酒を飲みすぎた末に路上に寝てしまう危険なケースが多いだけでなく飲酒運転の摘発も全国ワーストの状況が続いていて、沖縄では酒との向き合い方が大きな課題となっています。そうしたなか、きょうは「アルコール依存症」という病気に焦点をあてます。治療を続ける人たちの経験をもとに依存からの抜け出すために何が必要なのか、考えます。
参加者「運動会のためのお弁当を作るのも酒を飲みながらじゃないと作れない。家の掃除をするのも飲みながらじゃないと掃除ができない」「みんな誰も私の気持ちを分かってくれないというのを言い訳にまた飲んでを繰り返していました」
後悔の念ともに自身の経験を語る女性。この日、集まった彼ら彼女らが抱えているもの、それは「アルコール依存症」
アルコール依存症は、飲酒の量やタイミングをコントロールできなくなり、酒を飲むことをやめられなくなる病気です。良くないことだとわかっていても、飲み続けてしまうことで体を壊し、日常生活に支障をきたしてしますのです。
県内でアルコール依存症を治療するため、入院している人は200人を超えています。過去10年の統計を見てみると、多少の増減はあるもの、ほぼ横ばいとなっていて、患者がなかなか減っていかない状況が続いています。
参加者「皆さんの意見を聞いて、経験を聞いて止められるように頑張りたい」
依存症に苦しむ人たちが集まって互いに支えあっていく「断酒会」という組織があります。断酒会は一週間に一回開かれ、そこで依存症にまつわる体験を共有して酒を断つという気持ちを改め、禁酒への気持ちを緩めないようにします。
参加者「入院して一旦酒抜けてクリアになって戻ってくるのですが、まだ変わらないんですよね自分が。飲みたい、やった飲めるみたいな感じで、それを2~3回繰り返しました」
参加者「子どもたちが大きくなっていって、毎日朝から晩まで酒を飲んでいる私に対して冷たかったし、それでも私は酒を止めようとは思いませんでした」
断酒会の会長、稲福正和(いなふく・まさかず)さん。20代で依存症となり、克服するまでに20年もかかりました。その後は20年以上、酒を飲まない生活を続けています。
稲福さんはこれまで断酒会に欠かさず参加し、依存症で悩む人たちを励ましてきました。しかし、、、
稲福さん「一時、コロナ禍で断酒例会ができない時期が2カ月くらいありました」
新型コロナの影響で4月から2カ月間、活動ができなくなってしまいました。そのため、例年開催してきた県外の断酒会との交流会も中止に追い込まれる事態に陥りました。一方で、コロナ禍特有ともいえる相談が増えたと言います。
稲福さん「(飛び込み参加が)今増えてます、間違いなく。家庭内飲酒、暴力、これはコロナのせいで。毎週のように来ています。以前にはなかったのですが」
飲食店などに時短営業の要請が出されたことで、家でお酒を飲む機会が増え、DVなどにつながっているというのです。なかには、断酒会ができなかった期間中に再び酒に手を伸ばしてしまい、そのまま最悪の事態に陥ってしまった人もいたといいます。
稲福さん「せっかく断酒会につながって酒を止めたのに肝硬変になって亡くなった人もいます」「なるべく傷が浅いうちに救ってあげたい」
アルコール依存症からの回復のため、必要なこととは何なのか。依存症と闘い続けているアスリートに話を聞くことができました。
田場さん「アルコール依存症と向き合う、治療するというのはすごく勇気のいることだし、怖いことだと思う」
田場裕也さん。日本初のプロハンドボーラーとして、国内外のリーグで活躍。2007年にはハンドボールチーム「琉球コラソン」を設立するなど、ハンドボール界の発展に尽力してきました。
しかし、球団運営という難しいかじ取りが求められるプレッシャーから酒に逃げてしまい、30代で依存症と診断されました。
田場さん「ずっと長く日本代表にいてメンタルトレーニングを受けていたから、酒くらい止めきれる、普通の人とは違うんだという思いもあって、それでも止めきれない苦しい思いがあった」
3年前、断酒会に参加して以来、酒と縁を切る生活を続けてきましたが、また飲酒をしてしまうのではという不安がつきまとっているといいます。
田場さん「最初の半年は不安ですし、1年目は苦しかったですね、ぼくは(断酒して)2年半なんですけど、飲酒欲求が落ち着くのが3年。ぼくは今でも時折思い出すことがあるので、不安もありますね」
一方、断酒を続けたおかげで自身の心と体に良い影響も出てきました。
田場さん「酒を止めて体も鍛えていろいろなことができてくる。昔を思い出す。小さい時から10年かけて日本代表になって、時間かけて努力して夢が叶ったことを思い出して、それができてくると、少しずつ自信につながって前を向けている気がする」
一度なってしまうと完治することは難しいとされるアルコール依存症。抜け出すためには同じ目標を持った仲間と前を向き続けることが必要です。同じ境遇にある人同士、経験を共有し、自分自信を見つめ直すこと、それが克服のための第一歩になります。
田場さん「仲間同士じゃないとわからないことが多い。そういった意味では、(断酒会で)仲間と一緒に話し合えるというのはいい場所ですよね」「こうして関わったから前を向けるんじゃないかなって思いますね」
渡嘉敷記者は依存症に向き合って治療を続ける人たちを取材するなかで克服の難しさというものを感じた場面もあったんじゃないですか?
渡嘉敷「取材を進めていくなかで、特に大変だと感じたのは一度断酒していた人が再び酒を飲んでしまい、依存症を悪化させてしまう「再飲酒」、いわゆる再発という問題です」
「例えば、新型コロナの感染予防として、よく使うようになったアルコール除菌のスプレーやシート、これも断酒を続ける人たちにとっては、その匂いが酒を思い出すきっかけになってしまうということもあるんだそうです」
「依存から抜け出すためには本人の強い意思だけでなく支えてくれる人の存在も大きなウェートを占めています。互いに支えあっていくんだという「つながりを保ち続けるため」に断酒会が存在しているのだと感じました」