みなさんには、いつまでも残ってほしい「あの店の味」が、ありますか?敬老の日の19日は、御年85歳の中華料理人の話題です。コザの街で長年営業を続けていましたが、去年末、建物の都合で閉店することになりました。しかし、常連客からの熱いエールをうけて、いま、店の復活にむけた準備を進めています。
隠れ家のようなスポーツ施設の奥で仕込みをする男性がいます。仲本兼和さん、85歳。コザで親しまれてきた町中華の味を残すためにクラウドファンディングで店を再び構える挑戦をしているんです。
北京亭 仲本兼和さん「私はこれからむこうに行くけど、やっぱり自分の足跡が残るっていうことは嬉しいことです」
仲本さんの北京亭は、2021年11月建物の都合で閉店することになりました。これは、店を閉めるひと月前の光景です。常連客が記録に残していました。
常連客「自分は、麻婆豆腐も好きだし炒飯も好きだし、あと餃子も好きですね。ニンニクがしに入っている餃子が」
常連客「僕のおすすめは麻婆茄子。茄子の旨味と、北京亭ならではの旨味がすごいよく絡んでるなって、白飯で絶対食べたいですね」
前身の「李白亭」の時代もふくめ沖縄で40年あまり、町の中華屋を営んできた仲本さん。注文を受けてからひとつひとつ丁寧に作り出す料理には、本当に多くのファンがいたと言います。
常連客「生まれて初めて食べた中華が北京亭の前の李白亭の餃子とラーメン」
常連客「五目ラーメンを食べて衝撃を受けて、そこからファンになって、ずっとあれやこれやと通っていた。人生の中で一番うまい本当に」
人々を虜にする味は、仲本さんの激動の人生と共に育まれたものです。63年前、青年開発隊の一員としてブラジルへ移民した仲本さんは、ナスやトマトの栽培に従事しました。納品した野菜の集金のためサンパウロを訪れた際に、人生を変える味と出会います。
北京亭 仲本兼和さん「中華料理のおいしさはブラジルからわかったのよ。台湾出身とか中国の、料理やってる大きな店があって、必ず行くときは中華料理食べていた」
中華料理の奥深さを教えてくれたのは、酢豚です。
北京亭 仲本兼和さん「初めて酢豚ってのを食べたときは、あんな美味しいのが全然沖縄料理と関係ないでしょうがあれ、あの甘酸っぱいような味っていうのは。あれからはまっちゃってもう八宝菜、チンジャオロース、でいろいろ食べて、それがおいしさをわかったきっかけです」
ブラジルに定住するつもりでしたが、祖母の目が見えなくなったとの知らせを受け、旅費を工面して、急遽、沖縄に戻ります。
北京亭 仲本兼和さん「普通は目が見えないってことになると、もう終わりだと思うさ。ところが帰ってきたら白内障で手術としたら元気になっちゃって。それで一時はブラジル帰るつもりで、いろいろ仕事をやったんだけど、(稼ぎも)生活すれば全部パーになる」
本土に渡ったあとも、仕事は決まりません。途方に暮れる中で、思い出したのがブラジルで食べた中華料理でした。
北京亭 仲本兼和さん「自分でできる仕事、金があんまりなくても始められる仕事をいちいち書いてやって、中華料理は内地では小さな店がある。これだったら金なくてもできるなと思って、それから見習いで入れませんかって店に飛び込みで行ったんですよ」
横浜や鶴見で修行を積んだのち、コザの町で開いた店が、多くの人に愛されることになったのです。
店の立ち退きを機に、引退を決めた仲本さんに対し、地域の人々からクラウドファンディングで資金を調達し、店を復活させてはどうかと提案が寄せられました。発起人は、コザでスポーツ施設を運営している、偶然同じ苗字の仲本さんです。
発起人 仲本武史さん「この年月続けていらっしゃってたどり着いたお父さんなりの味ですよね。町で親しまれてきた味がどんどんなくなってるのを目の当たりにしていたので、北京亭もなくなってしまうのか、でも今だったら間に合うんじゃないのっていうことで」–
はじめは、クラウドファンディングの話を信じてもらえませんでした。
発起人 仲本武史さん「最初はですねクラウドファンディングのご説明しても、なんで見ず知らずの人が僕にお金くれるの、やっぱり合点がいかなくて、でご友人に相談されたら絶対詐欺だからね、すぐ弁護士に相談しなさいって」
北京亭 仲本兼和さん「うちの友達にね、そういうクラウドファンディングの話したら、あんたすぐ、弁護士行って相談しなさいって。これは詐欺だと」
常連客も、仲本さんを支えたいと申し出てくれました。
常連客 安里静香さん「たまたまコロナになった時に、もうずっと暇だから愚痴を言うのかと思ったら、それでも常に勉強したり、調味料を変えてみたりとかっていうのを見てたので、これはこの時ですでに84歳だったので、本当にすごい人だなと思って。それで多分伝説の調理人ぐらいのレベルだなと思ったので一緒に応援したいなと思ったのがきっかけですね」
閉店から半年…。北京亭を復活させるクラウドファンディングがスタートし、100万円あまりの支援が寄せられました。パークアベニュー内に移転先も見つかり、内装工事が進んでいます。
再開の目途がたった仲本さんは、今、厨房を借りて新メニューの開発や、宅配対応を始めたりするなど、様々なことに挑戦しています。
北京亭 仲本兼和さん「料理っていうのは、1+1は2にもならないのよ。これだけ金かけているのに、もっとおいしくなるんじゃないかなと思うんだけど、ならないところがあるのよ。だからそれを追求していくのが楽しい。生きている間は少しずつでもいいからもっと、おいしい料理つくりたいな。みんなに喜んでもらえるように」
北京亭復活は、来月の予定。新店舗では、後継者に味を引き継ぎながら営業していきたいということです。