政府が南西シフトとして進める自衛隊配備や有事の問題などを考える「沖縄と自衛隊」です。今日は北大東島のレーダー配備計画がテーマです。
2016年に駐屯地が置かれた与那国島をはじめ、ここ数年離島地域で自衛隊配備が進んできました。人口減少など課題を抱える中で、自衛隊が置かれた島々の状況に、識者は離島振興策の限界も指摘します。
防衛省担当者「太平洋側の島嶼部に隙のない警戒監視・情報収集体制をいち早く構築したいと考えてございまして、このため北大東島への移動式警戒管制レーダーの配備をしたいと考えているところでございます」
今月20日、防衛省が北大東島で開いた説明会で、レーダー配備の意欲を村民に示しました。防衛省が強調していたのは、太平洋での中国軍の艦船や爆撃機などの活動。自衛隊の誘致する立場の村も、防衛上の必要性を強調します。
宮城村長「配備することによって村民が安心して生活できるような、暮らせるような環境につながってくると思う」
前泊教授「そんな馬鹿なと。どれだけ危機が高まってきたのと。それは方便だと思いますよ。明らかに」
それに真っ向から疑問を呈するのは、沖縄国際大学の前泊博盛教授です。離島の経済状況を研究してきた前泊教授が注目するのは、北大東村の市町村民所得の高さです。公表されているうちで最新の2020年度の統計では北大東村は425万円と、県内41市町村の中で1位。県内平均の216万円の倍近い額です。その中身を次のように分析します。
前泊教授「基本的には公共事業によってですね、大きな収入を得ている島ということになりますね。小さな人口に対して大きな公共事業が落ちる。その公共事業が落ちたものを人数で割っていって、それが市町村民所得として430~80万円台の東京並みの所得を数字上は打ち出している」
前泊教授「道路、港湾、空港、こういったものが完成した後、新しい公共事業は何があるのかと。5年ほど前に聞いたときに、村の関係者は何と言ったか。首長も含めて、『もううつたまがない』。このまま行ったら島は大変なことになると危機感が高まっていた。公共事業の誘致、それがたまたま自衛隊になったという、それだけの話のような気がする」
当時の外間与那国町長「人口の減少を食い止め、インフラを整備して結果的に税収のアップにつなげる」
防衛上の空白を指摘し、先島地域で政府が進めてきた南西シフト。始まりは2016年に自衛隊駐屯地が開設された与那国島でした。配備前、地元からは人口減を食い止める期待も聞かれていました。
一方で、当初は警戒監視部隊だけだった与那国島の自衛隊は、自衛隊の対空ミサイル部隊の配備も計画されるなど、増強傾向にあります。
北大東村民「将来的にPAC3など持ち込む計画ですか」「永遠に持ち込まないということですか。はっきりさせてもらえませんか」「与那国みたいなことにならないか」
防衛省担当者「北大東島におきまして、先ほど紹介した移動式管制警戒レーダー等以外の装備を配備する検討は行ってございません」
与那国島を引き合いに、部隊増強を懸念する北大東村民の声も上がりました。防衛省は北大東島へのミサイル配備について、基地の面積などを理由に、否定しています。
前泊教授「最初に言うと反対運動が起こるから(自衛隊基地が)作られてしまえば、今度はレーダー基地の後に『レーダーだけじゃだめだ』『飛んできたものを迎え撃つためのミサイル防衛は必要』『ここは(中国から)距離があるので、沖縄本島、宮古、八重山がやられても、次の第2列島線としてここで迎え撃つ』そう説明するかもしれない」
防衛省担当者「警戒監視や情報収集のいわば空白地域となってしまっている」
宮城村長「太平洋地域では(レーダー網の)空白地域っていうこと自体が逆に僕はおかしいんじゃないかと」
先島への自衛隊配備のときと同じように、北大東島への自衛隊配備でも防衛省や村は太平洋側の「空白」を強調しています。
その空白を埋めるために自衛隊を配備することは、北大東島に何をもたらすのか。前泊教授は、自治の崩壊につながると指摘します
前泊教授「自衛隊が入ったからといって、持続発展可能な形は出来上がっていない。新たな産業創出にもつながっていない。国家予算に翻弄されるような脆弱な地域経済が構築されてしまう。そしていうことを聞かなければその地域では生きていけなくなるような、自治を完全に喪失してしまう」
前泊教授「マグネット効果。攻撃を引き付ける効果、それは誰の何のための攻撃を引き付けて地域が犠牲になったのか。沖縄戦にもう一度教訓を求めて振り返って、歴史の教訓を学びなおしてほしい」
中村キャスター:ここからは塚崎記者です。そもそも今回、北大東島の自衛隊配備はなぜ検討されるようになったのでしょうか。
塚崎記者:防衛省は警戒監視の空白を埋めるということを強調しています。こちらに航空自衛隊のレーダーの場所を示していますが、日本列島と南西諸島にそってレーダーが配置されています。その中で太平洋側にレーダーが置かれていなかったことから、北大東島での基地建設に関する調査に着手したという説明になっています。
中村キャスター:前泊教授は、公共事業など、離島振興の問題点も指摘していたそうですが、どういった点が問題なのでしょうか。
塚崎記者:前泊教授は「ザル経済」という言葉をキーワードに挙げていました。投下されたお金が島に残らず外に出て行ってしまうという意味です。離島の大型公共工事では技術力などの問題で地元の業者だけでは対応できない場合があり、沖縄本島や県外の業者が参加し、その分工事に使う税金も地元には残らないことになります。
塚崎記者:北大東の市町村民所得もその傾向があり、前泊教授は統計上の所得を「実態に合っていない」と指摘しています。北大東のように大規模な企業や業者が少ない離島地域はその傾向が顕著になると強調していました。
中村キャスター:こうした課題を抱える離島での自衛隊配備について、私たちはどのように考えるべきなのでしょうか。
塚崎記者:はい。離島振興の課題を、県内全体で共有することが必要だと思います。私も今回の説明会の取材で那覇から北大東島に向かったのですが、航空便や船便も少なく、日程を組むのにとても苦労しました。実際、島の人に話を聞いてみても 船便が少なくて物流に問題があるとか、人手が集まりにくいなど離島固有の課題が聞かれました。
塚崎記者:こうした中で自衛隊配備に伴って基地を作ることで雇用を生み出したり、防衛省の補助事業を受けたりすることは 魅力的に映るかもしれません。ですがそれと引き換えに基地を建設することは、有事の攻撃目標となる危険性も同時に生じることになります。であれば、それがなくても発展していけるよう、離島の強みを生かした振興の方法がないか、県民全体で考える必要があると思います。
中村キャスター:ここまでは塚崎記者でした。