患者のもとに医師や看護師が駆けつけるドクターカー。県内の医療機関でも導入が進んでいます。このうち、豊見城市の病院では、映像伝送システムを使い、救命率の向上に取り組んでいます。1分1秒を争うドクターカーの最前線を取材しました。
緊張感漂う救命センター。モニターに映るのは、ドクターカーの医師が装着したカメラのLIVE映像です。患者は心肺停止の状態。現場の状況を確認しながら、受け入れの準備を整えます。
友愛医療センター救急科・山内素直医長「ER・救急室を現場に持ってくるっていうのがコンセプトだと思うんですね。本当に1分1秒を争う病気ってたくさんいて、心筋梗塞だったりだとかも心肺停止の患者さんだったり、重症外傷の患者さんだったり、救える命を救っていきたい。これまでは救えなかった命も救ってきたい」
数分の差が生死や後遺症に大きく関わる救急医療の現場で、日々奮闘する人々に密着しました。
豊見城市の友愛医療センター。この病院で使っているのは、乗用車タイプのドクターカー。患者搬送用のベッドは無く、医師や看護師、救急救命士が乗って、現場に出動する緊急車両です。
友愛医療センター救急救命士・仲里玲哉さん「ドクターカーの装備品がこちらになります」
コンパクトな車内には開胸セットや薬剤な高度な医療行為のために必要な機材が備えられています。
消防本部から「患者の重症度が高いためドクターカーを出動させてほしい」との要請が入りました。指令をうけ、医療スタッフが出動するまでは、およそ1分。現場に急行します。
一方、病院では、モニターの前に医師や看護師が集まっていました。ドクターカーと病院は、映像伝送システムでつながっていて、患者の状態をいち早く共有することができます。「患者は頭痛を訴えて、倒れた」との情報から、現場の医師が検査の準備を指示します。
現場の医師「血圧そんなに高くないんだけども、くも膜下出血かなという印象なので、すぐCT行けるかな?」
病院の医師「CT連絡してますよね?連絡済です」
合流した救急車に医師が乗り込み、患者の処置をしながら、病院へ搬送します。
現場を「見える化」することで、病院側は受け入れ態勢を素早く準備することができ、また現場も、必要に応じて専門医から処置の指示を受けることができます。これにより、患者の救命率をアップさせようというのです。
友愛医療センター・前川泰輝医師「見れることによって、やっぱこっちも緊張感がやっぱり伝わるし、みんなで情報共有しながら、やっぱり患者さんの命を1分1秒でも早く救いたいっていうのは、すごい結束力が強まったかなっていうふうに思います」
患者の容体を確認していたのは、救急科を率いる山内素直医師です。新型コロナの対応で忙しい中、あえてドクターカーの運用を強化することに決めました。
今年1月から3月までの出動件数は70件で、前の年の同じ時期の倍以上に。市内だけでなく、那覇や糸満からも出動要請が増えています。強い信念のもと救急医療にのぞむ根底には、自身の経験が深く関わっていました。
友愛医療センター救急科・山内素直医長「私が医学生の頃に父が突然亡くなったんですね。本当に健康だった父が、ある日突然倒れて、その時は、ヘリで運ばれたんですね、残念ながら助からなかったんです。突然、家族を亡くしたり、大切な人を亡くすようなそういう辛い思いを私も経験したので、そういうことを、そういう辛い思いをする患者さん、家族が少しでもいなくなればいい、できるだけそういった人たちに寄り添えるような医者になりたいなと思って」
父親の突然の死をきっかけに山内医師は、救急医の道を歩むことに決め、国内でフライトドクターとしての経験を積んだのち、2015年に渡米。ドクターカーなど救急の最前線で活躍し、現在、日本とアメリカ2か国の救急専門医の資格を取得しています。
友愛医療センター救急科・山内素直医長「アメリカに行くと実際は軽症の方から、本気で重症の方まで幅広く診るのが救急なんですね、私は友愛医療センターの救急ERで作りたい制度というのは軽症の方でも困った患者がいたら快く受け入れて、どんなささいな症状でも、どんなに小さなお子さんでもどんなに高齢の方でも、患者の重症度とか年齢とか社会的な背景に関わらず、どんな方でも受け入れて、地域の皆さんが安心して暮らせる、そのための医療を提供できる救急部でありたいなと思っています」
ドクターカーの出動を通して、現場のスタッフの意識も変わりつつあります。
救急救命士・瀬底正将さん「患者さんがどう社会復帰していくか、ここで心臓が止まっている状態で来ても、それを動かして、それを一般病棟の方に上げてその後に、社会復帰できたよ、退院できたよというのを聞くと、そこにやりがいを感じます」
佐久本政彬医師「友愛の救急っていうのは、ドクターカーからプレホスピタルっていう、病院前医療から入院して最後まで全身管理っていう、患者さんに寄り添った医療を提供できているかなと思っていて、こちらを卒業した後は、1年間長期ボランティアということで、カンボジアに医療活動をしに行こうと思っています」
さらに、豊見城市でも消防と警察とドクターカーが合同で、水難救助の訓練を初めて実施。ネットワーク作りが始まっています。
豊見城消防第二警備救助班長・國吉勝也さん「非常に心強いです。もう本当に、こちらとしては、1分1秒(早く)病院に搬送したい中で、ドクターが現場に来ていただけるということは、安心感、我々の活動としても心強い」
友愛医療センター救急科・山内素直医長「活動範囲が広がってきているみたいで、とても嬉しいです。地域の皆さんのお役にも立てると思うので、ぜひ今後もこういう連携を高められる活動ができたらと思います」
救命率の向上に期待がかかるドクターカー。自治体などとの連携を深めることで、地域医療のセーフティーネットとして、活動の幅を広げています。