沖縄からおよそ2300キロ。太平洋に浮かぶグアム。沖縄の海兵隊の移設先として注目されていますが、実はグアムは沖縄と大変似た歴史を持ち、沖縄と同様に重い基地負担に苦しんでいます。グアムを通してアメリカ軍の姿を見つめます。
サンゴ礁が広がるコバルトブルーの海。ブランド店が立ち並ぶ賑やかな街並み。日本からも多くの人が訪れる人気の観光スポット、グアム。しかし島にはもう一つの顔があります。
グアムは今、沖縄からの海兵隊移転で揺れています。
島袋記者「こちらが建設中の海兵隊基地です。名前は『キャンプブラズ』になる予定です」
島の北東にあるアンダーセン空軍基地。その傍で、普天間基地の代替施設の建設は進められています。
サビーナ・ペレス上院議員「計画の全貌は知らされていませんが、全ての軍隊の訓練をやろうとしているんです」
地元の人たちが口にしたのは、重い基地負担。そこからは広大な軍事基地を押し付けられるグアム、そして沖縄という2つの地域の共通点が見えてきました。
クリントン国務長官(当時)「日米両国はより強い絆で結ばれた。米国の役割は、この良好な関係を将来にわたり続けていくこと」
中曽根外務大臣(当時)「協定の署名は、在日米軍再編に対する両国の強固な責務を示すものだと思っています 」
日米両政府は海兵隊8000人とその家族9000人をグアムに移転させることで合意しました。総額102億7000万ドルにも上る移転費用のうち、59パーセントにあたる60億9000万ドルを日本側が負担することになっています。
額賀防衛大臣(当時)「日米間できっちりとグアム移転費について、それぞれ対応していくことで合意いたしました」
ラムズフェルド国防長官(当時)「お互いに利益になる形で合意しました」
グアム住民(2009年当時)「グアムのためになると思うから、僕は賛成だ来るのは海兵隊だろう?海兵隊には来てほしいよ(Q:なぜ海兵隊ならよいの?)新しい軍隊が来たらお金が落ちるから」
グアム・クルズ副知事(当時)「 グアムの人たちの米国に対する愛国心は非常に強い。それは米軍に入隊する若者や志願兵が多いことからも証明できる。グアムの人たちの生活水準は基地内でも基地外でも高くなるだろう」
計画が発表された後、地元グアムでは特に経済発展の面から歓迎の声が上がりましたが、すぐに大きな心配も。新たな軍事施設の建設、そして兵士たちが引っ越してくることで島の環境が劇的に変わり、水や電力などの不足が懸念されたのです。
グアム大学 リサリンダ・ナティビダ准教授「基地建設のピーク時は、人口が8万人増加するとみこまれています。これは海兵隊が1万500人の場合ですが、それに家族、契約業者、約2万人の外国人出稼ぎ労働者などが加わると言われています。そうすると、合わせて8万人になるということです」
今も島の土地のおよそ27パーセントが軍の保有下に置かれ、重い基地負担を強いられているグアム。歩んできた歴史は沖縄と似ています。スペインや日本の植民地時代を経て、アメリカの領土になりましたが、今も「準州」という名のもとに、様々な差別的な扱いを受けているのです。そして今…。
グアムは朝鮮戦争やベトナム戦争、そして冷戦期以来の過渡期を迎えています。
グアムの人々は沖縄からの海兵隊移転に揺さぶられています。島の北部には、 海兵隊がマシンガンやライフル、ピストルなどを使って訓練できる巨大な射撃訓練場の建設が計画されていることがわかりました。
サビーナ・ペレス上院議員「これまでもずっとありますが、とくに新しい射爆場については、大きな懸念があります。なぜかというと、聖地としている森に予定されているのです。ここには絶滅危惧種が住んでいます」
しかも予定地は石灰岩の森。地下には、島の飲料水のおよそ80パーセントを供給している帯水層が広がっています。そんな所に、射撃訓練場ができてしまったら水源が汚染されてしまうのでは…。島民の不安は募りますが、アメリカ軍は…。
アメリカ軍「環境保全と軍の任務のバランスをとるのがゴールなんです。グアムに海兵隊が移転するのにあたって、私たちを監督する米国野生生物局などと一緒に進めないといけないのです」
環境への配慮を強調しますが、彼らがとる、いわゆる緩和措置に疑問の声も上がっています。
サビーナ・ペレス上院議員「毎年670万発を撃ち込む計画です。それは鉛や有害化学物質を含んだ弾なんです。軍は5年ごとに、弾を除去する緩和措置をとると言っていますが、それは十分ではありません」
しかもグアムでは、アメリカ軍再編のどさくさに、海兵隊だけでなく、空軍や海軍、陸軍といった4軍全ての強化が進められていることも明らかになりました。
海軍は島の中部にあるアプラ湾に、核も搭載可能な空母が寄港できる港湾施設を整備しているほか、空軍は地球規模の偵察システムの構築を計画しています。
サビーナ・ペレス上院議員「この島に3500年以上住んでいますが、私たちには何も決める権利はないんです。再度検討するように、何度もお願いしていますが、政府はそれに応えてくれません」
当初は2014年までに完了予定だった海兵隊のグアム移転。10年遅れましたが、アメリカ軍は2024年から移転を始め、2026年にも完了させることを明らかにしました。
これが沖縄の基地負担の軽減につながる…。日本政府は歓迎ムードですが、実際のところ、沖縄にはそれと引き換えに巨大軍事基地が。グアムでは海兵隊の移転に便乗し、軍隊の強化が進められています。
軍事的にも主要な地理的状況にあり、 歴史的にも大国に翻弄され続けてきたグアムと沖縄。2つの地域は日本、そしてアメリカ本土から離れた見えない場所で、負担と危険を押し付けられる苦しみを共有しています。
取材した島袋記者です。島袋さん、グアムの状況は、沖縄と似ていますよね。
島袋記者「アメリカ軍基地となっている場所は、元々先住民のチャモロ人が住んでいたところで、それが接収されて、今のような広大な基地が造られたんです。沖縄からの海兵隊移転計画についても、全体像が知らされないまま推し進められている、その構図も沖縄とそっくりだと思います」
それは辺野古とか、高江とも似ていますね。
島袋記者「グアムを見ても、軍事基地というものが、力の弱い側に押し付けられるという構図も見えてきます」
これからグアムへの移転が本格化するということですが、なんだか、負担軽減という言葉で喜べないですよね。
島袋記者「やはり沖縄の基地の負担は減らさなければならないと思いますが、一方で、私たちは日常的に基地被害を知っているからこそ、グアムの人たちの状況を理解できる側面もあると思います。グアムで起きていることもきちんと知ったうえで、協力できることは協力し合いながら、基地問題の解決に取り組めればと思います」