続いてはシリーズでお伝えしている「沖縄と自衛隊」です。戦争を批判的に捉えられるようになるためにも戦争が起きてしまう仕組みを理解したうえで平和に向かって動ける人材を一人でも多く生み出そうと教育の現場で奮闘するひとりの教員がいました。
琉球大学 山口剛史教授「確認してみよう。ゼレンスキー大統領は市民に対して何を求めていましたか?書かれてるところに傍線を引いてみて、お互い確認してみてください」
ロシア軍の侵攻が始まったその日、ゼレンスキー大統領が市民に向けて語った言葉に線を引く学生たち。ウクライナはその後、国民に対して総動員令を出して、侵攻してきたロシア兵に対しては銃を使用しても罪を問わないという法をつくりました。
琉球大学 山口剛史教授「ここで考えてみよう。あなたがウクライナ市民だったらこの大統領の呼びかけ、政府の政策に賛同しますか、しませんか。その理由も合わせて書いてみよう」
一斉にペンを走らせる学生たち。思い思いの考えを書いていきます。
学生「ロシアが攻めてきてるから、こっちが何かしないと守れるものも守れなくなっちゃうんじゃないかと思って(賛同するにした)」
学生「自分は賛同しない。戦場から逃れる機会があったのに、それが無くなるから賛同しない」
学生「攻められている立場であるならば、もう後が無いからこの政策が妥当であるなと思った」
学生「人を殺すの怖いし、殺してもすぐ殺されて、それが連鎖して、戦争が終わらなくなるから(賛同しない)」
それぞれに賛成、反対の意見があるようです。
琉球大学 山口剛史教授「軍隊が私たちにとって、本当に必要な組織なのか。子どもたちが一緒にそこの展望を『軍隊が必要』から『軍隊が不必要』までを行ったり来たりしながら一緒に考えていくのが、沖縄で沖縄戦、そして基地を学ぶことを一つの宿命としている教育現場でこだわりたい僕の目標」
琉球大学 山口剛史教授「私たち自身が今の世界情勢や国の持っている課題に合わせながら、ちゃんと学び直していく、そういうことが重要になっている」
学生たちを前に教壇に立つのは、琉球大学の教育学部で長年、平和教育に取り組んでいる山口剛史(やまぐちたけし)教授です。今、世界で起きていることから戦争と平和について学び直そうとしています。きっかけは、去年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻でした。
琉球大学 山口剛史教授「僕たちがいわゆる戦争駄目だよっていう教育だけでは、なぜ戦争が起こり続けていくのか、止められないのか、答えになっていかない。ゼレンスキー大統領が国民に参加を呼びかけるのを見たときに、国民を巻き込もうとしている指導者を絶賛していく空気に違和感を覚えた」
ウクライナで起きた戦争を機に山口教授は授業の中にある言葉を盛り込みました。『戦争のつくり方』それは、一見すると平和教育とは真逆の言葉です。思わずドキっとするような言葉を使うことで戦争のメカニズムを批判的に捉えられるようになるのが授業の狙いです。
琉球大学 山口剛史教授「戦争の持っているメカニズムにもう一度ちゃんとスポットを当てながら、軍隊とは何なのか、基地とは何なのか、戦争を遂行する力とは何なのかということに目を向けさせたい。批判的に捉えられるようになってほしい」
今回は小学校の教師を目指す学生たちが受講していて、より実践的な平和教育をどう作っていくのかを半年間をかけて学んでいくことになっています。授業では、ウクライナで起きた戦争と沖縄戦の構造を比較しながら、平和をつくりあげていくために「自分ならどう考えるか?」という視点を大切にしています。
琉球大学 山口剛史教授「考えてみよう。沖縄戦のとき、沖縄県の人々は戦争に協力したんだろうか?」
再びペンを走らせる学生たち。今度はどんな意見が交わされるでしょうか。
学生「国のためとか、兵隊を助けるとか、兵隊になるとか、国のためなら進んで協力した」
学生「住民が壕を掘ったりするのは、自分の命を守るためにやらないといけないことだから、嫌々でも協力するしかなかった」
学生「全員が『1 すすんで協力し』たとか全員が『2 いやいや協力した』とかではなくて両方いる」
学生たちの意見はまたしても様々です。授業はその後、沖縄戦当時、島田叡知事や牛島司令官が県民に向けて戦争への協力を呼び掛けた資料を読み解き、『軍』が県民全体を巻き込みながら戦争へと駆り立てていったその歴史的事実がひも解かれていきました。
琉球大学 山口剛史教授「沖縄県と日本軍の関係を振り返って、戦争を進めるために必要なことは一体何だったかな」
学生「公の文書には『本土決戦のための持久戦』という表現はなくて、『天皇陛下を守るため』とか、オブラートに包んで表現している」
琉球大学 山口剛史教授「時間稼ぎと言われたら協力しにくいけど、天皇陛下を守るという大きな目的だったら、納得しやすいから、そこはオブラートに隠す」
学生「事前に命令とか宣伝とかを多くすることで、軍の扱い、国の扱いの地位についての考えを定着させたことがそのまま強制性を生んだり、戦争に駆り出されても文句を言わない状態になった」
学生「『軍が一番』『軍ファースト』という県の考えから、国民もそういう考え方なんだなって、県と同じ考えを、国民も持つようになった」
山口教授は今回の授業を通して将来、沖縄の教育現場を担う学生たちに平和をつくるために何が必要かを自ら考え、未来の教え子たちにも、それを伝えられる先生になってほしい、という思いがありました。
琉球大学 山口剛史教授「一人ひとりが平和を作り出していくために何が必要かというのを自分の頭でしっかり考えて、必要な社会の仕組みやルール、そして自分が取るべき行動を自分の力で模索できる、そういう人間に育ってほしい。そういうことを一緒に悩める、子どもと一緒に悩める教師になってほしい」
『戦争のつくり方』を学んだ学生たちは、授業を終えて、平和をつくるために何が大切なのか、思いを巡らせていました。
学生「戦争を進めるために必要なことはなんでしょうかっていう質問に対して、今までは平和学習が好きだったので、淡々と自分の気持ちを言えたんですけど。いざ言葉にしてみたら全然出て来なくて、まとめられなくて、自分の中でも意見を改めて考えさせられるような授業だった」
学生「戦争をするっていう風潮だったり、風潮を生まないとか、それを止めることが大切だなと思った」
学生「軍隊や武力で平和を作り出すことはできないと思うと考えていたんですけど、軍隊がある意味ってなんなのかなって感じた」
記者解説 沖縄と自衛隊 戦争のつくり方を学ぶ?
ここからは取材を行った町記者です。
町記者「戦争のつくり方を学ぶという逆説的な発想からゼレンスキー大統領の「軍を支援し、防衛隊に入りましょう」という言葉と沖縄戦当時の島田知事や牛島司令官が住民を戦争へ動員させていく、その構造の共通点を学ぶことで、いわゆる普段イメージする平和教育とは別の視点から平和のためにどんなことが出来るのか考える授業でした。」
町記者「インタビューの中で、山口教授が学生たちの意見はバラバラで良くて、求めている正解もないと語っていたのが印象的で、将来の平和教育の担い手である学生たちにだからこそ、正解のないの問いに対して、学生同士を含めて、一緒に悩み・考えるという行為自体が有意義な時間になったのでないかと思います。」
町記者「今、世界で起きていることに目をむけ、沖縄戦と比較検証することで、平和をつくるための考え方がもうひとつ解像度があがって、何が大事なのか、より具体的に考えられるようになったのではと思います。」
町記者「今回、授業の終盤で、山口教授からメディアの役割をどう考えるのかといった質問が私にあって、私自身もまさに授業に参加した一幕がありました。」「日々のニュースを通して、今、沖縄や日本で起きていることに対して理解を深めて、それこそ、政府が戦争に向かっていないか、平和の道から外れていないか注視し、常に自問自答しながら、大学生の発言であった『オブラートに包み隠された言葉』の真実を見抜く力を養っていく必要があると、改めて感じました。」
ここまで町記者でした。