続いてはシリーズ、「コロナと闘う」です。作家井上ひさしさんが原案の沖縄戦を題材にした舞台「木の上の軍隊」など、演劇を通して平和の尊さを発信してきた劇団、こまつ座。しかしことし、公演の中止が相次ぎ、窮地に立たされています。そんな中、奮い立たせたのは、井上ひさしさんの言葉でした。
『来ます…。皆、死んでいきます』『見たくないなら目を閉じていろ』
井上ひさしさん原案の舞台「木の上の軍隊」。伊江島で2年間、終戦を知らずガジュマルの木の上で生活していた沖縄出身の新兵と日本兵のことを描いた、実話に基づいた作品です。井上さんが完成を前に亡くなったことから、脚本は蓬莱竜太さんに引き継がれ、全国各地で上演されてきました。
蓬莱竜太さん「井上さん自身の思想を引き継ぐというよりは、この問題に立ち向かって書いてみる気持ちを引き継がせてもらった。今も傷痕が残りつつ、戦っている沖縄という実態があるというところでは、僕はものすごく、遠い所にいたんだということを感じまして。」
舞台は新兵と日本兵とのやりとりを通して、戦争の本質を浮き彫りにしています。
『遠い所から来てからに、遠い島の遠い誰かを守る。だけどそういうことがあるのかね。何のために、家族のためにですか、恋人のためにですか、お国のためにですか』
新平と日本兵が2年間生活していたガジュマルの木は、今も伊江村の集落で、人々の生活を見守っています。新兵のモデルとなったのは、佐次田秀順さん。佐次田さんの意向で、遺灰の一部はこの木の下に埋められています。
戦争の歴史に向き合い、演劇を通して「平和とは何か」を問いかけてきたこまつ座。しかし今、新型コロナによって存続の危機に追い込まれていました。
井上ひさしさん原案で沖縄戦を題材にした舞台「木の上の軍隊」など、演劇を通して平和の尊さを発信してきた劇団、こまつ座。しかし今、新型コロナによって存続の危機に追い込まれていました。
井上さんの娘で、こまつ座社長の井上麻矢さんは、劇団が直面している状況をこう話します。
こまつ座・井上麻矢社長「演劇を通して平和を訴えることを理念に掲げているところは常日頃お金のことばかり考えているわけではなかったのでお金が非常にタイトなところでコロナ禍に巻き込まれたことによって(負債)金額は跳ね上がってしまう。」
3月以降、こまつ座ではおよそ50ステージが中止に追い込まれ、その損失額は当初の概算だけでも7000万円に上りました。
こまつ座・井上麻矢社長「「お芝居ってその時だけでできあがるものじゃなくて、準備期間に2年以上、長いもので3年以上かけている。芝居は機械はハイテクだがすべて人力、人の力で成り立っているのがお芝居の魅力でもある。お芝居をひとつ作り上げるまでに何千万というお金がかかっていて、その部分が回収できないということになる。」
今年は井上ひさしさん没後10年。井上さんが残した言葉を、思いを託した作品を、どうにか次の世代につなげなくては。こまつ座では、5月下旬にクラウドファンディングを開始し、そのスローガンには、井上さんがかつてこまつ座のパンフレットに残した言葉を掲げました。
こまつ座・井上麻矢社長「「ある時、この状況を父だったらどういうだろうと思った時に、ふと過去のものを見ていたら、『記憶せよ、抗議せよ、そして生き延びよ』という言葉が別の作品のプログラムに入っていて、まさにこの状況だなと思ったんです。父があの世から教えてくれた『生き延びなさい』というメッセージだったと思う。コロナ禍で起きていることもちゃんと受け止めてどう私たちが解決していってちゃんと記憶して間違っていることがあれば抗議して、生き延びていきましょうという大きな意味がある言葉だと思う。
麻矢さんは、また、父が残した言葉を、コロナ禍に、そして戦後75年に重ね合わせます。
こまつ座・井上麻矢社長「「コロナ禍をひとつの戦争だとおっしゃる方もいるが、実際に75年前にもっと私たちは危機的な状況に陥っていて、私も体験していないが記憶の継承としてはずっと日本人の心に戦後75年という背景がある。どうやって悲惨なことを繰り返してはいけないとつなげていかないといけないかは今生きている人間の課題だと思います。」
その思いは、沖縄戦を題材にした舞台「木の上の軍隊」に対しても同じです。
こまつ座・井上麻矢社長「「父から沖縄の思いを聞いていたんですが大変だったと。沖縄で亡くなった方の魂は沖縄を語る上ではどうしても無視できない、聞こえない声。そういう意味では父が書いたものではないが父の声なき声を形にしたという意味では(木の上の軍隊は)特別な公演。木の上の軍隊をまた沖縄で上演できるように大切にしながら頑張っていこうと思う。」