今を生きる私たちが沖縄の未来を見ていくシリーズ「IMAGINEおきなわ」です。まずはこちらをご覧下さい。体育館のように見えますが天井がずいぶんと斜めに設計されています。
ちょっとバレーやバスケをするにはたいへんそうですね。どうしてこんな造りにしたんでしょうね?じつはこの建物は老朽化で取り壊しが決まっています。なくなってしまう前にその謎や設計に込められた思いを考えてみようという見学会が行われました。その様子をお伝えします。
南城市の高台に位置する「県立玉城青少年の家」2010年に条例で名称は変更されましたが、それ以前は「少年自然の家」という名前で親しまれていました。全国では1960年代の経済成長の中、子どもの居場所づくりがおざなりになってしまった反省により70年代から全国に建てられました。
玉城では1980年にオープンして小学生の自然体験学習や家族連れ団体などのキャンプや研修で、これまでのべ80万人が利用しました。
玉城青少年の家の敷地内には、すでに新たな宿泊棟が完成していて12月から営業を始めます。そして建設から43年余りたった古い施設は老朽化のため今年8月に休業して来年度までには取り壊されることになっています。
解体を前に先月、玉城青少年の家では、お別れ見学会が開かれました。企画したのは4年前から県の指定管理を受け運営している法人です。
一般社団法人沖縄じんぶん考房 山崎新さん「ことしの3月に中学3年生の卒業遠足をやった時に自由時間に中3の男子たちが1時間半ずっと鬼ごっこをしていた。階段が3カ所あってスロープもあって逃げ切れる」「ひょっとしたら昭和55年の時点でここはやはり自然体験の施設として子どものことを考えて造ったのではないかという仮説がふっと浮かんで、ただ取り壊すだけでは(建設の理念が)残らないのではないか」
山崎さんが代表をつとめる法人は那覇市の児童館も運営していて子どもや親子の学び・遊びの環境づくりに汗をかいています。ここでも、当時建設に携わった設計事務所や青少年の家に残されていた資料を整理し公開することで建物に込められた理念や工夫を、関心があり集まった人たちと考え記録しようと試みました。
建設に携わった建築士はすでに他界していて詳しい話は聞けませんでしたが、強力な助っ人が手を貸してくれました。
普久原朝充(ときみつ)さんは県内建造物の本で監修をつとめるなど沖縄の風土や歴史との関りにも詳しい建築家です。専門家のナビゲートの中、見学会は進んでいきました。
アトリエ・ノア 一級建築士 普久原朝充さん「ここが十字型の(建物の)中心、みんなが集中して顔を合わせる場所というかこの建物の中心がどこにあるか分かりやすい表現をこの真ん中の空間がしていると思う」
ちなみに小さなステージになっている場所の壁画は知念高校美術部の作品です。現在高校は与那原町にありますが沖縄戦後すぐ設立された場所は旧知念村いまの南城市で縁があります。さらなる注目ポイントは、障がい者のための設計です。
アトリエ・ノア 一級建築士 普久原朝充さん「いまのバリアフリー法のもとになるバートビル法ができたのが1994年、当時その言葉バリアフリーなんて言葉も無かったにも関わらず、身がい者でも対応できるようなスロープの場所があったり身障者用のトイレを当時から作っていたりと意識が割かれているのがすごく大事なことだなと」
スロープとともに印象的なのが、たくさんの窓がある体育館と思いきや、入口には「プレイホール」の文字。入ってみると天井は斜めに設計されています。球技をするなど体育館として見ると使いにくそうに感じますが。
アトリエ・ノア 一級建築士 普久原朝充さん「玉城城跡からの眺望を意識して設計されているというのが分かるというか低層で2階建てさらに城からの眺望で海が見渡せるようになだらかな地形に合わせて周囲の景観になじむように造られているなと」
「もともと体育館として造るのではなくてプレイホールとして造られているので利用者の方々がここでオリエンテーションなどをするための目的で造られているなという意図を感じる」
「屋上から見るときも星空観察をするときにプレイホールの建物がもし真っ直ぐに造られていたらそれが眺望を阻害してしまう要因になる海を意識できる造りになっているというのはこのプランの良いところだと思って見ている」
一方、子どもの遊びの視点から、山崎さんが注目したのは建物の至る所にあるベランダのような空間です。
一般社団法人 沖縄じんぶん考房 山崎新さん「外と中の間のあいまいな空間があって、子どもたちがのんびりしゃべっていられそうな和気あいあいとしていそうなイメージが浮かぶようなつくりなので」「とてもゆとりがある。走り出していくエネルギーもあるし座ってゆっくりしてもいい。空間の豊かさはとても大事なポイントではないか」
この日さまざまな立場から見学会に参加した人たちの感想を聞きました。
一級建築士 美濃祐央さん「この建物が十字型クロスの形を平面図ではしているが、その交点に必ず縦をつなぐ階段やスロープと水場がそこに配置されている。入った瞬間に涼しい。それは外に木がたくさん植わっているが木陰の下で過ごすようなやさしい時間を過ごさせてくれる」
コーラス指導者 渡辺奈穂さん「ジュニアコーラスで毎年来ていて子どもたちもすごく楽しみにしていて」「外と中がつながっているみたいな感覚が次の建物であるかどうかは分からないが・・ちょっと寂しい」
県立玉城青少年の家 田端一正所長「沖縄の子どもたちのためにこの施設はよく頑張ったなと思ったのでそういったことを思い知るとても良い機会になった。」「(新しい建物も)かならずいい施設にしていきたい」
12月から新しい施設での運営もスタートする玉城青少年の家その準備もしながら、旧施設についての記憶も取りまとめられます。
一般社団法人 沖縄じんぶん考房 山﨑新さん「1980年というと復帰して8年、まだまだいろいろなものをつくらなければいけない。社会・街をつくらなければいけない中で」「建物にここは自然体験を子どもたちにしっかりさせたいという意志がある新しい青少年の家の敷地として生まれ変わった時に昔からこういう思いでここは運営しているよとバトンが渡せるようにしっかりまとめていきたい とても楽しみ」
高度経済成長の中で、子どもの存在がおざなりになってしまった反省から生まれた「青少年の家」ですが、この子どもたちのための場所という基本にある思いを参加したみなさんは改めて感じたようですね。
社会に、そして大人に余裕がなくなっているいまだからこそ、子どもたちのためになることとは何か考えていかなくてはと思います。