政府が南西シフトとして進める自衛隊配備や有事の問題などを考える「沖縄と自衛隊」です。慰霊の日のきょうは、沖縄戦に至る歴史と、こんにちの南西シフトの状況を重ねてみて、今に連なる問題点を明らかにしていきます。
沖縄戦前には敵軍の上陸を想定した演習も日本軍によって行われており、子どもたちなどが歓迎ムードを示していたことも当時の新聞に記されていました。
「軍は住民を守らない」。沖縄戦の教訓として、県民に引き継がれてきた言葉の意味を改めて考えます。
石原昌家名誉教授「南西諸島が戦場化していくという状況」「もうまさにあの78年前のね、沖縄戦そのものじゃないかということですよね」「それを唯々諾々とね、沖縄の人たちが認めるっていうことは」「これはもう本当に亡くなった人たちに対して、冒涜ですよね」
そう語るのは、沖縄戦の研究を続けてきた沖縄国際大の石原昌家名誉教授。78年前の沖縄戦と今を重ね合わせ、「南西シフト」として沖縄で自衛隊の強化を進める政府の姿勢に危機感を覚えています。
安全保障関連3文書
岸田首相「抑止力となる反撃能力は今後不可欠となる能力です」
敵基地攻撃能力の配備?
玉城知事「抑止力を高めるためだけの理由で配置をするということには、我々は賛成しない」
石垣駐屯地開設
自衛隊配備に反対してきた山里節子さん「日本を本当に平和にしたかったら武力なんかで勝ち取れると思ったら大間違いと思ってください」
PAC3配備
船越記者今年4月「平良港に入港してきた船から、自衛隊の車両が続々と降ろされていきます」
北朝鮮の「衛星」発射
5月31日「ミサイル発射、北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます」
こうした南西シフトの動きと連動して、沖縄周辺で自衛隊やアメリカ軍は離島奪還などを想定し、軍事演習を繰り返しています。沖縄戦からさかのぼること31年前の1914年。日本軍は沖縄本島である演習を行っていました。当時の新聞には、地図も掲載され、詳細が記されています。
石原昌家名誉教授「仮想敵ですけど、中部西海岸から上陸すると。一方は北に向かって主力部隊は南下してくるというね。その筋書きは、まさに31年後に米軍が沖縄に上陸して日米の最後の地上戦に突入した戦闘の状況と、まったく一緒といっていいようなものなんですね」
「糸満小学校の生徒二百余の提灯行列あり」「可愛らしき声にて万歳を連呼」「未来の軍人の心を籠めたる歓迎は」「兵が非常に喜ぶだろうと、うれし涙を浮かぶるものさえあり」
日本軍の演習が行われた当時の新聞には子どもたちが、県外から来た演習部隊を歓迎した様子も記されています。
石原昌家名誉教授「兵隊さん、今日も学校へ行けるのは兵隊さんのおかげですってね、僕なんか記憶はありますのでね」「完全に僕なんかも染まってましたのでね」「現在もそういう風な、兵隊さんありがとう、自衛隊さんありがとうのムード作りは、災害救助の活動を通して、広く国民にね、訴えていくという風なことは、メディアを通しながらですね、行われているわけですよね」
喜界島島民「自衛隊っていいね。かっこいいね。国を守ってもらわなきゃ」石原昌家名誉教授「軍事演習というのは実は本番があるってことは想定せんといかんということは、常々言っているわけなんですよね」
石原名誉教授は、県民の自衛隊への意識についても観察してきました。
石原昌家名誉教授「住民にとっての沖縄戦っていうのは『前門の虎後門の狼』。前門の虎は恐ろしい米軍が迫ってくる。ところが逃げ場がない。後門の狼は絶対に投降は許さない」「住民は絶体絶命の絶望的な状況に追い込まれて、直接日本兵・日本軍に殺されたり、あるいは死に追い込まれていく」
「自衛隊は旧日本軍だととらえてね、沖縄の戦場における住民の被害というのは、いやというほど体験しているわけだから、絶対に配備を阻止するということでね、猛烈に反対運動を展開していったんですね」「離島県で自衛隊に救援を求める急患輸送だとか、そういったのをずっと行われてきますので、自衛隊に対しての反対の意識・感情というのは非常に薄れていって」
「78年前の沖縄戦の時とどう違うと言ったらね、あの時は大日本帝国の絶対主義・天皇の絶対主義体制のもとで軍国体制で有無も言わさず、島々に軍隊が配備されていったわけですね」「ところが今は有無は言えるんだけども、自衛隊が民生協力ということで、戦前の軍隊とは違うんだというね、そういう意識も持っているもんですから、容易にね、自衛隊が配備されていくと」
県民を死に追い込んだ日本軍とは違うと意識されてきた自衛隊。ただ、この6月23日の早朝に、自衛隊が日本軍との連なりを意識させる出来事が起きてきました。陸自15旅団幹部による、第32軍の牛島司令官を追悼する黎明之塔への参拝です。
ただ、きょうの早朝、自衛隊幹部が黎明の塔に姿を現すことは、ありませんでした。隊第15旅団はQABの取材に「私的なことについて確認していない」と強調しています。
黎明之塔にはきょう早朝、日本軍と自衛隊の双方で使われてきた旭日旗が掲げられていました。沖縄戦から現在の自衛隊配備をどう考えるべきなのか、石原名誉教授は、次のように訴えます。
石原昌家名誉教授「軍隊は住民を守らないということがね、それが最大の沖縄戦の教訓であるわけだから、それで同じ軍隊といっていい、自衛隊を誘致してですよ、反対せずにですね、このような今、軍事基地化をやすやすと認めていくという風なね、容認していくと」「そのことが明確ににね、沖縄戦の教訓を全然守らないというか教訓を受け入れてないと、そういうことになるわけですから」「県民挙げてですよ、戦場にさせないというね。平和で集結するということがね、今求められていて。今ですよ今」
ここからは塚崎記者です。塚崎さん。「軍隊は住民を守らない」ということが沖縄戦の最大の教訓、と石原名誉教授はおっしゃってましたが、それは自衛隊にも当てはまるといえるのでしょうか。
塚崎記者「はい、自衛隊について規定している自衛隊法では、自衛隊の任務について「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛すること」という表現になっています。こちらに条文を挙げていますが、国民の生命や財産を守ることなどの記載がなく、このことは国会などでもたびたび指摘されてきています。」
しかし、「国の防衛」と書かれていることは、国民を守ることも含まれているのではないでしょうか。
塚崎記者「実はそうとは言い切れないんですよね。石原名誉教授は取材の中で、自衛隊の制服組トップだった栗栖弘臣(くりす・ただおみ)元統合幕僚会議議長の発言について例に出していました。栗栖氏は自衛隊法の「国」の定義について著書でこちらにありますように、歴史や文化、国柄などを挙げていて、その一方で「個々の国民を意味しない」と語っているんですね。」
退任した後に書いた本での発言ですが、自衛隊が守るべき「国」が日本の国家体制を指して、日本国民ではないこと、自衛隊が戦争が起きた際に国民よりも国の体制の維持を優先する可能性があることを示しているといえます。
また、自衛隊については有事に住民避難をする国民保護について先島地域などで期待感もあるわけですが、実際はどうなんでしょうか。
塚崎記者「はい。例えば防衛省は自衛隊の航空機や艦船を活用しての住民避難の支援を掲げていますが、実効性には疑問を付けざるを得ません。その根拠に防衛省などの国民保護計画での規定が関係しています。計画では自衛隊の国民保護への協力について、このような規定となっています。つまり、自衛隊としては敵と戦うことが優先で、国民保護への協力は後回しになる可能性もあるということです。」
こうしたことを踏まえて、私たちはいま、自衛隊にどのように向き合うべきなのでしょうか。
塚崎記者「はい。これまで説明してきましたように、自衛隊の役割は国を守ることであって国民の生命や財産を守ることにあるといえるのか疑問符を付けざるを得ません。実際に自衛隊が台湾有事などの影響で、沖縄周辺で戦闘状態に入った場合、自衛隊が県民に対してどのような態度で向き合うのか?確実なことをいうのは難しいのかもしれません。たとえ防衛側の軍隊であっても、守るはずの住民の命を奪いうるということを沖縄戦を体験した県民は旧日本軍の行為で犠牲者を出したことを通して経験しています。そうであればまずは、自衛隊をそもそも戦わせないこと、外交で自衛隊が戦う事態を起こさない状況を作り出すことを求めていく必要があるのだとおもいます。」
ここまでは塚崎記者でした。