こちらは首里城の正殿・北殿・南殿があった場所です。現在はフェンスで囲われていて、御庭の中央には焼け焦げた柱や、瓦が入った袋などが残されています。威風堂々とたたずんでいた首里城。しかしその場所は、今…。
1年前も訪れていた男性「灰が舞っているような状況だった。あれだけ立派なものが、急に無くなってしまうから恐ろしいですよね。」
学生「無くなって悲しいなと思いました。」
おじいさん「一番の誇りです首里城は。首里城はちゃんと復興したほうがいいです。」
城の本体工事の着手は2022年度で、そこからおよそ10年後の完成がひとつの目標です。
ぽっかりと空いた心の穴を埋めるように、多くの人が首里城への思いを胸に活動しているなか、沖縄から遠く離れた場所で意外な人たちが動き始めました。それは、東京大学!
2次元のデータから3次元の情報を生み出す「コンピュータービジョン」が専門の川上玲さん。これまで国内外の文化財を3Dで復元するプロジェクトに関わってきました。
現在は、2児の母として子育てをする傍ら、東京大学の客員准教授として学生たちを指導しています。
東京大学・川上玲客員准教授「(火災のニュースを見て)こんなことが起こるんだろうか、っていうような小説の中の出来事のような信じられない気持ちで。小学生のお子さんとか、ショックで学校を休んだりご飯を食べれないとか、そういう記事を拝見して、これはひどいと。何かできることはないかという気持ちがすごく強くなりました。」
そこで、考え出したのが「OUR Shurijo みんなで作る 首里城デジタル復元プロジェクト」。
ネット上で、多くの人から首里城の写真や動画の提供を募り、在りし日の首里城を再現しようというものです。
利用したのは、イタリア・ローマのコロッセオなどの形状を画像からすることに成功し注目されたSfM(Structure from Motion)という技術。
東京大学・川上玲客員准教授「私の分野ではかなり確立された素晴らしい技術の結晶という、感じなんですけれども、こういうことを首里城でやって、地元のコミュニティーに還元できたら。何か意味があるんじゃないかなっていう気持ちがあって。」
学生やエンジニアなどおよそ30人のボランティアが集まり、去年11月から本格的にスタートしたプロジェクト。そもそも、寄せられたたくさんの写真から3Dで首里城を復元するというのは一体、どいうものなんでしょうか?
金城アナ「私が4年前に撮ったこの写真を組み込んでもらうとどうなるんでしょうか?」
東京大学大学院・亀井郁夫さん「こちらになります。右側から撮影されたということがうまく再現されているのではないかと思います」
首里城デジタル復元プロジェクトのメンバー、亀井さん。実際に提供された写真を3Dに復元する作業を担当しています。
亀井さんは、去年、火災でなくなる前の首里城を訪れていました。
東京大学大学院・亀井郁夫さん「本当に去年の3月に実際に行って、すごく感銘を受けたので、それがすごく印象に残って。それが焼失したのがすごく信じられなかったんですけど、報道や映像とか引用して自分で何かアクションを起こしたいと思っていた。」
県内外、また海外からも寄せらせた写真の数はなんと8万2957枚(10月26日現在)。想像以上の反響でした。開始当初はぼんやりとした印象でしたが、多くの人の協力で再現された今の首里城は、実物と比べても、引けを取らない美しさ。火災で大きく焼損してしまった龍の飾りや、割れた石づくりの欄干も。さらにVRを使って、復元した世界を見ることもできます。
金城アナ「わ~、なんだか涙が出そうなくらい懐かしい気持ちになります。こんなだったよなぁ、首里城…。」
東京大学大学院・亀井郁夫さん「晴れの時に撮った画像が多いので、屋根のあたりと空の部分が一体化してしまうことが多くて、そういう部分は人手で切り取っていかないとここまでにはならない。」
正殿の写真は数多く集まったことで細部まで再現されている一方、北殿・南殿を写したものは少ないため、輪郭がぼやけています。
東京大学大学院・亀井郁夫さん「こちらに門がありますけれども、そちらの画像ですとか、そういうものがあると、よりこの広場もよみがえってくるのではないかと思います。」
また、ホームページからは、写真だけではなく、それぞれの思い出のエピソードも投稿することができます。
男性「長男が生まれる直前、いわゆる産前旅行で訪れました。とても大切な思い出です。」
女性「沖縄の言葉、イチャリバチョーデー(出会えば兄弟という意味)を教えてもらいました。繋がった出会いを大切にしたい。」
川上さんは、思い出を添えてもらうことで、形だけではなく心にも残るような復元にしたいと話します。
東京大学・川上玲客員准教授「(思い出の共有で)みんなが心をひとつにしていくところを、データ化できるかもしれない。海外の方とかもたくさん寄せてくださって、その一つ一つに歴史とかストーリーがあって、それを知っていくのがまたすごく心温まる作業でした。」
プロジェクトでは、城の外観だけでなく、国王が座る玉座や収蔵品も再現。完成後は、地元の人々と協力しながら専用のアプリを開発したいと川上さんは考えています。
東京大学・川上玲客員准教授「地元のまち歩きアプリみたいな感じで、首里城の散策で、みんなアプリをインストールするんですけど、そういうアプリになったらいいんじゃないかなと。」
火災で跡形もなくなってしまった首里城。しかし、ひとりひとりの思い出が温かみのある首里城の姿をよみがえらせています。
この再現プロジェクトは来年の3月末で一旦終了する予定。くわしくは公式ホームページをご覧ください。