那覇市の桜坂劇場で公開されている話題作についてお伝えします。4月21日から全国で公開が始まり、現在までに5万7000人以上が足を運んだというこの映画。一体、どのような作品なのでしょうか。
観客「本当に笑いごとじゃなく、すごい怖い映画でした。」
観客「感動しました。何だろう。言葉にならないんだけど。」
観客「すごい勉強になりました。戦い方でも。つながっているんだなと。」
その映画とは・・・映画「主戦場」。テーマは日本と韓国を揺さぶる「慰安婦」問題。慰安婦たちは「性奴隷」だったのかだったのか、「強制連行」はあったのか…。多様な顔ぶれが登場し、問題の本質を、あぶり出します。
制作したのは、日系アメリカ人のミキ・デザキ監督です。
デザキ監督「私は本当に、この問題を知らなかったこともあり、なるべく心を開いて、どういう観点から、どういう風にお話されるのか、興味深く聞くことを努めてきました。」
実は、デザキ監督にはユニークな経歴があります。かつて山梨と沖縄の高校で外国語指導助手として勤務する傍ら、ユーチューバーとしていくつかの映像作品を発表していました。彼にとって転機になったのが「日本における人種差別問題」を取り上げた作品。
日系アメリカ人の目に映った日本社会に対する率直な疑問を動画でアップしたところ、顔も名前もわからない人たちからバッシングが相次ぎ、本名や職場、住所までが明かされる危険に晒されたのです。初監督となるこの作品には、ある思いが込められていました。
デザキ監督「(映画では)背景をきちんと説明し、慰安婦問題の情報のギャップを埋めることで、日韓の友人同士が、より建設的な議論ができるのではないかと考えました。憎悪で応酬するのではなく、なぜ韓国の人たちがこのような感情を持つのか、なぜ日本の人たちが、どういう理由でこういうことを言っているのか、穏やかで、建設的な話ができると思いました。」
デザキ監督「(Q.対立する両者の言い分を聞くのは、勇気がいると思いますし、難しい手法だと思いますが?)最初はどんな結論になるのか、わかりませんでした。両者の意見を心を開いて、耳を傾け、分析して、結論を出すプロセスを描きましたが、どちらに転んでも誰かを怒らせます。右側の人たちからだけでなく、左側の人たちからも、たくさん批判を受けています。」
過去の歴史とどう向き合えばいいのか。自分と異なる考えを持っている者同士が互いの利害を超えて、わかり合うことはできないのか。作品の根底にあるもう一つのテーマは、沖縄の人たちがずっと突き付けられてきた課題でもあります。観客からは、こんな意見もあがりました。
観客「学校では中立という名の下に、教師や生徒が、政治について話せない、沖縄なら辺野古に触れられないという雰囲気がまん延しています。若い高校生や大学生にメッセージをおくっていただけたらと思います。」
デザキ監督「まず初めに言いたいのは、これは学生たちのせいではない。学校とか、先生とかが、それを教えない。教えられないという状況があるんです。メッセージを送るというのは難しいことなんですね、学生たちに。学生たちは、この多くの事実を知らないので、何が知らないのかもわからないのにメッセージを送るのは、本当に難しいと思う。大人たち、知っている私たちが、どんどん学校や政府に働きかけて、歴史を教えていく働きかけをしなければなりません。」
タイトルの「主戦場」という言葉にも、深い意味がありました。
デザキ監督「私が「主戦場」という言葉を初めて聞いたのは、いわゆる『歴史修正主義者』と呼ばれる方々の集まりに行った時です。彼らは、アメリカ人の考えを変えることが、世界の考え方を変えることになると。様々な意見が私の頭の中に入ってきて、どちらの意見が私の頭の中で勝つのか。私は映画を見た人たちに、同じ体験をしてほしいと考えるのです。観客の頭の中に両方の意見が入り、頭の中が主戦場になって論争が引き起こされればと思っています。」
日系アメリカ人が見つめた今の日本。国際社会の中で、この国がどんな風に映っているかを提示しています。
この映画に関しては、登場する取材対象者から映画の差し止めを求める訴訟が起こされています。様々な意味でも、論争を巻き起こしている映画です。映画「主戦場」は那覇市の桜坂劇場で上映されています。