長引く新型コロナの影響で修学旅行などのキャンセルが相次ぎ観光バス業界も苦境に立たされています。先が見えない中、いつか来るデビューの日に備え、研修に励む新人バスガイドの奮闘記に密着しました。そしてその新人の師匠は、スーパーバスガイドでした。
この道30年以上のベテランバスガイド・崎原真弓さん。一人芝居から沖縄空手まで一人何役もこなしながら、沖縄の魅力を伝えてきたその姿から「スーパーバスガイド」と呼ばれています。
その崎原さんが3年前に立ち上げたバス会社が糸満市にある「てぃーだ観光」。認知度も高まり、修学旅行などの多くの予約も増え、バスも10台から18台に増やし準備してきました。しかし…
崎原真弓「10月もちょっとゼロになりつつあります。まだ11月、12月の動きが私たちもわからない状況です」
新型コロナの修学旅行への影響は大きく、沖縄観光コンベンションビューローの調べでは、今年度2300校あまり予定されていた修学旅行はキャンセルが相次ぎ、今月14日現在、約半分にまで減少しています。
この状況にてぃーだ観光も3月から休業を余儀なくされていますが、その中でも続けている活動があります。
『こんにちは、日本列島最南端の島沖縄へようこそお越しくださいました』
それはバスガイドの研修。
1月に入社・上原真喜さん「当初は本当にまさかこんなに長くなるとはって感じだったんですけど。いつ出てもいいようにということで、いろいろな稽古、勉強をしているところです」
その中でやや落ち着かない様子で研修を受けていたのが、今年4月に新卒で入社した大城綸さん。手元には、何度も繰り返し読み込んだように見える研修ファイルが…
大城綸さん「これはお茶をこぼしたんですよ、カバンの中で」
なんだかちょっと心もとない感じも…。それでも研修となれば、その表情にも変化が。新人バスガイドの奮闘を追います。
来たるデビューの日を目指して研修に励む新人バスガイド・大城綸さん。東京で役者になることを目指していましたが、スーパーバスガイドこと崎原真弓さんの講演を聞き、沖縄について語るその姿に憧れてこの道を選びました。
大城綸さん「とても人の心を打つようなすごいエネルギーで溢れていて。崎原先生にいろんなことを教えてもらって吸収して、それから自分で他の人に笑顔だとか感動だとか与えられれば、それは私のやりたいことだなと思って」
崎原さんの指導はただ観光地を案内するだけではなく、歌に踊り、三線に手話まで内容は多岐にわたります。
崎原真弓さん「沖縄の心を伝えていく。ちむぐくる文化を伝える語り部ガイドと私自身は思っているので」
特に沖縄戦の語りについては、この分厚いファイルを覚える必要があります。
大城綸さん「シナリオはすごい多いですね。家で覚えています。動きながらとかソファに座ってじっと見て覚えたり…。いろいろやってます…恥ずかしい…」
ちょっと恥ずかしがり屋な大城さんですが、このコロナ禍の中でも毎日練習を積み、ほとんどファイルを見ることなく沖縄の戦争の歴史を語れるようになっています。
そんな大城さんたちはこの日、初めてバスに乗って本島南部をめぐる研修を受けました。
大切にしている語りは目的地に到着するまでの間、時間が余ったり、足りなくなったりしないようペース配分を考えなくてはなりません。
『戦争と平和についてしばらく学んでいくことにいたしましょう。お待たせいたしました、ひめゆりの塔到着です』
この日は時間通りに語ることができましたが、息をつく間もなくバスの停車の手伝いやお客さんの誘導など、添乗員としての仕事は尽きません。その後、一行はひめゆりの塔や平和の礎を訪れました。
沖縄の歴史を物語る戦跡の前で、崎原さんの指導にも熱が入ります。
崎原真弓さん「この年代で『沖縄のことを伝えていきたい』とか『沖縄の文化を学んで披露して、それを通して心を伝えていきたい』という気持ちを持ってくれると、私自身も5年後、10年後とても楽しみで。私はもう60近いですから、それを考えるとこの子たちに託す。自信をもって送り出せるのではないかなと思っています」
コロナ禍で先行きが見えない中でもいつかはやってくるデビューの日。その日を目指して新人バスガイド・大城さんも思いを強めていました。
大城綸さん「やはり伝えるという仕事は重いときょう感じたので、言葉の一つひとつが重たいというか、紙に書かれているものをただ読むだけでは重みが伝わらないので。デビューに向けて練習の質を高めていけたらいいなと思いました」
大城綸さん「すごく案内も上手になっていると思います。よろしくお願いします。最後まで恥ずかしい…」