこやかに選手が手を振っている写真が一面だったりとか、このギャップ。同じ日本で、片や戦争みたいなことが起きていて、片や平和の祭典って言っている。なんだこれっていうところからですね」
「沖縄の現実を全国に伝えたい」そんな思いで2005年に誕生したお笑い米軍基地。20年にわたり、沖縄の矛盾と不条理をネタにして伝えて続けています。
稽古場の一角が小波津さんの作業スペースです。日々感じたことなどを書き込んだ数々のネタ帳。このなかから、今、表現すべきネタを選んで脚本にしています。
芸人・小波津正光さん「自分たちが見方をちょっと変えるだけでいろんな視点でつながる。であれば、お笑いって親近感だから」
まーちゃん歩いていく様子「あ、喜友名くん、久しぶりだね。場所もそうだし、ここだよね。本部席作ってたのこの辺だっけ?」
小波津さんは、新作の大ネタを制作するにあたって、ある男性を訪ねました。去年10月、この場所でエイサーまつりを企画した喜友名吾弥さんです。前島と呼ばれるこの地域は、かつてアメリカ軍楚辺通信所があった場所で、2006年に返還されました。
再び住宅地として生まれ変わりつつある地域を盛り上げたいとまつりを開催。そこで小波津さんが目にしたのは、自分たちで未来を切り開こうとする若者たちの姿でした。
前島エイサーまつりを企画:喜友名吾弥さん「会って知らんぷりされたくないし、みんなと仲良くなりたい。というのが一番じゃないですかね」
今回、改めて喜友名さんの思いに触れた小波津さん。未来の沖縄に何をつなげていくのか、お笑いが果たせる役割について考えました。
芸人・小波津正光さん「ぼくとしてはすごく彼らから沖縄が進むべき道というかやるべきことというか、そういうのがなんとなく教えられた気分なんです」
迎えた公演初日。
「もしもし。こんにちは。はい、お名前を教えて下さい。糸満ハーレーのアヒルです」今の沖縄の世情を独自の視点で切り取り、ブラックユーモアたっぷりの新作コントを披露。
そして、最後は目玉の長編コントです。基地返還後の跡地利用がテーマで、地域を盛り上げようと奮闘する若者の姿をリアルに描きます。
コント「解放地」の一場面「基地返還されて15年以上たつのにおかしくないですか。しょうがなくないか。同じ基地返還地域の北谷のハンビーとか那覇の新都心に比べたら、ここらへんは大型スーパーもなければ、コンビニもないんだからな」
アメリカ軍に土地を奪われた人をはじめ、県外からの移住者や元アメリカ兵。跡地を利用してひともうけを企む県外企業の代表と地域住民がいがみ合いますが、若者は「問題は話しあいで解決できる」と提案します。明るい未来を思い描く若者。最後にこう問いかけました。
コント「解放地」の一場面「育ってきた環境の違いとか考えかたとか関係なく。ここにいる人たちみんな心のフェンス取っ払って。一緒に笑って一緒に踊って心の解放地になったらなって思っている」
観客「沖縄のことを辺野古のこともちゃんと知って、頑張りたいなという気持ちにもなりますね」
観客「これから明るい未来、自分たちの手でつくっていかないといけないというメッセージを受け取りました」
芸人・小波津正光さん「悲しいかな、お笑い米軍基地を見て完結することがないんですよ」「自分もアンテナ張って見てみようかなとか、調べてみようかなとか興味を持ってほしいとやっているので、ぼくらを見て興味を持ってくれたら一番いい」
心の奥底にある理不尽さへの怒りを“笑い”に変える「お笑い米軍基地」基地の島・沖縄の変わらぬ現実と向き合い続けます。
今では、多くのうちなーんちゅ(もしくは多くの人)が年に一度の新作公演を待ちわびるほど人気の舞台となった「お笑い米軍基地」那覇、沖縄市での公演は満席となり、残すは、あさって(29日・土曜日)名護公演。新作に加え、過去の人気作も上演される。
まだお席はあるとのこと。詳しくは、098-869-9505(お笑い米軍基地実行委員会)まで。
「お笑い米軍基地」小波津正光ウェブサイト