先月、車いすで沖縄本島一周をめざす女性の挑戦についてこの番組でもお伝えしました。女性は10日間を目標として掲げていましたが、果たして達成することはできたのでしょうか。
先月下旬、夢の実現にむけて、ひとりの女性が、沖縄を訪れました。北海道の中環さんです。環さんの夢は、車いすで日本を一周すること。その最初のスタート地として沖縄を選びました。
環さんは、37歳のときに交通事故で左半身にまひが残りました。車いす生活がはじまって10年、日本一周の夢を行動に移そうと決めたのは、去年父親を亡くしたことがきっかけです。登山家だった父・実さんは、凍傷で指を失いながらもヒマラヤなど世界各地の山々に登り続けていたといいます。
中環さん「父は言い訳をしないで山にずっと上り続けていたので、私も経済的とかそういうのを言い訳にしないで、やりたいと思ったことをまずは準備してみようと」
先月24日、車いすの旅、初日をむかえました。一緒にいるのは、長女・岬さんと介助犬のファーガス、車で並走して、環さんをサポートします。携帯を充電するためのソーラーパネルや寝袋などあわせて4キロの荷物を背負い出発です。
中環さん「よろしくお願いします。行ってきまーす」
今回のコースは、那覇空港から西海岸をまわり、最北端の辺戸岬を経由して東海岸を南下、再び那覇空港に戻ります。1日40キロを走り、10日かけて本島1周400キロを走破する計画ですが、初日は、半分の20キロで終了することになりました。2日目からは、次第に沖縄の道にも慣れて、1日40キロのペースで走行します。沿道で声をかけてくれる人も次第に増えてきました。
男性「頑張って。なんか元気もらいました」
中環さん「私がやることで、私だけじゃなく周りの人も、イェーイってなってくれるのが嬉しい。イェーイって思ってもらえるように頑張りますわ」
そして先月29日、ついに本島最北端辺戸岬に到着!達成感を抱えながら、東海岸側へと向かう環さんを、その先、思いもよらぬ事態が待ち構えていました。
中環さん「ずっと上り 登山だねこれは 苔は滑るし厳しいですちょっと車いすでは無理だね」
車いすで沖縄本島一周400キロ走破に挑む北海道の中環さん。最北端の辺戸岬を越えた先に、試練が待ち受けていました。苔でびっしりと覆われた歩道。タイヤが滑ってしまい、うまく前にすすめません。
中環さん「歩道から車道にもね段差が高いから下りようにも下りれないの。きつい。」
環さんは、やんばるの山道を進むことを断念しました。
中環さん「情けない、怖かったの。そこで途中まで行ってみようと思ったけど車いすがグーっとそっちいっちゃうの。車道のほうに。諦めることも肝心…いやぁ…」
車で移動するのは険しい山道のみで、歩道のある場所から再スタートです。この道は、快適そうな路面かと思いきや…
中環さん「無理だ。」歩道が途切れていたため、引き返すことになりました。
中環さん「こういうのが1日4~5回ある」この日、環さんは、車いすを念入りに整備していました。
中環さん「きょうでゴールします。10日め。きょうはね最後だからずっと笑顔で走りたい」「お願いします」声援「頑張って」「がんばってー」「ファイト―!」
最終日はこれまでで最も長い66キロを走る予定です。沖縄市泡瀬からゴールの那覇空港まで、12時間以上こぎ続けなければなりません。焦りと緊張が環さんにのしかかります。
中環さん「ごめんつかれてるね、もうね。集中集中。」
スタートから5時間が経過、32キロ地点。南城市の道の駅に到着しました。ここで環さんの幼馴染とその職場の仲間が合流。ゴールまで伴走などサポートをしてくれることになりました。一緒に走る人がいる安心感からか、環さんのスピードも上がります。
母を支えてきた岬さん、今回の挑戦で環さんの新たな一面を知ったといいます。
長女 岬さん「こんなにやり遂げるような力を母はもっていたんだなっていう。不安がいっぱいあるなかで、それでもやり遂げようって頑張っている母をちょっと尊敬します」
最後の休憩ポイントは50キロ地点の糸満市米須です。それまで笑顔をみせていた環さんに異変が…。まひのある左足に、激しいけいれんが起きたのです。足の感覚がないため、体が悲鳴をあげていても環さんは気付くことができませんでした。
中環さん「絶対ゴールするから」
けいれんが収まると、1秒でも惜しいとすぐ出発します。
中環さん「応援し続けてくれた人にゴールを見せたいと思うもんねどうしても見てほしい」
環さんは、今回の道中で、実にたくさんの声援をうけてきました。温かい食事を提供してくれた人、テントを張らせてくれた人、道案内をしてくれた人、応援してくれたすべての人たちへの感謝の気持ちを「完走」という形で伝えたいのです。
中環さん「頑張るよ あとちょっと、笑顔で行こう」
走り始めてから12時間が経過、那覇空港が見えてきました。ゴールまであと1キロ弱です。
緩やかな下り坂を味方にラストスパートかけた矢先…ゴール目前で、まさかの転倒。木の根っこに引っかかってしまったのです。
中環さん「あともうちょっとだったのにな」
転倒の衝撃で前輪が歪み、まっすぐ進むことができません。そして午後10時。ついに環さんがゴールに姿を現しました。
中環さん「終わった 終わっちゃった」
10日間の走行距離は、356.48キロ。本島一周400キロ走破とはいきませんでしたが、環さんの顔は晴れやかです。
中環さん「おいで。ありがとう」岬さん「がんばってくれた」環さん「よかったね。ありがとう」
中環さん「私がやることで皆さんが元気になってくれたら嬉しいとか偉そうなこと言っていたけど、逆逆、もう皆さんに私が元気とか勇気とか考え方とか教えてもらって、今回走ってみてなんか自分がやりたいことにこんなに沢山の人たちが応援してくれたのがすごくうれしい」
車いすで日本一周という環さんの大きな夢の第一歩を、たくさんの人の声援が後押ししてくれました。
中環さん「正直冗談抜きでしばらく車いすはこぎたくない。座りたくもないと思うけど、じゃどうやってどこに行くんって話だから、それは無理なんだけど。もうちょっと鍛えますわ、精神と筋肉を」
車いすユーザーがひとりで、沖縄各地を回ることは、歩道などのハード面でまだ厳しいともいえます。環さんの挑戦する姿から健常者が考えることもたくさんあると思います。