辺野古新基地建設を巡り、国土交通大臣が設計変更を承認するよう是正指示を出したことについて、県は「承認を行なわない」と通知しました。
辺野古新基地建設をめぐっては、軟弱地盤の改良工事のため、沖縄防衛局が県に申請した設計変更を国土交通大臣が承認するよう是正指示を出していました。県は、期限だった5月16日、「承認を行なわない」と国に通知しました。
その中で、県の処分は公有水面埋立法に違反するものではないと不承認処分の正当性を訴え、今後、国と地方の争いを仲裁する「国地方係争処理委員会」に審査を申し出る考えを示しています。
県の対応について、岸防衛大臣は「ご指摘の件につきましては承知をしてるところでございますが、沖縄県と国交省とのやり取りにつきまして防衛省としてお答えすべき立場にないことをご理解いただきたいと思います」と述べました。
県と国による互いの主張は平行線のまま、今後、新たな法廷闘争に発展する見通しです。
県と国が対立を続ける辺野古新基地建設。これまでの動きをみていきます。
2020年4月に防衛局は軟弱地盤の改良工事のため、県に「設計変更」を申請しましたが、その翌年に知事は「一番重要なところが調査されていない」として不承認としました。
防衛局はその直後にその不承認処分が不服だとして、国民を救済するための行政不服審査制度を用いて私人になりすまし、国交相に対して不承認の取消を求めました。
そして今年4月に国交相は防衛局の申し立てを認め、不承認を取り消した上、県に対しては承認するよう「勧告」を行いました。ただ、これに法的な拘束力はありませんでした。
すると今度は県が「国交相による不承認の取消」は「国による違法な関与だ」として、総務省の第三者機関で国と地方の争いを解決する「国地方係争処理委員会」に審査を申し出ました。
これに対し、国交相は承認しない県に対し、今度は強力な法的拘束力がある「是正指示」を出して、5月16日までに承認するよう求めていました。
その期限を迎えた5月16日、県は国交相に不承認処分の正当性を訴えるとともに「承認する考えはない」として、再び国地方係争処理委員会に不服を申し出る考えを示します。ただ、申し出はまだ行われておらず、準備中としています。
今後、辺野古新基地建設の設計変更をめぐる県と国の争いが司法の場にうつることについて、行政法に詳しい専門家に話を聞きました。
成蹊大学法学部(行政法)武田真一郎教授「知事は国地方係争処理委員会に審査の申し出をして、さらに是正の指示の取り消し訴訟を提起することによって、第三者機関による公正な解決をすることが可能になる」
成蹊大学で行政法を専門とする武田真一郎教授です。今後見込まれる、不承認をめぐる県と国の争いには、これまでと大きく違う点があると考えています。
武田教授「今回は、仲井真知事の埋め立て承認は直接関係がなく、正面から玉城知事の権限の行使、裁量権の行使の違法性、適法性が問われています。そこが法律論として、今までとは非常に大きく違う点です」
これまでの辺野古をめぐる県と国の裁判において、仲井真知事の埋め立て承認を適法として、その承認を取り消した翁長知事の判断が違法であるとする判決を下した経緯がありました。
しかし、今後の争いにおいて裁判所は、玉城知事が行った不承認処分を違法だと判断することは難しいと、武田教授と言います。
武田教授「防衛局の変更申請を見ましても、軟弱地盤の改良や環境汚染の防止について、必ずしも防衛局の側が積極的な説明をしているとは言えない。そうしますと知事が不承認としたことはある意味で当然であって、裁判所も全くの事実誤認に基づいている、あるいは社会通念上著しく不合理だとして、違法と判断することはできないのではないかと、私はそのように考えています」
また、課題も残されています。不承認により、軟弱地盤が広がる大浦湾側の工事がストップする一方で、仲井真知事が承認した範囲内の工事が進むこと、県が設計変更を承認しない代わりに国が承認処分を行う「代執行」の可能性です。
武田教授「(不承認によって)工事が止まる可能性があるわけです。他の部分は(工事を)進めてもいいとは、理屈としてはそうであっても、妥当性、合理性としては問題があります。(また)国としてはより強力な代執行という手続きをとることもできる。これは国交大臣が知事に代わって(設計変更を)承認してしまうという手続き。この代執行というのは、非常に地方自治を侵害する危険性が高いので、裁判所も代執行を認めることには非常に慎重なんです」
不承認をめぐる争いは県にとって「最後にして最大のチャンス」になりうると武田教授は言います。
武田教授「沖縄県にとっては最大のチャンスと言えると思います。場合によっては、これで最後のチャンスになるかもしれないです。これだけ沖縄県が有利な立場に立てることは今後ないかもしれません。仮にもし、不承認が裁量権の逸脱乱用だと判断されるようなことがあれば、そこにはかなりの政治的な配慮が働いたと言わざるを得ないんじゃないでしょうか」
玉城知事の不承認処分をめぐる争いは今後、国地方係争処理委員会の審査を経て、国の機関による身内同士の判断ではなく、裁判所において公正・公平な審判を下されることが期待されます。