新型コロナによって、多くの人を集めたイベントが中止や延期を余儀なくされていたなかで3年ぶりに帰ってきた琉球芸能のお祭り「杜(もり)の賑い」
総勢300人の出演者によって行われたこのイベント、本番に臨んだ演出家や演者の思いなど舞台の裏側を取材しました。
大きな歓声に包まれる会場。およそ300人が圧巻のステージパフォーマンスを行ったのは3年ぶりに帰ってきた舞台、”杜の賑い”です。
しかし、この幕が上がるまでには、新型コロナを乗り越えてきた、それぞれの奮闘がありました。
本番まで2週間。年が明け早々の1月初旬。演出家の厳しい指導が飛び交かっていました。本番を2週間後に控え緊張感につつまれる稽古場。
「杜の賑い」は、旅行会社であるJTBが各地域の伝統や芸能を掘り起こすことで旅の中でエンターテイメントを楽しめるようにと始まったものです。
指導にあたるのは、約40年間、変わることなく演出を務めている鷹の羽辰昭さんです。
本番の会場となる「なはート」では、最期の追い込みが行われていました。太鼓を打ち鳴らしているのは、鼓衆(ちぢんしゅう)若太陽(わかてぃーだ)のメンバー。
鼓衆 若太陽 外間琉星さん「やっぱりコロナになってメンバーも集まらないですし、その中にはじめて出るメンバーもいますのでコロナ(期間)になって練習が大変でした。ようやくこの場所に出れるメンバーを選抜して」
なんとか舞台に立つメンバーを選抜出来たと話すのは、一番目立つ中央の太鼓を担当する外間琉星さん。
鼓衆 若太陽 外間琉星さん「はじめての構成、3人のソロがあるので、そこが見どころかなと思います」
一列に並んでステージ上を駆け回るのは、龍神伝説のメンバーです。
龍神伝説 比嘉健斗さん「龍の頭としては初めての杜の賑いでちょっとまだ緊張もありつつ、メンバーともコミュにケーションをしっかりとって、いい演舞が出来たらいいなと思っております」
これまでに10回、杜の賑いに参加している比嘉健斗さん。今回ははじめて龍の頭を持つという大役を務めます。
龍神伝説 比嘉健斗さん「一つの生き物として見せなきゃいけない。10人で持ってるではなくて、1頭、1匹っていうのをしっかり見せきれる、龍の動き一つひとつをみてほしい」
一見、琉球芸能とは縁のなさそうなダンスを踊る彼女たちは、杜の賑いに20年近く参加している、「環バレエアートスタジオ」に通う生徒たちです。
環バレエアートスタジオ 外間絆さん「ずっと先輩たちが踊ってきたのを見て、私が中学生になってやっと出れるって年齢になったときにちょうど杜の賑いが(コロナで)中止になったから、ことし出れてとってもうれしかったです」
順調に進んでいたかのように見えたこの日、実は、通しのリハーサル、いわゆる「ゲネプロ」が行われるはずだったのですが・・・。
それぞれのパートで納得のいく演出プランの調整作業を行ったことで、時間がなくなってしまいました。このままでは、、、ぶっつけ本番!?
鷹の羽さんは、今回のステージで40年間あたためてきた「カチャーシー」に対するある思いを表現しようと胸に決めていました。
鷹の羽辰昭さん「民謡とか伝統音楽って、大嫌いだったの。本当に嫌いで、ジャズだ、ロックだって、いわゆるロック小僧だよ昔の。それが、突然(杜の賑いを)やってみないかって言われて嫌々(沖縄に)来たんですよ。(40年前のステージで)最後のフィナーレをどうしようって言ったときに、カチャーシーを聞いて、「えっ?」てそっから始まった」
沖縄ではじめてカチャーシーのリズムを聞いて、衝撃を受けた鷹の羽さん。その後、杜の賑いを通して「九州のハイヤ節」「徳島の阿波踊り」「新潟の佐渡おけさ」「津軽アイヤ節」と全国の民謡と触れ合ううちにそのリズムの根底には「カチャーシー」があることに気がついたと言います。
鷹の羽辰昭さん「これ、もしかしたら同じリズムがずっと日本列島を北上したんじゃないか、それをずっと言い続けた、この40年間。誰も信用しないわけ。今回ちょっとそれをね、もうぶつけてみようと」
今回、カチャーシーのリズムを使った楽曲を新たに制作し、ダンスの振り付けはカチャーシーをはじめとした各地の踊りを取り入れ、歌い手にはラッパーを起用することに決めました。
選ばれたのは、県内で音楽活動を行う若手のラッパー、MC Roiとシーフレインの同級生コンビ。
MC Roi「やったこともないし、いい経験としてやろうかなと思って。友達も誘って一緒にやってみた感じですね」
シーフレイン「自分は誘われて、なんかマジかって感じだった」
こうして鷹の羽さんの「元ロック小僧」としての音楽への情熱が、40年の時を経て、若い世代とコラボすることになったのです。
そして、いよいよ通しリハーサルなしのぶっつけ本番、「杜の賑い」の幕が上がります。出番を待つ龍神伝説のメンバー。いざ、ステージへ。
杜の賑いも、後半。ラッパーの2人も大舞台をものともせず、堂々としたマイクパフォーマンスを繰り広げます。
フィナーレは、圧巻のエイサー演舞、これぞ琉球芸能です。3年ぶりに帰ってきた杜の賑いは大盛況の中で幕を閉じました。
観客「めちゃくちゃ迫力あって楽しかったです」
観客「みんな感動してます。ありがとうございます」
無事に本番を終えた次世代の表現者たち、次のステージを見据えていました。
龍神伝説 比嘉健斗さん「全国の人にも世界の人にも、もっと発信していって、沖縄にはこういう素晴らしい伝統芸能があるっていうのを伝えていきたい」
環バレエアートスタジオ 外間絆さん「きょう吸収したものを得て、これからのを踊りにいかせるようにしていきたい」
シーフレイン「沖縄の音楽もっと何か知りたいなと思って。杜の賑いだけで終わらないで、こっからまたいろんな音楽に発展していって、また帰ってこれたらなと思います」
沖縄の芸能は、進化しながら引き継がれ、これからも人々を魅了し続けます。