続いてはシリーズでお伝えしている「沖縄と自衛隊」。「終戦の日」となるきょうは、国民保護法にもとづき、有事の際の対応を義務付けられている「指定地方公共機関」について考えます。
8月8日麻生太郎副総理「戦う覚悟です。いざとなったらお金かけて防衛力持ってるだけではダメなんです。それをいざとなったら使う、台湾の防衛のために」
今月8日、台湾を訪れた麻生副総理は、台湾の関係者らが集う講演会の場で、「戦う覚悟」が求められていると発言しました。
7月28日(金)防衛セミナー
一方、先月末に那覇市内で開催された「防衛セミナー」の場において、元陸上自衛隊のトップは「軍だけでは国は守れない」と発言。
元陸上自衛隊幕僚長 岩田清文氏「国民一人一人が、戦争の戦じゃないですよ、それぞれの持ち場で闘って国を守る。担い手は自衛隊だけではない。軍だけでは国は守れないんです。国民一体となって闘う姿勢を示す。全省庁、自治体、公共機関、全てを持って、そういった強靭な体制を作り上げることによって、戦争を抑止をする」
「防衛セミナー」を終えた会場で姿を見せたのは、「台湾有事」に揺れる最前線の島、与那国町の糸数町長でした。先月、松野官房長官が与那国町を訪れた際、糸数町長は「堅牢なシェルターをつくって欲しい」と求めていました。
糸数健一与那国町長「堅牢で多機能的な、シェルター機能を持たせられるような(新庁舎を)つくる必要がある」
国が「戦う覚悟」を表明し、自衛隊は市民に対して「闘う姿勢」を問いかけ、国境の島からは「シェルター」が求められる中、国民保護にもとづく「指定地方公共機関」の制度について改めて考えます。
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教授「今、日本には全部で10の緊急事態法制が存在してまして、五つが人災絡み、五つが自然災害絡みなんです。指定公共機関の緊急事態法制というのは、人災の五つのうちの一つでありまして、本来であればそもそも人災において、指定公共機関が必要なのかどうかという議論もある」
こう話すのは、メディアやジャーナリズムに詳しい専修大学の山田健太教授です。
指定公共機関の制度について自然災害ではない人災を前提としたその在り方に疑問を投げかけます。「指定地方公共機関」は、国民保護法にもとづき、有事の際に国民を保護するための措置を実施する責務を担うことになっています。その内容とは、警報の発令や避難指示をはじめ、運送や通信、避難住民の救援などの対応です。
県内では、通信やガス会社をはじめ、船会社やバス、トラックなどの交通に関する企業、県医師会や薬剤師会などの医療団体などが指定されています。そして、県内の民放テレビ局とラジオ局のメディア企業も指定されています。
山田教授は、メディアが指定地方公共機関に指定されていることについて、二つの過去の実例から懸念があると指摘しています。
事例1 『湾岸戦争と報道協定』
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教授「湾岸戦争時の外務省による取材制限が始まって、自衛隊のイラク派遣の際に、当時の防衛庁と同行記者の間で結んだ報道協定、すなわち不報協定。いわゆる自衛隊員の生命・安全にかかわるような取材報道はしないということ。この自衛隊員の安全に関わる取材報道はしないといってしまうと、全てなんです。なにも取材報道できないのが実態ですので、そういう報道協定を結ぶという意志が政府にはあると。実際に協定を結んだ実績が日本の報道界にある」
事例2 『東日本大震災と政府要請』
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教授「(東日本大震災のときに)放送局をはじめ、報道機関に対して二つの要請が出されまして、その要請の中には、正しい情報を報じなさいと書いてあるんです。政府が正しいと思う情報を報じなさいという要請が出ることは、正しいかどうかについての判断を政府がしますよということの裏返しなわけでして、これはジャーナリズム活動とは相容れないことだと思います」
メディアが指定地方公共機関に指定されるに至る経緯は、決して平坦なものではありませんでした。2004年に国民保護法が成立し、翌年から実施された説明会。県内のテレビ・ラジオ民放5局の報道責任者らは「取材・報道の自由を脅かす」とその懸念を強く示しました。
また、各放送局の現場で働く社員たちが所属するマスコミ労働組合でも強い反発が。そして、2006年。民放5局は社長の連名で意見書を提出します。
意見書「報道機関として、いかなる緊急事態にあっても沖縄県民の基本的人権及び知る権利を守り、自由で自律的な取材・報道活動を貫く」
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教授「二つの過去の実例があることを考えれば、当時、沖縄の放送局が抱いた懸念は単なる想像ではなくて、非常に現実的な危惧であると言えます。稲嶺さんとの協定は、それはそれなりの成果だと思う。いわゆる取材報道の自由は守るという成果を確認をしたわけですから」
度重なる県とのやりとりを経て、民放5局は最終的に指定を受理。その際、当時の稲嶺知事が県の「回答」として各局に示した文書には、その対応について「放送事業者の自主的な判断に任せる」と明記されています。
県が民放5局に提出した回答書「国民保護法上は指定公共機関が作成する業務計画に対し、知事が助言することが出来ることとなっておりますが、その助言を受け入れるかどうかは放送事業者の自主的な判断に任せられているものであり、これに従う義務はありません」
一方で、現場を担う社員たちからは、指定の撤回を求める声明が出されました。そこには沖縄戦の教訓から「戦争のために二度とペンをとらない」という文言が。
マスコミ労協 文書「戦争のために二度とペンをとらない、マイクを握らない、カメラを回さない。(略)報道機関が再び「有事」「国民保護」の名のもとに「大本営発表機関」となることを断固拒否するとともに(略)ただちに指定受諾を撤回するよう強く要求する」
指定の受諾から17年、山田教授は当時とは、大きく状況が変わってきている指摘します。
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教「離島も含めてこれだけ自衛隊の配備が進んで、島に自衛隊の施設がいっぱいある、自衛隊員もいる、場合によっては攻撃対象にもなり得る、そういう現実的な環境の違いは明らかに出てきた。この三、四年のまさに南西シフトであったり、あるいはシェルターをつくるという話であったり、あるいはアラームが頻繁になるという事態があったり、何となく不安感が募って、制約を受ける、表現の自由が制約されることに対する違和感がなくなってきている」
こうした状況を踏まえて、改めて制度そのものの在り方を考える必要があると言います。
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教「人災である戦争のときに、こんな指定公共機関という仕組みはそもそも必要なんだろうかと。そもそもの疑問というのは常にもう一回立ち返って考えることによって、より戦争を考えたり、戦争のときの自分たちの権利の侵害、権利の制限を考えたり、あるいは報道機関のありようを考えたりする機会になると思う」
制度の有無に関わらず、メディアの役割として、住民視点で現場の実態を伝えていくことが重要だと山田教授は考えています。
専修大学 ジャーナリズム学科 山田健太教授「八重山に危険が迫ってきたからといって、与那国や石垣から記者を全部引き上げるのかっていう話になってくる」「その判断をどうするかが、より具体的には大きな問題だと思っていて、私自身のこれはいち外部の研究者としての希望にすぎませんけども、やはりジャーナリストとしては、できる限り手段を尽くして、島民がいる限りは、自衛隊員は別としまして、島民がいる限りはきちんと現場の実態を報じていく、しかもそれは、住民の視点で伝えていくということが大事なんだろうと思っています」
「現在の沖縄の各局の状況、あるいはその新聞社を含めた沖縄のジャーナリズムの状況をみると、きっと皆さん頑張ってきちんとした報道され続けるんだろうなということは想像出来ます」
記者解説 沖縄と自衛隊(13)指定地方公共機関制度を問う
ここからは町記者とともにお伝えします。
町記者「まず、指定に至るまでに県と民放5局の間でこうした経緯があったことを私自身知りませんでした。取材をきっかけに過去の資料などで、改めて学びました。」「同時に、ある種の責任感とともに恐怖感も覚えました。それは報道機関で働くうえでの責任と有事の際における命の危険とがまさに天秤にかけられる状況になるということについてです。」
有事の際、警報の発令や避難指示について
中村アナウンサー「実際に私自身、アナウンサーとして自然災害である台風取材の時には、警報や避難指示を実際に県民によびかける立場で、決して同じではありませんが、こういった事態がより深刻な状況下において県民の方々に何を伝えられるのか、何を伝えるべきなのか、自分自身に今一度問いかけたいとおもいます。」
沖縄から全国へ、そして県民に対して問いかけること
町記者「今回、取材の中で、安全保障に関することが、日本全体の問題であるはずなのに、沖縄の問題、さらに言えば沖縄の離島の問題に追い込まれている現状があると山田教授からの指摘がありました。18年前の指定に際して様々な経緯があって、今、私たちがこうして働いていますけども、同じように電気、ガス、通信、交通、医療関係者など県内で多くの指定公共機関で働かれている方々も、またその家族なども含めて、終戦の日のきょう、今一度、改めて自分事としてこの制度を知るとともに、一緒に考えを深めていけたらと思います。」