シリーズでお伝えしている沖縄と自衛隊です。今回は、自衛隊の利用を念頭に、国が空港や港を整備する特定利用空港・港湾について取り上げます。
国が4月に第1段の指定をし、県内からは石垣港と那覇空港が選ばれています。インフラ整備が進むと歓迎する声がある一方、有事に攻撃拠点になるのではと、懸念もあります。識者の声も含め、探っていきます。
糸数町長「50年先100年先になって、クルーズ船が接岸できるような港を造ってと言っても無理。今が千載一遇のチャンス」
先月28日の日曜日。与那国町、比川地区の公民館。与那国町の糸数町長は、こう語りました。(空撮)住民に説明したのは、地区に隣接する港の整備。島の南側を大きく掘りこみ、大型船も接岸できる港になる計画です。
糸数町長は、空港の滑走路延長と合わせて、港の整備を求め、国や県に要請を重ねていました。政府は、与那国空港や島で新しく作る港を、自衛隊などの利用を念頭に整備を行う特定利用港湾への指定を想定しているとみられています。
住民「これから与那国がどう発展するか。有効利用できるならして、国の金を使えるなら使った方がいい」「港を造ることは、大規模な自然破壊に該当すると思う」
有事のみならず、平時に自衛隊などが利用することと引き換えに、インフラ整備を支援する構図は、住民に何をもたらすのか、読み解きます。
小嶺博泉さん「滑走路を引き延ばしてやる代わりに、軍備の増強を認めるというのと同じじゃないですか。軍事利用を認めろと。港湾に関しても。軍事専用でない。民間も利用できるのだと、観光客も入域できるぞと国が言っているのか。勝手にこちらが、解釈せざるを得ない状況にしているのかわからないが」
与那国島で畜産業を営む、小嶺博泉さん。防衛の拠点化が進む与那国島の現状に、疑問を持つ一人です。
糸数町長「重要拠点だろうが何だろうがとにかく、整備してくれるならありがたいとしか思わない。造っていただいて、めいいっぱい平和的・民主的に活用」
その中で糸数町長は、民間での利用を訴えて、整備を繰り返し求めてきました。一見、町民にもメリットがあるようにも見えるインフラ整備。小嶺さんは、与那国島の観光客の受け入れ態勢の脆弱さを引き合いに、疑問をぶつけます。
小嶺さん「掘削して大きな港を造り、観光客船が入りますよって、誰が来るのか。降りた方に食事を振るまえますか。ふるまえる場所などない。サービス業・自営業のパイは200人くらいしかない。この人たちの活性化の方が先。いま、疲弊しているから、バラ色の未来がやってくると、みんな勘違いしているのではないかと」
基地問題や沖縄振興に詳しい、沖縄国際大学の前泊博盛教授。地域の実情に合わない過大な施設の建設に、警鐘を鳴らします。
前泊博盛教授「通常、経済学的には需要と供給のバランスをとられるような形で公共施設は建設されるが、軍事施設については、需要と供給というものが全く無視する形で施設が建設される。安全保障上必要だと。有事の際には巨大なイージス艦、空母、掃海艇が入るという話になると、そのために備えて作っておこうという話になる。本来の経済規模を超える過大な施設すら建設が可能になる。地域の首長からすれば、非常に魅力のある新しい公共事業として映る。地域住民の生活を支えるようなインフラになっているのかという。このあたりの検証をしっかりしないと、過大すぎて使えない。むしろ邪魔。維持管理を求められたときに破綻する。そんな状況になりかねない」
糸数町長「滑走路の延長ができた場合には、土木建築関係業者も潤いますよ間違いなく。港湾整備もそうです」
現に、糸数町長も、施設を造ること自体の経済効果を強調する発言をしています。
中山石垣市長「万一の事態が生じた場合の備えも、本市も法令上、国民保護を一義的にになう立場として、市民の生命身体財産を守る万全の準備を行う責務がある」
4月1日、政府が発表した第1段の特定利用空港・港湾。県内からは石垣港と那覇空港が指定されました。石垣港の指定に同意した中山石垣市長は、有事に自治体が住民の避難を行う、国民保護も理由に挙げました。
政府は台湾有事を念頭に、先島地域の住民およそ12万人を、有事の際に九州に避難させる計画を立て、調整を進めています。計画では、与那国町民は、福岡県への空路の避難が想定されています。にわかに現実味を帯びて語られる、有事の住民避難。小嶺さんは、与那国町が開いた住民説明会のことを思い起こします。
小嶺さん「三宅島の例が出て、火砕流があって、全島避難しないといけないと。うまく全島避難して、一人残らず全島避難したと。自衛隊さんもきっちり動いて、助けてもらいましたと。そういう形で国民の安全を担保する動きをしていると、映像で見せてもらった。しかし、この地域で今起ころうとしているのは、武力攻撃事態ですよね。皆さん避難してくださいと、避難するときに自衛隊は先頭を切って動くことはできませんと。なぜなら(米軍の)後方支援に回るので。なので申し訳ないけども、地域の地方自治体の町長・村長・市長を筆頭に皆さん避難することをお勧めしますと。それって戦争に入りますけれども、勝手に避難してくださいっていっているのと何も変わらない」
小嶺さんは、与那国で自衛隊配備の計画が浮上した当時、町議会議員を務めていました。自衛隊配備を求める決議にも、唯一反対でした。
小嶺さん(当時)「近隣諸国との融和な関係は当然実現できる。国防上の問題とか安全を考えて自衛隊を配備してくれというのは逆行する。.(台湾との経済交流などを打ち出した)自立ビジョンとも相対する。どこに相互性を見出すのか。全く反対の走り方をしている」
2009年、当時の浜田防衛大臣が島を訪れた際には町長との面談現場で直談判しています。
小嶺さん「与那国からですよね。南西シフトが始まったというのを、僕らの責任でもあると思う。与那国の責任がここまで尾を引いた、負い目がある。もっと強くなっていれば、もっと主張していれば、もっとちゃんとした裸眼で見ていれば、こんなことにはなってなかった」
糸数町長「一言でいえば(防衛費)43兆円の争奪戦が始まっている。最西端の与那国島、離島の離島だから。離島の離島に住む我々のそれを改善するために何をやってくれるのかというのが私の訴え」
前泊博盛教授「有事の際にそこは標的になるということ。地域住民にとっては、自分たちの首長は有事を想定して配備を求めているのか、有事はないけれども、もらわにゃ損とたなぼたとして受け止めているのか」
小嶺さん「ここは自衛隊がいて、ミサイルも配備されて安全が一番担保されているという状況ということで、ここまで進んできたのにいざ有事だと、武力攻撃事態に突入したというときは一番危険なところにある。これって理不尽じゃないですか」
自衛隊の利用を前提にした空港や港の整備は、何をもたらすのか。離島の住民生活を支える交通インフラが軍事拠点、そして有事の攻撃目標に変貌するのではと、懸念は募ります。
船か飛行機に交通が限られる離島は生活していく上で、港や空港はまさに要となる施設になります。そこに自衛隊が入ってくるとなると、有事にどのような状況になるかも含めて、住民の目線から慎重な議論が求められると思います。
一方で、離島のインフラ整備をどのように進めていくかは、有事の問題とは切り離して考えていくことが必要です。離島を含めて、生活環境をどのように維持していくかは、私たち沖縄本島に住む人たちも含めて考えていくべきです。