様々な理由で日常生活に必要な買い物を満足にできない高齢者は、全国で824万人います。沖縄では7万7000人にのぼり、65歳以上の4人~3人に1人が「買い物弱者」という割合になっているんです。地域が抱える課題に正面からぶつかって、解決に乗り出した、若き新米自治会長がいました。
上田山川自治会・仲程一会長「買い物って当たり前の話じゃないですが、自分が食べたいものを買う、自分が作りたい材料を買う。それが、実際できていない人がいっぱいいて」
普段の買い物に不自由を感じている人たち、一人ひとりの声を聞いてまわっている男性がいます。仲程一さんです。2カ月前に自治会長になったばかりの彼はいま、地域が抱える困りごとの解決に立ち向かっています。
上田山川自治会・仲程一会長「一度、宮城さんも1班に、坂道一緒に歩いてほしくてですね、傾斜がきついところ。」
この日、仲程さんは「移動スーパー」の関係者に地域を案内しました。
上田山川自治会・仲程一会長「この辺とかは、娘さんとかに2週間に1回、まとめて買い物して」
リウボウストア営業本部・宮城秀和次長「この坂は、だいぶきついですね。これを毎日、じいちゃんばあちゃん歩いているから、これを週1、2回でも休ませてあげられれば」
豊見城市の上田山川(うえたやまがわ)地区は、自治会に加入する190世帯のうち7割以上が高齢者世帯となっていて、「買い物弱者」が課題となっています。集落内にあった商店は十数年前に廃業。10分ほど歩けば、スーパーはありますが、その10分が大きな壁となっているのです。そこで、新米自治会長が初仕事として「移動スーパー」の誘致に乗り出しました。
「移動スーパー」は、軽トラックに、食品や日用品を積んで各地を回るもので、県内では、リウボウストアが運営する「とくし丸」が、那覇近郊の市街地を中心に展開しています。
仲程さんは、配達エリアを上田山川地区まで広げてほしいと、移動スーパー側に対して「地域でどんな人が買い物に困っているか」を伝え、何度も打合せを重ねた結果、週2回の訪問が決まりました。
一方、お年寄りには、実際の移動スーパーをみてもらいながら、利用方法を説明することにしました。
長い階段を、慎重な足取りで下りてきたのは、92歳の慶田城さんです。
運転手兼販売員「白身が好き?」
慶田城さん「白身」
近所の住民(でもいつもマグロ買ってるよね)
運転手兼販売員「マグロと白身と色々あるので」
運転手兼販売員が、欲しいものや食の好みを確認します。
上田山川自治会・仲程一会長「買い物して足りなかったら、また言ってって。金曜日に持ってくるからって」
慶田城さん「助かるさ」
知念さん夫妻は、自宅まで来てくれることに感謝していました。
知念清さん(80)「米とね、トイレットペーパー、あれだけ、面倒くさい。あのふたつは。もう大変です。本当にこんな近くにきてくれたら、本当に大助かりです。(妻は)買い物は好きだけど、足悪くしてからなかなか行けないから、もうかわいそうではあるんですよ」
リウボウストアとくし丸事業・課喜納正史さん「買い物に困られている個人個人につないでもらうっていうのが、本当に初めてで、私としても、すごい地域の取り組みの強さに、びっくりしてですね、ぜひ、行かさせてくださいというところで」
上田山川自治会・仲程一会長「高齢者って、見て買い物したいけど、行けないって。僕らの当たり前が当り前じゃないから…もう、(当日が)楽しみです」
仕事の合間を使ったり、休みを返上したりて自治会の業務を進めている仲程さんは、9年前に、長女が生まれ、父親になったことがきっかで、地域活動の大切さに気付きました。
自ら青年会を立ち上げて、それ以来、子どもから大人まで幅広く交流できる行事を企画しています。こうした活動が信頼を集め、今年5月、自治会長に任命されたのです。
地域の困りごとに、できる範囲でひとつずつ対応していくことを心がけています。そのひとつが、一人暮らしの高齢者に難しい庭木の剪定作業です。
上田山川自治会・仲程一会長「僕はここで生まれて、ここで育っているんですよね、ずっと。もちろん僕が小さいときは、今の高齢の方たちって、かあちゃんたちの年代の方たちに育ててもらったんですよ、地域全体に僕は。それでどうしても、どんどん高齢って避けられないので、それを見ちゃうと、僕がやってあげないとと、もちろん僕の使命だと思っていて。そこは、僕が育ててもらった分、今度は僕がどんだけ恩返しできるかだと思っているので、世話なったじいちゃんばあちゃんには、これでもかっていうくらいやってあげたいというのがありますね」
先月下旬、念願の移動スーパーがやってきました。この1台に、生鮮食品から日用品まで、およそ400品目、1200点が積み込まれています。あらかじめネットなどで注文して受け取る「宅配サービス」と違って、「移動スーパー」は、自分で好きな商品を直接選ぶことができます。
車の到着を待ちわびていた、知念さん夫妻。妻・幸子さんは、足を悪くしたことから、4、5年ほど家にこもりきりの生活が続いていて、夫の勇さんがひとりで買い出しを担っていました。目の前にある商品を見て、触って、選ぶ…久しぶりの体験です。
店員「島豆腐と絹豆腐、どっちがお好みですか?」
知念さん「島豆腐」
次から次に、かごに入れていきます。
上田山川自治会・仲程一会長「いつもソファに座っているばぁちゃんが、杖ついて、軽トラックの周りをぐるぐる回っているのを見た時に、率直にやってみてよかったなというところです」
知念幸子さん「ありがたいですね、ものすごく。大感激です。自分の好きな物、近くで選べるから」
知念清さん「あー、もううれしいですねー。これで元気になってくれよーいうて。もうそれの喜びでしたね」
上田山川自治会・仲程一会長「自治会って何してるのっていうのがやっぱり、大体の人が思っていると思うんですけど。行政が行き届かないところって、いっぱいあると思うんですね」「どうしてもできない小さいこととか、かゆいところっていうのはやっぱり自治会がやってあげることで、もっとギュッと結束力も生まれていくのかなと思う。行政は行政、自治会は自治会でできることをやっていきたい」
買い物弱者を救うために、移動スーパーを導入した上田山川地区。その取り組みは、単に買い物をサポートするものだけではありません。社会的に弱い立場の人の声を拾い、生活を支える「福祉」の機能も果たしています。