金城さん、初めてニュースを読んだ日のことを覚えていますか?社会人や学生だけでなく誰にでも「初めの一歩」はありますよね。以前、このQプラスでも紹介したスーパーバスガイドこと崎原真弓さんのもとで研修を受けてきた新人バスガイドが、先日ついにデビューを果たしました。緊張と不安でいっぱいの独り立ちに密着しました。
糸満市にあるバス会社「てぃーだ観光」ここに今年の4月に入社した大城綸さん。2カ月前に取材した時にはコロナ禍の影響で修学旅行などが軒並み中止となりバスガイドとしてのデビューの日も決まっていませんでしたが、それでも日々研修に励んでいました。ガイドのための分厚いシナリオも何度も繰り返し読み込んだのか、使い込まれた感じが。
大城綸さん「これはお茶をこぼしたんですよカバンの中で」
ちょっと天然で、研修中もおろおろと、少し心もとない感じもする新人バスガイド。入社から実に7カ月半、ついにデビューの日を迎えることになりました。
崎原真弓さん「初日のものから確認していきましょうか」
大城さんのデビュー3日前、バスガイドたちは念入りに打ち合わせを行っていました。新型コロナの影響で、てぃーだ観光としても8カ月ぶりに修学旅行生を案内するとあって自然と緊張感も高まります。
崎原さん「(準備で)寝られてないです しばらく寝られてないです」
大城さんを指導しているのは、この道30年以上の大ベテラン・崎原真弓さん。一人芝居から沖縄空手まで、一人何役もこなしながら沖縄の魅力を伝えてきたその姿から「スーパーバスガイド」と呼ばれてきました。
今回の修学旅行の案内も崎原さんが指名を受けたものでしたが、崎原さんは学校側にお願いし、その一部を大城さんのデビューにあてたのです。
崎原真弓さん「継承しているということを見てほしいと思って、今回はあえてこのタイミングを選びました。戦争を知らない若い子たちにちゃんと受け継がれて、その子たちもまた使命を持って伝えていこうと取り組んでいるなという姿、心が伝わればいいのかなと思っています」
ガイドの中で崎原さんが特に力を入れてきたのが沖縄戦の語り。その語り部としての役割も受け継ぐ大城さん。しかし、デビューを3日後に控え、高まる緊張感からか。覚えたはずのシナリオが、出てきません。たまらず崎原さんの指導が入ります。
崎原真弓さん指導「あなたの声と体と心を通して戦争を生き抜いてきたおじいちゃんおばあちゃんたち 戦争で一言も語れずに亡くなった人もいるからそういう人たちの思いを子どもたち、生徒たちに発信していくわけだからまだまだ気持ちを集中して話さないとこれでは伝わらないと思うよ」
気持ちを込めて伝えなければ体験者の思いは、聞く側の心には届きません。その一方で…
大城綸さん「忘れないで青いサンゴの島で赤い花と三味線を愛し武器を持たない歴史を…(涙ぐむ)」
崎原さん「時間がどんどん過ぎていくからそこを乗り越えないとね」
時間が限られているガイドでは感極まりすぎてはいけないという難しさがあります。
大城綸さん「3日前ではあるんですけど今の状態ではまだ立てないので人の前にはもっと読み込んでスラスラ言葉が自分の言葉として出てくるように」
最後の最後までノートに課題を記す大城さん。残された時間はあと少ししかありません。
新人バスガイド・大城綸さんが迎えたデビューの日。今回の修学旅行の日程は4日間、そのうち3日目の南部戦跡のガイドを大城さんが担当します。
バス乗車案内「ひめゆり資料館で勉強していただき、お食事もひめゆり会館のほうでとっていただきます。そして最後に(おはようございます~どうぞ~)そして最後に…」
乗車案内をしながら最後の最後までガイドの確認をする大城さん。いよいよ出発です。
大城綸さん「おはようございます。改めまして4月に入社した新入社員の大城綸と申します。綸姉々とお呼びください」
出発後はまず、歌やクイズなどを通して生徒たちとの交流を深めていきます。
そして南部の戦跡が近づいてきたところで沖縄戦の語りを始めました。この日話したのは、子どもをつれてガマの中へと逃げ込んだ母親の体験記です。
大城綸さん語り「真っ暗で何も見えないので「母ちゃん怖いよぉ」と男の子が泣き出しました、つられて抱っこしていた赤ちゃんも最後の声を振り絞るように小さな声で泣き出したのです「早く泣き止ませろ」恐ろしくなって母親は力いっぱい赤ちゃんを抱きしめました。腕の力を緩めたら子どもがぐったりしていて手のひらを赤ちゃんの口元に当てたらもう息はありませんでした」
戦争の悲惨さを感情を込めて生徒たちに伝えることができた大城さん。しかしここで少しほっとしてしまったのか実際に戦跡でのガイドになると…
大城綸さん「遠目に見ますと青芝の広場が…見えますでしょうか、あるんですが…その礎の向こうに広がる青芝の広場が盛大な慰霊祭が行われる…式典の広場です」
本来は何も見ずに語るはずだった内容もノートを見ながらのガイドに。思いのこもった自分の言葉が出てこなくなった大城さん。異変に気付いた崎原さんがガイドを代わります。
崎原さん「固有名詞がないんだよ、生きた証である名前がないんですよ、命も尊い、その命が生まれた時に生まれた名前も、沖縄の地上戦は奪っていった…」
ただ大城さんも落ち込んでいる時間はありません。再びバスに戻れば語りがあります。
大城綸さん「当時15歳から19歳の乙女たちは…戦場に放り出され尊い命を次々と失っていきました」
感極まりそうになったところもぐっとこらえ時間通りに進めていきます。その後、ひめゆりの塔での案内を終え大城さんの初ガイドが終わりました。その一生懸命な姿は、生徒たちにも伝わっていたようです。
大城さんのガイドを聞いた生徒「沖縄のことを私たちに伝えようとしてくれているというのが伝わってもっと沖縄を知りたいと思いました」
大城さんのガイドを聞いた生徒「実際に経験された方からお話を聞いているような感じになって、すごい理解が深まったような気がしました」
大城綸さん「反省がたくさん、一番大きいですねくらいこういう機会をいただけて感謝の思いでいっぱいということと複雑に混ざりあってちょっと溢れてきました」
そんな大城さんを見て、これまで指導してきた崎原さんの目にも涙が。
崎原さん「よく頑張ったと思います。ほっとしました。継承していくという思い、それがすごくうれしくて一生懸命取り組んでくれたと思います」
大城綸さん「沖縄戦を語るからには未来を平和にしないといけないという思いが強くなりました。その先生の思い、先人たちの思いを語って伝えていくというのがすごく大事で、伝えるって難しいなと思いました。(目標は)心から伝えたいという思いが溢れる、それを伝えていけるようなガイドになることですね」
「沖縄を伝える」その大きな使命を感じたデビュー。思いを語り継ぐ新人バスガイドの奮闘記はまだまだ始まったばかりです。